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龍馬の参謀力

龍馬はなぜ天誅を嫌ったのか? ビジョン実現に向けて(西村克己)

 龍馬は、信じられるキーパーソンを味方に取り込むことが非常に上手でした。そしてキーパーソンでない人を事前に回避することにもたけていました。たとえば、土佐藩主の山内容堂とは一線を画しています。容堂は藩主としては優秀で、幕府内でも重鎮の一人でしたが、身分で人物を評価する傾向が強かったのです。龍馬にとっては、たとえ高い能力があっても、「自由で平等な日本を作る」というビジョンにおいて、キーパーソンといえる存在にはなりえませんでした。

 身分で判断せず、人物本位でキーパーソンを判断することが、龍馬の天性の1つでした。そして、一度信用したら、裏切られても相手を責めないことも徹底していました。亀山社中での運営も権限委譲しています。逆に海難事故にあったときには、龍馬が自ら裁判を引き受け、紀州藩に勝訴しています。

龍馬はなぜ天誅を嫌ったのか? ビジョン実現に向けて(西村克己)

 龍馬は天誅(てんちゅう。天に代わって罰を与えること、天罰として人を殺すこと)を嫌っていました。土佐親王党の武市半平太が、土佐藩の参政、吉田東洋の天誅を計画したときも、龍馬は反対しています。ちなみに、龍馬が28歳で脱藩した約2週間後に、東洋は暗殺されました。龍馬が犯人ではないかという疑いがかけられたようです。実際に暗殺を実行したのは、“人斬り以蔵”の異名を持つ、土佐親王党の岡田以蔵ほか3人といわれています。

 龍馬は、「天誅で改革した前例はない」と断言しています。天誅を企てた武市半平太に苦言を呈しましたが、聞き入れてもらえませんでした。時を同じくして土佐藩を脱藩し、土佐親王党を離党しています。

 龍馬は失敗しても、人を責めませんでした。「人間だから失敗はある」という寛容な姿勢からは、龍馬が人間の真の姿、あるべき姿(自由と平等)を理解していた一面がうかがえます。失敗した過去を責めず、どうすれば解決できるかを随所で考えていました。

 また、身分制度をなくすためには、高い身分にあぐらをかいている人を天誅で排除しても何も変わらないことを理解していました。自由で上下関係のない社会をめざすためには、「人を憎まず仕組みを正す」ことが必要であると理解していたのです。

 ジョン万次郎こと中浜万次郎の事情聴取で書かれた「漂巽紀略(ひょうそんきりゃく)」は、龍馬の日本の将来ビジョン形成に大きな影響を与えました。選挙で代表者を選ぶ米国の制度こそ、自由と平等の国の象徴だったのです。

 どうすれば龍馬のように、寛容な人になれるのでしょうか。1つめは、大きなビジョンを持つことです。2つめは、小さなことにくよくよしないことです。

 自分自身を振り返ってみたとき、この2つはどうでしょうか。自分自身にとってビジョン(展望)とは何でしょうか。日ごろから、小さいことにくよくよしすぎていないでしょうか。ちっと立ち止まって、自問自答してみるのも面白いかもしれません。たとえば、自分自身にとってのビジョンは、「10年後までに住宅ローンを完済して家計を豊かにする」でもよいかもしれないのです。

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龍馬はなぜ天誅を嫌ったのか? ビジョン実現に向けて(西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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