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龍馬の参謀力

日本の属国化回避は、龍馬の「ゼロベース思考」から! (西村克己)

 私たちは対前年比で事業計画を立てることに慣れていますが、本当にそれでいいのでしょうか。対前年比で考えていると、「過去の過ちを拡大させる」「新しい挑戦に目をつむる」ことになります。米経営学者ピーター・ドラッカーは「きょう最も成功している製品は、あすには早くも陳腐化する」「成功したのと同じ貢献を続けていたのでは失敗する」と警鐘を鳴らしています。閉塞感を打破するためには、制約条件を外して新しい解決策を見いだすゼロベース思考が不可欠です。

 私たちは今までの惰性や延長線上で考える積み上げ式の習慣が身に付いています。今まで通りのほうが大きな間違いがないため、何となく安心感を覚えます。

日本の属国化回避は、龍馬の「ゼロベース思考」から! (西村克己)

 しかし、積み上げ式思考で対前年度方式を繰り返していたのでは、何年たっても現状を打破することが困難です。そうした状況から抜け出すための手法として、ゼロベース思考があります。既成概念を外して大きく枠を広げ、可能性を追求する考え方です。

 龍馬は新しい日本のビジョンとして、今までの延長線上の武家社会を考えていたわけではありません。そのため、幕府支援はもとより、公武合体や尊王攘夷にもこだわりませんでした。今までの延長線上ではない、米国の民主主義(船長、政治の代表者などを投票で決める)を目指していたのです。龍馬の考え方は、まさにゼロベース思考だったのです。

 いくら努力しても成果が出ないとき、絶望の壁にぶつかり行き詰まったときには、ゼロベース思考をお勧めします。たとえば、薩長が第一次幕長戦争(第一次長州征伐)の怨念で対立していたら、薩長同盟は成り立ちませんでした。薩長同盟は、過去の恨みを捨てることから始める必要があったのです。

 龍馬は土佐藩ではなく、薩摩藩で亀山社中を設立しています。亀山社中が薩摩藩であることが、薩長同盟の一助となっています。もしこれが土佐藩だったら、薩長間の信頼の大前提となる薩長経済交易は実現不可能だったでしょう。

 龍馬はキーパーソン探しでもゼロベース思考をしています。身分の高さを鼻にかけるとか、役職にあぐらをかいて守りに入っている人、また汚職でお金もうけしか考えていない人たちとの接触を回避しています。一方、この人はというキーパーソンには、とことん考えを聞き、パートナーシップを築いています。私利私欲に翻弄されず、日本の尺度で、日本の将来を真剣に考えている人たちです。

 龍馬の関心の1つは、強い日本を作るためにどうするかでした。当時の常識では、強い藩を作る方法として、新田開発や特産品を増やすことが重視されました。しかしそれは鎖国と農林業を前提とした発想でした。これでは高い文明と最新鋭の武器を持った諸外国と対等にやっていけるはずがありません。開国はすなわち諸外国の属国化を意味していました。

 龍馬が考えたのは、諸外国との対等な関係での開国でした。船中八策では、「六策 海軍宜シク拡張スベキ事」と、第6策に海軍の拡張を提案しています。「七策 御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守護セシムベキ事」と、第7策に首都を守ることを提案しています。そして「八策  金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事」と、第8策に海外との金銀の交換比率を平等にすることを提案しています。日本の属国化を回避しようとする気持ちが込められていました。

 「悪貨は良貨を駆逐する」とはいいますが、幕臣や各藩に私利私欲を追求する悪貨が多い中、わずかな良貨のネットワーク、それが龍馬を取り巻くキーパーソンだったのです。

「龍馬の参謀力」は水曜更新です。次回は6月15日の予定です。

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日本の属国化回避は、龍馬の「ゼロベース思考」から! (西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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