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異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

日経ビジネススクールアジア特別講座 サシン・セッション(下)

 日本経済新聞社はタイ国立チュラロンコン大学サシン経営管理大学院と提携して9月、タイ・バンコクで「日経ビジネススクールアジア特別講座」の日本人エグゼクティブ向け講座「サシン・セッション1」を開催した。セッションでは、同大学院日本センターの藤岡資正所長が「メコン地域における戦略的人的資源管理」と題して、異文化マネジメントとマネジメント・コントロールシステムについて講義。「異文化マネジメントで大事なのは、自らのものの見方を相対的に理解すること」と指摘した。

■新興アジアに求められるリーダー像とは

タイ国立チュラロンコン大学サシン経営管理大学院 日本センター所長 藤岡資正氏 タイ国立チュラロンコン大学サシン経営管理大学院 日本センター所長 藤岡資正氏

 経営の正解は一つだけでなく無数にあります。「正しい答えか否か」ではなく、「正しく問いを立てる」ことが重要です。新興国ビジネスに求められるのは、企業が置かれている文脈を理解して事業環境を構築し、動かしていくリーダーです。では、具体的にどのようなリーダーシップが必要なのでしょうか。

 ある既存研究によると、リーダーに必要な資質とは、「倫理観」「セルフマネジメント」「環境適応」「学習・人を育てながら成長していけるか」「組織内外でつながりを作れるか」の5つであることが示されています。また、グローバル展開に関するマネジメント・コントロールの課題は、求心力と遠心力のバランスをいかに取るかということになります。普遍的なリーダーとしてあげられる属性に関する世界62カ国を調査した研究では、「正直で信頼に値する」「将来を見通した計画を立てる能力」「ポジティブで部下を鼓舞することができる」「コミュニケーションを通じてチームづくりを行うことができること」だというのが明らかにされており、逆にどの国でも「自己防衛的」「独裁的」「怒りやすく非協力的」な属性はリーダーとしてふさわしくないと思われています。

 リーダーに求められる特性をアジアという文脈で捉えた時、その内容はどのように変わるでしょうか。人事管理の研究者である、当校のシリユッパ・ルンレーンスック准教授は「レジリエンス(強靭=きょうじん=性、回復力)」が重要な要素であると論じています。レジリエンスなリーダーとは、変化の激しい新興国ビジネスに求められる、何度でも立ち向かっていける、柔軟性と弾力性を兼ね備えた人材を指します。具体的には体力や感情をコントロールできる高いEQ(心の知能指数)、創造性、リスクマネジメント力、コミュニケーション力などを兼ね備えた人材です。

■企業の価値観が戦略の基軸になる

 経営者の倫理的価値観は、企業の根底に関わる要素です。ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーは資本主義を発展させ、存続せしめる精神的な支柱として「正直・勤勉・節約」を挙げました。世界的な経営学者、ピーター・ドラッカーは経営者に求められる最も重要な資質は品性であると言っています。また、中国の思想家である孔子は、特性を育てるのが人間学であり、知識技術を習得するのが事務学であると説きました。

 リーダーには大局を見極め、チームの力を引き出す能力が求められます。日本企業は現場主義で、部分戦略は得意なのですが、方向をつかむ全体戦略が苦手な傾向にあります。だからこそ、視野を広く、視座を高く持つことが重要です。

 特にメコン地域で事業をしていくには、これまで考えられていたような、地球全体をカバーするグローバル戦略、あるいは点と点(国と国)の関係性を射程とした国際戦略のみではなく、リージョナルという視点が大切になってきます。リージョナル戦略が対象とする空間軸に加えて、時間軸を掛け合わせて事業戦略を考える必要があります。

 当たり前のことを言うようですが、知識がなければ物事を洞察することも、時流に乗ることもできず、事業をどう進めて良いのかさえわかりません。必要最低限の要素として「知識」を獲得したならば、文脈を理解して自ら考える「見識」に変え、さらに実行力を伴う「胆識」に昇華させていく必要があるのです。

 戦略の本質を突き詰めていくと、組織を動かす実行力を伴う、揺るぎない判断が必要になります。一橋大学の野中郁次郎名誉教授は、アジアでは「フロネシス(賢慮、実践的知恵)リーダーシップ」が求められると論じています。美徳や幸福の追求といった絶対価値は、それ自体ではすぐに実務に役立つことがないかもしれませんが、変化の時代においては、空気を主観的に読み取り、前に進めていく価値観が重要になります。

 マネジメントのスタイルは組織によって異なり、異国での経営には文化の違いや、環境適応に求められるスピードが異なりますが、ブレない価値観という基軸があるからこそ、自分たちで判断して行動することができるのです。企業は何のために存在するのか。利益追求の道具なのか。企業としての活動が社会にどのような価値を提供することができるのかという本質的な問いに立ち戻ることが大切です。

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