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映画でTOEICリスニング(国際弁護士 湯浅卓)

FBI会議英語のエッセンスをつかめ!/ボーダーライン

 いよいよ予備選が佳境を迎えている米大統領選挙。日本の将来を考える意味でも目が離せません。
 さて、映画を見ながらTOEICにリスニング力を強化する「映画でTOEICリスニング」。連載4回目の教材は、その大統領選でも話題に上った映画「ボーダーライン」です。

トランプ発言がきっかけで話題になった映画

(C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved. (C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 ドナルド・トランプ候補によるアメリカ大統領選予備選での問題発言のひとつ「メキシコとの国境に壁をつくる」をきっかけに、全米で話題になった映画をご存知でしょうか。FBIと麻薬組織の攻防を描いたアメリカ映画「ボーダーライン」です。

 原題は「Sicario」で、その意味はスペイン語で「ヒットマン」。主人公のFBI女性捜査官ケイトを名優エミリー・ブラントが演じ、アカデミー助演男優賞受賞歴のある名優ベニチオ・デル・トロと、アカデミー助演男優賞ノミネート歴のあるジョシュ・ブローリンが、その脇を固める凄腕役として共演しています。

聞きどころはFBIの会議英語

 聞きどころは、ケイトとその上官ジェニングスの「会議英語」です。

(C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP (C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP

 正義感あふれるFBI捜査官のケイトはアメリカ南部アリゾナ州で人質救出作戦を実行し、銃撃してきた犯人を正当防衛で射殺しますが、事後処理をしている最中に負傷、チームに加わっていた警察官たちも命を落としてしまいます。

 そんなケイトに白羽の矢を立て「メキシコ麻薬カルテル捜査・合同特別チーム」への参加を促そうとする、いわくありげに「国防総省関係の男」として振る舞うマット・グレイヴァー。くれぐれも慎重に判断するよう上官のジェニングスはアドバイスするのですが、仲間の警察官を失った責任感からケイトは参加を志願します。

 ところが、マットたちのやり方ときたら……。戦争以外の何物でもないその手法にケイトは愕然とします。また、特別チームのメンバーの中軸として重きをなすアレハンドロは、誰が見ても怪しげな人物です。不信感を強めたケイトは意を決して本来の上官であるジェニングスに相談しますが、予想外の返事が返ってきました。それが次のセリフです。

 Kate, this isn't something that I dreamed up myself. I don't have the authority to hire advisors or authorize joint agency missions, or fly agent from air force bases. Are you understanding me? These decisions are made far from here by officials elected to office, not appointed to them.
 (ケイト、これは私が考えたことじゃない。私には、顧問を雇ったり、合同政府機関任務を許可したり、空軍基地からの飛行をエージェントに許可したりするといった権限などない。私の言うことがわかるか。いずれの決定も、私なんかのレベルじゃない、もっとずっと上、選挙で選ばれた公職にある人たちから下されたのであって、彼らから任命された役人たちじゃないんだ)

会議英語は「動詞」がカギ【今週の鉄則】

 なかでも、真摯にホンネを語る次の一文に注目しましょう。thatは関係代名詞なので弱く発音され、次のIと連なって発音されます。Iの後に動詞が来ることはリスニングでも予想できます。

 Kate, this isn't something that I dreamed up myself.
 (ケイト、これは私が考えたことじゃない)

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 会議英語も、TOEICのリスニング問題によく出ます。そして、会議英語を聞くときのポイントが「動詞」です。「英語で主張する際には動詞の選び方が大切」というのが欧米の常識だからです。

 上記の一文で用いられたdreamed upは「(非常に奇抜なアイデアを)思いつく、考え出す」という意味の動詞句で、dreamは他動詞です。さらにアメリカではdream upに「でっちあげる」という意味もあり、上記のセリフには両方の意味が込められています。

悪夢のシナリオを意味するsomething

 加えて、なぜ彼がdream upという動詞句を選んだかに注目しましょう。そこには、この映画の真の見どころが隠されています。

(C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP (C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP

 というのも、誰が見ても怪しげな人物のアレハンドロは「元法律家」という設定ですが、常人技でないその射撃の正確さから、実は検察官の仕事だけでなく現場で麻薬カルテルとの銃撃戦にも参加していたのではないかとか、あるいは、ありえない架空のシナリオですが、彼自身がヒットマンだったのではないかなどと「まったく別の物語」を想起させられるほどだからです。そんな複雑なシナリオ(scenario)こそ、本作の真の見どころです(原題Sicarioとscenarioの綴りも似ています)。

 not something that I dreamed up(私が考えたことじゃない)と言わしめたsomethingは、ケイトやジェニングス、さらにはアレハンドロをはじめとするすべての登場人物にとっての「悪夢のシナリオ(a nightmare scenario)」であり、映画のなかでは、すべての登場人物にとっての悪夢のシナリオが重なり合っています。まさに、ひねりにひねったかたちで善と悪のボーダーラインが交差する完成度の高い映画です。

カナダ英語の発音を学ぶチャンス

 ちなみに、somethingをa nightmare scenarioに置き換えたフレーズ「dreamed up a nightmare scenario(悪夢のシナリオを考え出した)」は、二重表現でありながら文法的に正しいドンピシャ表現の「sing a song(歌を歌う)」と同じくらい、ハリウッド的にはぴったり当てはまる超クールな表現です。

 また、「that I dreamed up myself」の発音をカタカナ英語で表すと次のとおりです。

 that I dreamed up myself
 (THァT・アィ・DRイーMD・ァP・MァィSエLF)

 ジェニングス役のヴィクター・ガーバーはカナダ出身の俳優ですが、カナダ英語発音のリスニング問題もTOEICによく出ます。このシーンは、そんなカナダ英語に触れる格好のリスニング教材です。

壁をつくっても問題は解決しない

(C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP (C) 2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved./Richard Foreman Jr. SMPSP

 最後に、なぜこの映画がトランプ氏の問題発言と絡んで全米で注目されたのかにも触れておきましょう。

 その理由も、今回取り上げたジェニングスのセリフにあります。「選挙で選ばれた公職にある人物たち」として示唆しているなかには、映画のシナリオからいって、おそらく大統領クラスの人物が含まれると論理的に解釈できるからです。

 この映画が「密輸トンネル」の話を描いていることも、「壁をつくる」発言の矛盾を示しています。いくら壁をつくっても、国際麻薬カルテルの闇を暴き、密輸トンネルを封鎖することにはならないからです。

【映画情報】
作品名:ボーダーライン
公開:角川シネマ有楽町ほか全国公開中
配給:KADOKAWA
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:テイラー・シェリダン
撮影監督:ロジャー・ディーキンス
出演:エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン 他

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FBI会議英語のエッセンスをつかめ!/ボーダーライン

湯浅卓(ゆあさ・たかし)
国際弁護士

 1955年11月24日東京生まれ。港区立白金小学校、麻布中学・高校を経て、東京大学法学部卒業後、UCLA、コロンビア及びハーバードの各法律大学院に学ぶ。国際弁護士としての専門分野はウォール街の銀行法及びIT法の2つだが、ウォール街でのワシントン担当の実務も行う。ワシントンでは複数年にわたり、現地のアメリカ人法律大学院生2年生、3年生の「国際比較法」(4単位)を担当し、英語で授業や試験、採点を行ったこともある。書籍や論稿、並びに政府や地方公共団体、シンクタンクなどでの講演も多数。

 TOEICは、アメリカの名門、Educational Testing Service(ETS)の登録商標です。本連載では、『TOEICテスト新公式問題集』(国際ビジネスコミュニケーション協会)を推奨します。

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