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映画でTOEICリスニング(国際弁護士 湯浅卓)

ハイフンの有無で意味に違い/教授のおかしな妄想殺人

 今週は、映画の中の会話と米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツのインタビューでの発言を対比させながら、リスニングでは確認しがたいハイフンの有無を聞き取り、意味の違いを把握する実例をご紹介します。

奇想天外の大学教授が登場!

Photo by Sabrina Lantos c 2015 GRAVIER PRODUCTIONS, INC. Photo by Sabrina Lantos c 2015 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

 今回は、名匠ウディ・アレン監督のアメリカ映画「教授のおかしな妄想殺人」から、そのセリフに込められたキーワードを探ります。

 映画の原題は「Irrational Man」で、直訳すれば「不合理な男」という意味です。哲学を教えるために大学のキャンパスにやってきたエイブ教授。その胸中は、ナンセンスのかたまりです。心優しい教え子と恋に落ちますが、彼女から見ても教授の生き様には何ら一貫性がなく、矛盾に満ち満ちています。自分の内心を言葉で覆い隠すという点においては、その言葉の豊かさが秀逸ですが、それ以外では…。

ウディ・アレンの人間的な深みを感じ取ろう

 ウディ・アレンの映画の登場人物といえば、ぎこちない不器用さが特徴ですが、一方で監督自身は、頭脳明晰で運動神経抜群なクールな人物として知られています。こうした点も、映画シナリオの意外性に人間的な深みを与えています。数多くのアクション映画にも出演しているホアキン・フェニックスが演じる、ときにトンチンカンで奇想天外なエイブ教授の姿には、ウディの姿がダブります。

 ところで、まだ世に出ていない若き日のウディを強烈に後押ししたのが、20世紀半ばに大活躍したユーモア作家のエイブ・バロ―ズです。この恩人と同じ名前を教授に命名したのは、ウディの人間的な愛着によるものでしょう。

教授のだらけた態度と好対照の事務アシスタント

 以下は、事務アシスタントによる歓迎の言葉です。エイブ教授をキャンパス内にある宿泊施設(こじんまりしていますが立派な一軒家)に案内します。

 We're all very happy to have you here in the philosophy department.
 (教授に哲学科においでいただき、私たちは皆、心から嬉しく思っております)

 定型的な決まり文句ですが、TOEICの長文リスニング問題で頻出するフレーズです。しっかり把握しておくと得点力がアップするでしょう。非常に歯切れのいい正統派英語発音で、気持ちよくリスニングすることができます。エイブ教授のだらけた態度と好対照です。

 室内に入ると、まずは1階から、それぞれの部屋の配置を、事務アシスタントが矢継ぎ早に解説します。

 Um, right over here is the living room, and there's a little kitchen that way. And there is a little dining room right next to that.
 (ええと、ちょうどここが居間です。そして、あちらに小型の台所があります。その隣が小型のダイニング・ルームとなっています)

 文末にピリオドがあっても(文章は完結していても)続けて説明している点にご注意ください。平叙文であるにもかかわらず、疑問文のように文末のイントネーションを上げて発音しています。このコツをつかんでおくとリスニングの長文問題で役立ちます。

ハイフンの有無の違いは何か?

 各部屋のあらましを説明した事務アシスタントは、こう述べます。

 I think you really love the philosophy department, you know? It's in this old, beautiful part of the campus. And there's a more modern wing, that's got state-of-the-art stuff for science, and computer technology, if you're into that.
 (私は、教授が哲学科をとても気に入ると思っています、でしょ? このキャンパスの由緒ある美しい場所に位置しています。さらに、よりモダンなウイングもございまして、科学やコンピューター技術に向けた最高水準のものが揃っています、先生がその分野にも深くかかわっておいであればと思い、申し上げます)

 「state-of-the-art(技術の最高水準の)」に注目しましょう。日本の大学の教養学部を意味する「arts & sciences」のartsが「人文科学」を指すのに対し(sciencesは自然科学)、「state-of-the-art」のartは「人文科学」ではなく「技術」というニュアンスです。しかも、いわゆる技術よりも学問的な深みのある技術(科学技術)という意味合いを持っています。

 上記のセリフでは「state-of-the-art」が形容詞として用いられていますが、一方でハイフンのない「state of the art」は、「the state of the art」の形で、名詞として用いられることも多くあり、いずれもTOEIC頻出表現です。

 ここで、ハイフンが入る場合と入らない場合を整理しておきましょう。名詞の場合は、原則として、ハイフンが入りません。また、形容詞の場合も、上記の文章のように直後に名詞を伴う場合のみ、ハイフンを用いるのが、一般です。

ビル・ゲイツの発言に見る名詞用法

 その名詞での用法(ハイフン無し)を、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツの2015年のインタビューで見てみましょう。

 Since World War II, U.S. government R&D has defined the state of the art in almost every area.
 (第2次世界大戦以来、アメリカ政府のR&Dは、ほとんどあらゆる領域で技術の最高水準を定義してきているといってよい)

 R&Dは「research and development(研究開発)」の略です。日本では歴史的に民間よりも官が強大な力を持っていますが、アメリカはその逆で、官より民間のほうが格上とされる場合が伝統的に多くあります。ここでは、民間の代表でありIT革命の牽引者として著名なビルが、アメリカ政府によるR&Dの成果を褒め称えているという点に大きな意味があります。この切れ味鋭い英語を使いこなすことができれば、今日からあなたも、世界のビジネス・エグゼクティブです。

【映画情報】
作品名:教授のおかしな妄想殺人
原題:Irrational Man
2015年/アメリカ/英語/95分/日本語字幕:石田泰子 2015年カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門正式出品
公開:全国公開中
配給:ロングライド
提供:KADOKAWA、ロングライド
監督:ウディ・アレン
出演:ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー 他

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ハイフンの有無で意味に違い/教授のおかしな妄想殺人

湯浅卓(ゆあさ・たかし)
国際弁護士

 1955年11月24日東京生まれ。港区立白金小学校、麻布中学・高校を経て、東京大学法学部卒業後、UCLA、コロンビア及びハーバードの各法律大学院に学ぶ。国際弁護士としての専門分野はウォール街の銀行法及びIT法の2つだが、ウォール街でのワシントン担当の実務も行う。ワシントンでは複数年にわたり、現地のアメリカ人法律大学院生2年生、3年生の「国際比較法」(4単位)を担当し、英語で授業や試験、採点を行ったこともある。書籍や論稿、並びに政府や地方公共団体、シンクタンクなどでの講演も多数。

 TOEICは、アメリカの名門、Educational Testing Service(ETS)の登録商標です。本連載では、『TOEICテスト新公式問題集』(国際ビジネスコミュニケーション協会)を推奨します。

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