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龍馬の参謀力

坂本龍馬の「構想力」と日本企業が勝てない理由(西村克己)

 日本企業は、技術で勝って経営で負けるのか? モノ不足の時代には、高度な製品を作る技術力で差が付きました。しかし、技術による差別化が難しくなると、技術力(兵力)を使いこなす軍師の優劣が勝敗を分ける時代になったのです。トップが間違った戦略を立てれば、兵が強くても軍は全滅します。今の日本企業に欠けている能力は軍師力、つまり参謀力です。参謀力とは、組織を有利に戦わせるための作戦や計画を立てて勝利に導く力です。

歴史でひもとく龍馬の「構想力」

坂本龍馬の「構想力」と日本企業が勝てない理由(西村克己)

 龍馬が生きた時代は、まさに将来が見通せない時代でした。今回は、龍馬が構想力(シナリオプラニング力)を不可欠とした時代背景をご紹介します。

 1836年、坂本龍馬は土佐藩の厳しい身分制度の中で生まれました。武士は上士と下士に分かれていましたが、龍馬が生まれた才谷屋の分家は下士でした。才谷屋は、質屋、仕送り屋、貿易などを行う商人です。

 53年、龍馬19歳の時、藩の許可を得て江戸に剣術留学し、北進一刀流の千葉貞吉(千葉周作の弟)の道場へ入門します。同年6月、江戸湾浦賀沖に東インド艦隊のペリーが率いる黒船が現れ、開国を促しました。龍馬は黒船と大砲の轟(とどろ)きを自分の目でみて、攘夷(外国を追い払う)が無理であることに気づきます。

 翌年、龍馬は土佐に戻ると、漂巽紀略(ひょう そんきりゃく。ジョン万次郎の米国経験を事情聴取した記録)によって、米国の文明や軍事力の高さを知ります。そして、日本が海外と対等に貿易できる新しいシナリオプラニングの重要性に気づくのです。

 62年、龍馬は土佐勤王党を結成した武市半平太(瑞山)の使いで、萩の久坂玄瑞を訪ねます。龍馬が長州藩との人脈を築く機会になりました。玄瑞との会談で、藩の枠内では何もできないことを悟り、土佐藩を脱藩しています。

 同年、千葉道場の塾頭の紹介で、勝海舟との面談が実現します。海舟からは、世界の大きさを知ります。小さな国の日本が世界で生き抜くためには、航海術や貿易が重要だと教えられ、その場で門人となります。その後、海舟が神戸につくった海軍塾で塾頭となり、航海術を教えました。

坂本龍馬の「構想力」と日本企業が勝てない理由(西村克己)

 64年、海舟が幕府の軍艦奉行を罷免されると、海軍塾は閉鎖されます。海運技術を高く評価した薩摩藩は、西郷隆盛の計らいで、海運商社の「亀山社中」を設立することができました。

 龍馬はこのころ、貿易立国のシナリオを描いていました。そのために亀山社中を設立し、300トンの木造蒸気船、ユニオン号を手に入れます。このユニオン号を使って、薩長経済同盟を実現したのです。薩摩藩名義で最新武器を買い、長州藩に送ります。長州藩は薩摩藩に米を提供し、薩摩藩のお腹を満たしたのです。

 第一次幕長戦争で対立していたはずの薩長の関係は良好になり、66年1月22日、不可能とされていた薩長同盟が成立しました。

 薩摩藩と長州藩が天下をうかがうなか、土佐藩の存在感が希薄になっていきます。67年、薩長同盟の役目を終えた亀山社中は解散し、土佐海援隊に引き継がれます。土佐藩は亀山社中の海運ノウハウと人材を、海援隊は権威、信用、資金を得ることができました。

 土佐藩は天下での存在感を高めるため、龍馬が土佐帆船「夕顔丸」で作成した「船中八策」(大政奉還案)を利用しました。「船中八策」は、後藤象二郎(土佐藩大観察)から山内容堂(土佐藩主)を経て幕府に提出され、同年の11月14日、大政奉還が実現するのです。まさに龍馬が描いた新しい時代のビジョンが実現した瞬間でした。

「龍馬の参謀力」は毎週水曜更新です。次回は4月20日の予定です。

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坂本龍馬の「構想力」と日本企業が勝てない理由(西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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