第2部のテーマは、「デジタル・トランスフォーメーション」。この分野で先進的な取り組みを進めるコニカミノルタ社CEOの山名昌衛氏を迎え、フィナンシャル・タイムズ寄稿編集者のマイケル・スカピンカー氏がインタビューを行った。従来の事業のあり方に大きな変革を迫るデジタル技術の飛躍的発展に、日本企業はどのように対処していくべきか。セッション後半ではパネリストのフェルナンド・フェルナンデス氏とジリアン・テット氏も参加し、会場の参加者からの質疑応答も交えて、熱のこもった議論が交わされていた。

第二部 デジタル・トランスフォーメーション

創造的破壊こそが企業に成長をもたらす

山名昌衛 コニカミノルタ社代表執行役社長兼CEO

山名昌衛コニカミノルタ社代表執行役社長兼CEO

マイケル・スカピンカー フィナンシャル・タイムズ寄稿編集者・コラムニスト

インタビュアー

マイケル・スカピンカーフィナンシャル・タイムズ寄稿編集者・コラムニスト

スカピンカーインターネットやスマートフォン、SNSの登場により、ビジネスのやり方は全く変わってしまいました。コニカミノルタという社名から「カメラ」を連想する人も多いと思いますが、その後、ビジネスモデルを大きく変革されたと伺っています。今、最も重要なビジネス分野は何でしょうか。
山名コニカミノルタは2003年、カメラを主力事業とするコニカとミノルタの統合によって誕生した会社です。当時、写真ビジネスの連結売上はレベニューの3分の1を占めていたのですが、2006年にこの分野から完全に撤退しました。現在はB2Bビジネスが中心で、150か国に進出しており、オフィスソリューションや産業用プロダクション・プリンティング、ヘルスケアなどの分野に注力しています。
私たちは伝統的な日本のメーカーであり、5年前までは製品志向型の企業でした。しかし、3、4年前にビジネスモデルを変革し、機器単体ではなくソフトウェアやサービスも含めたトータル・ソリューションの提供を始めました。お客様のニーズを起点としてソリューションを提供する方向に舵を切ったわけです。
私たちにとって最も重要なのは、「デジタル・トランスフォーメーションによってお客様の変革を支援していくこと」です。しかし、それを実現するためには、まず社内で数多くの変革を起こし、ビジネスの仕方も変えていく必要があります。
スカピンカーでは、具体的な例についてお聞かせください。たとえばヘルスケアの分野では、どのようにしてデジタル技術を患者さんのために役立てることができるのでしょうか。
山名今、日本では高齢化が急速に進行しています。私たちは3年前に介護ソリューションの検討を始めたのですが、当初のアイデアは、「高齢者の方たちにボディ・センサーを付けてもらい、遠隔操作をするためのヘルスケアセンターを作る」というものでした。そこで、介護士のワークフローを学ぶため、エンジニアを3か月間ケアサポート施設に派遣したのですが、そのエンジニアがこう言うのです。
「山名さん、高齢者の方たちにボディ・センサーを付けることは、あきらめたほうがいいと思います。その代りに我々がやるべきことは、介護士のためのケアサポート・システムを開発することです」と。
介護士の皆さんは24時間体制で、ナースコールが鳴るたびに何度も階段を上り下りし、入居者の部屋を訪ねて「どうしましたか」と尋ねます。時間のロスも多く、作業負担も相当なものですから、介護士の方々の仕事をサポートするためにデジタル技術を使うべきだ、と彼は考えたわけです。
そこで、私たちはICTで介護ワークフローを変革する「ケアサポートソリューション」を開発しました。このシステムでは、ケア施設の居室に設置したインテリジェントカメラで入居者の状態をモニタリングし、遠隔操作で心拍数などを測ることもできます。そして、ディープランニング(深層学習)により状況を把握し、もし入居者に異変があれば、介護士さんのスマートフォンにアラームを出すわけです。このソリューションによって、介護士の方々の仕事の35%を削減することができました。

イノベーションを生み出すため外部人材を活用

イノベーションを生み出すため外部人材を活用

スカピンカー体にセンサーをつけなくても、カメラさえあれば心拍数まで見てくれるというのは素晴らしいですね。ところで、デジタルの世界では、スマートデバイスやAI、ビッグデータといった新しいテクノロジーが次々に登場します。こうした新しい技術をどのように管理されているのですか。
山名私にとって、デジタル技術の重要な点は「コネクティビティ(接続性)」です。このコネクティビティがあるからこそ、さまざまな製品やソフトウェア、サービスが相互に結びついて、新しい価値を生み出すことができるのです。私は、イノベーションとは個々の技術ではなく、「いかに新しい価値を生み出し、ビジネス社会にいかに貢献できるか」だと考えています。
スカピンカー御社には5つのイノベーションセンターがあるそうですが、これらの施設を拠点として、どのようなイノベーションを創り出しておられるのですか。
山名コニカミノルタのビジネスの80%は国外にあり、このうち70%が欧米からのビジネスです。イノベーションセンターの立地もマーケットに近いところにあり、ロンドン、シリコンバレー、シンガポール、上海、東京の5か所にあります。
重要なことは、各センターのトップを除くスタッフの全員が、コニカミノルタでの勤務経験がなく、当社のカルチャーやテクノロジーを知らない人たちだということです。では、なぜ社内の人材を活用しなかったというと、「日本の伝統的な文化を背負ったエンジニアからは、真のイノベーションは生まれない」と考えたからです。
日本のエンジニアは、「〇〇研究所はこれが成長分野だといっている、どうしたらそこからレベニューを上げることができるか」という話を、50枚のスライドを使って会議室で説明します。しかし、その内容といえば技術の話ばかりで、そこには現場からの洞察というものが全くありません。お客様が直面しているニーズというものが全然わかっていないのです。
こうした企業文化の中からイノベーションは生まれないと痛感し、私は新しいビジネスを日本発で生み出すことはあきらめました。そして、会社のカルチャーを完全に変えようと決め、マーケットに近いところにイノベーションセンターを作ったのです。なぜ、そのような経営判断を下したかというと、イノベーションを起こすためには、お客様の経験を知るエキスパートが、マーケットに近いところでビジネスを開拓していく必要があるからです。
また、私たちはスタートアップ企業とも関係を持っています。なぜなら、スタートアップ企業は日本のメーカーとは比較にならないほどのスピード感を持っているからです。それに、日本人は包括的なコラボレーションが苦手なので、エコシステムを作ることがなかなかできません。こうした諸々の理由から、イノベーションセンターでは外部の人材を活用することにしたのです。
スカピンカーデジタル時代のリーダーシップは、どうあるべきだと思われますか。
山名社会価値として何が創造できるか、という視点からビジネスを考えることが重要です。その1つの例についてお話ししましょう。
最近、コニカミノルタが注力している分野の1つに、「プレシジョン・メディシン(精密医療)」があります。コニカミノルタは過去に写真ビジネスを通じて、ナノ粒子を蛍光で作る技術を開発しました。これをデジタル技術と組み合わせれば、がん患者さんのたんぱく質の位置と量を正確に測定することができます。つまり、患者さんのがんがどんな種類と大きさで、体内のどこに発生しているのかが一目瞭然でわかるわけです。
この新しい技術を応用すれば、患者さん1人ひとりが自分の病気に合った最適な治療を選ぶことができるようになります。個別化医療という形で、社会問題の解決に貢献することができるわけです。

組織のサイロ化を打破し「新しい価値」の創造を目指す

組織のサイロ化を打破し「新しい価値」の創造を目指す

パネリスト: ジリアン・テット / フィナンシャル・タイムズ米国版編集長(写真右から一人目)
フェルナンド・フェルナンデス / IEビジネススクール経済学教授(写真左から一人目)

スカピンカーこの技術を使えば、がんの検診がより精緻化できるということですね。この辺で、パネリストにも参加していただきましょう。今、山名さんから個別化医療のお話がありましたが、デジタル時代はヘルスケアにどういう影響を与えるのでしょうか。
テット今は「ジェネレーションZ」の時代だといわれますが、私なら「ジェネレーションC」と名付けます。「ジェネレーション・カスタマイゼーション」、カスタマイズの世代という意味です。
デジタル技術によって、私たちは物事をカスタマイズし、自分の好みに合わせて作り変える能力を獲得しました。これは社会に深遠な変化をもたらしつつあり、特に医療の分野でのカスタム化には素晴らしいものがあります。
カスタム化は消費者にパワーを与え、事業者が顧客に対してテーラーメイドの解決策を提供することを可能にします。カスタム化によって、世界は消費者駆動型の社会へと移行しつつあるわけです。まず「人々が求めるものは何か」と考え、顧客ニーズを起点として「何を作るか」を考えるということが、デジタル技術によって可能になりつつある。このトレンドは始まったばかりで、今後も続いていくと思います。
スカピンカーデジタルトランスフォーメーションを進め、イノベーションを生み出すためには、顧客起点が大前提となるわけですね。それを実現するために、企業はどのような変革を進めるべきなのでしょうか。
テット私は2年前に、『サイロ・エフェクト』という本を書きました。その中で、大企業にとっての問題は、「ある商品が成功を収めると、その商品を作った部門が力を得て組織防衛に走り、サイロ化(タコツボ化)してしまう」ことだと書きました。大企業では、縦割りの組織が互いに競い合い、会社全体が硬直化してしまう傾向があるということです。
たとえば、2000年頃のソニーはソフトウェア、ハードウェア、ミュージックの各部門に分かれ、組織のサイロ化が進んでいました。その結果、外の世界ではハードとソフト、コンテンツの統合が急速に進んでいたにもかかわらず、組織を統合して新しいものを生み出すことができなかったのです。
したがって、企業にとっては、「いかに組織再編できるか」が重要なチャレンジとなります。そのためには、商品カテゴリーを組み直すことも必要になると思いますが、そのような縦割りの壁をつぶすことができるでしょうか。
山名2003年にコニカとミノルタが統合した時、私たちはコニカミノルタ・ホールディングスと事業会社6社を作りました。各事業会社に取締役を置き、R&Dも含めたシェアード・サービス会社としてのホールディングスを作ったわけです。
しかし、私たちは4年前に、ホールディングスと事業会社からなる会社の形態を完全に変え、コニカミノルタという1つの会社にしました。
その理由は、先ほどあなたがおっしゃった通りです。事業会社というのは商品別・技術毎に分かれていますが、もはや「1つの部門が1つの製品を作り、1人のセールスマンが売る」といったやり方が通用する時代ではありません。今は「新しい価値を創る」ことが重要で、それは、縦割りのサイロからは生み出すことができません。このため、セールスやマーケティング、自動化、製造技術などの各機能を、1つのコニカミノルタとして統合したわけです。とはいえ、1つの会社だけでは不十分なので、包括的なエコシステムが必要です。
会場会社をB2CからB2Bに変革なさったということですが、そのためには縦割り組織を破壊しなければならないわけですよね。具体的に、どのようにして縦割りを打破されたのでしょうか。
山名私たちは、6年がかりで60社以上を買収してきました。バーティカルなワークフローの知識を得るためには、業界や新技術の専門家が必要だからです。しかも、個別の技術をコネクトする必要があったので、60社もの企業を買収したわけですが、そのことによって会社のカルチャー自体が変わったのも事実です。
また、コニカミノルタでは6つの価値観を掲げて4万5000人の従業員の間で共有し、ディスカッションをしています。これらの価値観を、日々のビジネスの中で従業員自身が考えることによって、会社のカルチャーを変えようとしているわけです。
フェルナンデス既存のビジネス部門を廃止して組織を再編するには、3つの条件が必要です。1つ目はリーダーシップ、2つ目は将来の見通し、3つ目は十分な財力です。
それなりに財務体質が強くなければ、1つの部署を閉鎖することはできませんし、「これからどこに行きたいか」という見通しもないまま、やみくもに部門を閉鎖しては、会社自体がだめになってしまいます。
たとえばコニカミノルタは、収益の源だった写真ビジネスに見切りをつけ、別の分野に大きく舵を切ったわけですよね。御社の例は、他の企業にとって大変参考になると思います。
スカピンカー今日は、大変大きなテーマについて議論させていただきました。トップクラスの学者やジャーナリスト、CEOが一堂に会したからこそ、素晴らしいシナジー効果が生まれたのだと思います。これこそ、私たちがCLAで実践していることです。本日はありがとうございました。

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