オープニングに続く第1部のテーマは「グローバル・ジオポリティクス」。人気ブランド『ZARA』を擁する世界最大のファッションアパレル企業、インディテックス社のパブロ・イスラCEOを迎えて、フィナンシャル・タイムズ編集長ライオネル・バーバー氏がインタビューを行った。
米国トランプ大統領誕生、英国EU離脱、北朝鮮の攻撃的姿勢、中国の拡大など、現在のビジネス環境は過去に例をみないほどの不確実な状況となっている。こうした地政学的リスクに対して、日本企業のビジネスリーダーはどのように向き合うべきなのか。IEビジネススクール教授フェルナンド・フェルナンデス氏とフィナンシャル・タイムズ米国編集長のジリアン・テットもパネリストとして参加し、活発な討論が行われた。

第一部 グローバル・ジオポリティクス

フレキシビリティ」で不確実性の時代を生き抜く

パブロ・イスラ インディテックス会長兼CEO

パブロ・イスラインディテックス会長兼CEO

ライオネル・バーバー フィナンシャル・タイムズ編集長

インタビュアー

ライオネル・バーバーフィナンシャル・タイムズ編集長

バーバー今、私たちは破壊の時代、不確実性の時代に生きているといわれます。ここ1年ほどの間に、我々は稀にみる出来事を目の当たりにしてきました。まず、私の母国イギリスが、国民投票によりEU離脱を決定。アメリカでも建国以来240年の歴史を通じて初めて、政治経験も軍事経験も全くない人物が大統領に就任しました。フランスでもわずか39歳の元銀行家が大統領になり、日本でも突如、衆議院が解散して総選挙が行われました。
一方で、今はパラドックスに満ちた時代でもあります。インターネットやスマートフォンにより世界のネットワーク化が進む一方で、世界の分断や非グローバル化も着々と進行しています。そんな中、イスラさんはビジネスマンとして、どのようにリスクを管理なさっているのでしょうか。
イスラ私たちの会社はグローバル・カンパニーで、非常に柔軟性に富んだ会社です。「フレキシビリティ」こそが私たちのビジネスモデルであり、経営のメインテーマでもあります。
たとえば、私たちの会社では、シーズンの商品を早めに仕入れるということはせず、シーズン中にどのような服を作るかを決めて製造・販売しています。これがフレキシビリティであり、私たちのビジネスのすべてに当てはめることができます。
ソーシャルネットワークの発達で、ファッション・トレンドはグローバル化の一途をたどっていますが、私たちは常に状況の変化に適応しています。システムや技術、AI、データアナリティクスなどのテクノロジーを活用しながら、流行の最先端をいくアパレルを、週2回という頻度で世界中の店舗に卸しているのです。一方で、商品は店舗ごとに、必ず地域のニーズを満たすようにしています。たとえば東京でも、渋谷の店と銀座の店とでは並んでいる服が違います。「今日、本部から送られてきた服は、うちの店には合わない」と店長が判断すれば、返品することも可能です。それぞれの店が、地域の客層にマッチした商品を品揃えしているわけです。
このように、我々はグローバル・カンパニーとして、世界規模でフレキシブルな経営を行っています。世界のどこで何が起ころうと、このフレキシビリティを武器に対応していくということ、それが我々のカンパニーの真髄なのです。
バーバーフレキシビリティはとても重要だと思います。イスラさんは、グローバルにビジネスを展開する一方で、地域の現場に自治権を与えておられます。グローバルとローカルが融合した、「グローカル」な経営を実践されているわけですね。
イスラまさにその通りです。ビジネスを国ベースで考えると同時に、店舗ごとにも考えています。その意味では、「グローカル」を地で行っているわけです。
私たちがスペインやポルトガル、モロッコなどの工場で商品を製造しているのも、フレキシビリティを確保するためです。近隣諸国で商品を製造すれば、シーズン中に最新ファッションをどんどん作って、短期間に売り場に投入することができます。ファッション・トレンドはグローバル化しているとはいえ、国や店舗によって好まれる商品は異なるので、顧客の好みをキャッチし、その店ならではの商品の品揃えを行っているのです。

消費者の声を起点としてグローバル・サプライチェーンを構築

消費者の声を起点としてグローバル・サプライチェーンを構築

バーバーところで、中国のサプライヤーにはどの程度、製造を委託しているのですか。
イスラ我々はソーシング(仕入れ)の65%を近隣諸国のスペイン、ポルトガル、モロッコ、トルコで行い、残り35%の仕入れをアジア、つまり中国、ベトナム、カンボジアなどで行っています。
サプライヤーの立地は、わが社の特異なビジネスモデルと密接に関係しています。我々は新しいアパレルを、毎週2回ずつ世界中の店舗に送っています。このため回転率も非常に高く、3~4週間で店の品揃えはそっくり変わってしまいます。それだけのスピードがあるからこそ、質の高い最新ファッションが、手が届く価格で楽しめるわけです。
お客様の声を聞き、「お客様は何を欲しがっているのか」をベースにして、サプライチェーンも作れば商品も仕入れ、物流も組み立てるというのが私たちのやり方です。
バーバーちょっと個人的なことを質問させてください。過去12か月の間に経験したチャレンジのうち、一番厳しかった経験を挙げるとすれば、それは何でしょうか。
イスラそれを特定するのは難しいですね。といっても、その質問に答えたくないわけではありません。
グローバルなカンパニーを経営していると、世界中でさまざまな影響力に直面することになります。また、世界の不確実性も高まる一方で、収益の変動も激しくなっています。こんな世の中ですから、「これが一番厳しかった」ということはなかなか言いにくいのです。
私たちは経営の真髄を失わないよう、常に改善を目指し、お客様との間で体験したことをないがしろにしないようにしています。したがって、我々が常に考えているのは、「お客様が望んでいるものを、どうすれば提供できるか」ということです。現実の一歩先を行き、多国籍の才能豊かな人たちをマネジメントしながら、グローバル・カンパニーを経営するにはどうしたらいいのか。そのことに日々、心を砕いているので、「一番厳しいチャレンジを特定せよ」と言われても無理なのです。

過去の前提が覆された世界でいかに生きるのか

過去の前提が覆された世界でいかに生きるのか

パネリスト: ジリアン・テット / フィナンシャル・タイムズ米国版編集長(写真右から一人目)
フェルナンド・フェルナンデス / IEビジネススクール経済学教授(写真左から一人目)

バーバーこの辺で、フィナンシャル・タイムズ米国版編集長のジリアン・テットさんと、IEビジネススクール経済学教授のフェルナンド・フェルナンデスさんにも参加していただきましょう。まず、ジリアンさんに伺います。今、アメリカの企業人はトランプ政権をどう見ているのでしょうか。
テットリーマン・ショックやマイナス金利導入によって、私たちが経済を考える上で前提としていたことが覆されてしまいました。そして、「アメリカは世界の中でどのように指導力を発揮するべきか」という地政学的な前提もまた、トランプ政権の誕生によって根本から覆されてしまったわけです。その結果、アメリカの経済界は混乱とショックのさなかにあります。
イスラさんのお話にもあったように、現在の経済環境において成功したビジネスモデルを支えているのは、グローバルに統合されたサプライチェーンです。その前提となっているのは、私たちはグローバルに接続された世界に住み、そのコネクティビティはますます高まっていくという認識です。しかし、ホワイトハウスの現状を見ていると、アメリカが「分断」に向かっていることは明らかです。ホワイトハウスには冷静さを期待したいところですが、実際にそうなるかどうかは予測不可能です。
フェルナンデスとはいえ、現状をみるかぎり、アメリカは好景気で株価も上昇しています。今後も2.0~2.5%の経済成長が続いていくのではないかと思います。
トランプ政権の保護主義政策が懸念されていますが、メキシコの元経済相は、「トランプ氏が現職の大統領に就任したら、キャンペーン期間中とは発言の内容が変わるだろう」と言っていました。
別にトランプ大統領の政策を擁護しているわけではないのですが、アメリカの貿易政策は、実はオバマ政権時代からあまり変わっていないのです。オバマ政権時代から、アメリカは米欧FTAの交渉にはあまり乗り気ではありませんでした。口には出さなくとも、アメリカは一貫して米国第一でやってきたわけです。同じことをヨーロッパで実践しているのが、フランスのマクロン大統領です。トランプ政権の貿易政策も、従来の政権と比べて、それほど大きな違いはないと思います。
バーバーいろいろ興味深いお話を伺いましたが、最後にセッションのまとめをさせていただきます。
第1に、イスラさんのお話を伺って、インディテックス社は世界有数の強靭性を持つ企業だということがよくわかりました。景気がどうであれ、グローバル・サプライチェーンをしっかりと管理し、高度なAIやソフトウェアを駆使し、常に消費者を第一に考えながら事業を展開されています。その意味では、非常にレジリエンシーが高い会社だと思います。
第2に、私たちは今、過去の前提がすっかり覆されてしまった世界で生きているということです。アメリカは70年にわたってヨーロッパの安全保障を支え、自由貿易体制を保証していました。もちろん、時には「アメリカ第一主義」という批判にさらされることもありましたが、今のように世界の貿易体制を破壊するような行動に出ることはなかったわけです。
第3点として申し上げたいのは、「消費者パワー」がもたらす影響についてです。消費者は質の高いコト経験を求めています。だから、iPhoneが世界のどこで製造されようと、iPhoneでさえあればいいわけです。こうした消費者の声、消費者パワーは、最終的に政治にも影響を与えるのでしょうか、それとも移民反対や主義主張のほうが支配的になってしまうのでしょうか。
今後、世界がどちらの方向に向かうかはわかりませんが、はっきりしているのは、我々に馴染みのある世界が、今まさに変化しつつあるということです。どうもありがとうございました。

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