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映画でTOEICリスニング(国際弁護士 湯浅卓)

決意の言とは/トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

Photo: Hilary Bronwyn Gayle Photo: Hilary Bronwyn Gayle

 最新映画のセリフから、生きた英語のツボを学ぶ「映画でTOEICリスニング」。今回は、表現の自由への弾圧とそれに対する戦いを描くシーンから、言葉に込められた意志の強さを読み取っていきます。

実在した」脚本家の波瀾万丈な人生

©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED ©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 第2次世界大戦後、当時のマッカーシー上院議員の告発をきっかけとした赤狩り(マッカーシズム)が全米を席巻していた時代、表現の自由に関する弾圧と戦い、ハリウッド映画の名作を生み出し続けた実在の名脚本家ダルトン・トランボ。

 今回は、そんな彼の波瀾万丈な人生を描き、「事実は小説より奇なり」を地で行く映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」の名セリフと、ジョン・F・ケネディ大統領の1961年の名言を取り上げます。

驚くほど雄弁なジョン・ウエイン

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 映画をめぐる論争。そうした環境に長年トランボはいましたが、マッカーシズムの流れは、そうした意見対立を別次元のものへと変質させていきます。その論客のひとりが、かの有名なジョン・ウェインでした。西部劇スターのジョンは、いざというときまでは寡黙な役柄を演じることで有名でしたが、個人として演説し出すと驚くほど雄弁です。

 司会者に紹介され、演台に立ったジョン・ウェイン。トランボたちを震撼させる演説は、次のような簡略な英語フレーズから始まります。

I wanna say one thing about a place I love. No, not Hollywood. I like Hollywood, but I love America.
(私は、私が愛する場所についてひとつ言っておきたい。いやハリウッドのことじゃない。確かにハリウッドは好きだが、アメリカを愛しているんだ)

 英語のスピーチには「大勢を相手にしていても1人に話すようにしゃべれ!」という鉄則がありますが、ジョンの英語はまさにそれです。さらには、会場にいる人々の気持ちをつかもうとする大胆さも感じられます。ハリウッドに対する気持ちを「愛(ラブ)」ではなく「好き(ライク)」で済ませてしまうところは、他の俳優なら物議をかもすかもしれません。シンプルな英語のなかに意外性がある鮮やかな修辞法(レトリック)です。

家族も苦しめる厳しい弾圧

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 トランボは、ハリウッドがある西海岸で長年、脚本を書いてきましたが、公聴会や裁判のために東海岸のワシントンに赴く機会も増えてきました。日増しに激しさを増す表現の自由に対する規制や締め付けは、トランボだけでなく彼の家族も苦しめます。幼い長女二コラは、徹夜明けで仕事をしているトランボのところに来てこう言います。

I thought you weren't allowed to write anymore.
(お父さんはもう仕事をできないとばかり思ってたけど)

 世間の圧力で脚本を書くことができなくなっているのではないかと心配する二コラ。それに対してトランボはありのままを答えます。

Ah. No. No, just not allowed to put my name on it, or get paid.
(ああ、そのことなら違う。違うのさ、できないのは「名前を載せられない」あるいは「お金を支払ってもらえない」ってことさ)

 幼い娘が父親の仕事や表現の自由の話に入ってくることを意外に思われるかもしれませんが、個人主義社会であり家族主義であるアメリカではリアルな日常です。たとえば、どんなに仕事が忙しくても、子供との会話の機会を必ず持とうとします。父と娘が表現の自由について語り合う同シーンは、新鮮な感動を与えてくれることでしょう。

ハリウッド史に残る名作「ローマの休日」も

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 さて、ハリウッド史に残る名作の脚本を数多く手掛けているトランボ。そのうちのひとつ「ローマの休日」の脚本もトランボがひとりで書いたものですが、呼び出した友人の脚本家にこう言わせます。

It's funny. It's breezy and romantic. Who wrote it?
(この脚本は面白い。そよ風のように爽やかな快活さがあり、ロマンチックだ。誰が書いたって?)

 そしてトランボは話の核心を切り出します。「お前の著作にしろ」と友人の脚本家に持ちかけるのです。

You stick your name on my labor, hand it in to your studio and we're in business.
(お前の名前を俺の労働に貼り付け、それを映画会社に提出しろ、そうやって俺たちは商売ができるって算段さ)

 友人が「自分もいつ表現の自由の締め付けにあうかわからない」と言うと、トランボは「話を急ごう」と彼を急き立て、分け前の話を切り出します。

Let's sell this little beauty and split the take, 50-50.
(このちょっとした名作を金に換えるんだ、取り分は5分5分の山分けだ)

 トランボの気前の良さに呆れて「俺は10%でいい」と答える友人。そこには、トランボとの関係がばれれば自分も弁護士を雇う費用が必要になるだろうという事情があります。

 しかし、トランボはお見通しでした。

You'll take 20. No, 30! And that's my final offer.
(君は20%、いや30%取るんだ! これが、最終オファーだ)

 通常は、相手が希望する額より下の数字を出して「これ以上はもう無理だからな」というのが一般的ですが、相手の希望額の3倍を出すというのです。ふたりは厚い友情で結ばれているのでした。

ケネディ大統領が放った名言

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 さて以下は、1961年2月に語られたケネディ大統領の名言です。先に述べたジョン・ウェインの演説が1947年ですから、10数年間、トランボは追放されてきたことになります。超多忙のスケジュールの合間をぬって首都ワシントンで、トランボが脚本を書いた映画を観たケネディ大統領にリポーターが尋ねます。

Mr. President, Mr. President, Mr. President! It's a very controversial film. What did you think?
(大統領、大統領、大統領。大きな議論を巻き起こしている映画です。ご覧になったいまのご感想を!)

 大統領はリポーターに近づいて、こう答えます。

Oh, I think it's a fine picture, and I think it's going to be a big hit.
(そう、私の考えでは素晴らしい映画だ、そしてこうも思う。これは大ヒットするぞ)

 この「大ヒットするぞ!」という大統領の言葉が、トランボの最強の援護となっていくのです。トランボが書いた脚本のボイコットを呼びかけていた人々は、このケネディ大統領の名言によって、その意欲をくじかれたのでした。これをきっかけにして時代の流れはトランボ復権へとうねり出します。「ローマの休日」のように「breezy(そよ風のように爽やか)」なケネディ大統領の名言は、表現の自由を守り抜くことに対する決意表明だったのです。

【映画情報】
作品名:トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
原題:TRUMBO
公開:TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開中
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
監督:ジェイ・ローチ
脚本:ジョン・マクナマラ
原作:ブルース・クック
出演:ブライアン・クランストン/ダイアン・レイン/エル・ファニング/ヘレン・ミレン ほか

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決意の言とは/トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

湯浅卓(ゆあさ・たかし)
国際弁護士

 1955年11月24日東京生まれ。港区立白金小学校、麻布中学・高校を経て、東京大学法学部卒業後、UCLA、コロンビア及びハーバードの各法律大学院に学ぶ。国際弁護士としての専門分野はウォール街の銀行法及びIT法の2つだが、ウォール街でのワシントン担当の実務も行う。ワシントンでは複数年にわたり、現地のアメリカ人法律大学院生2年生、3年生の「国際比較法」(4単位)を担当し、英語で授業や試験、採点を行ったこともある。書籍や論稿、並びに政府や地方公共団体、シンクタンクなどでの講演も多数。

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