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龍馬の参謀力

龍馬の人心掌握術~幕末の要人の懐にどう飛び込んだのか?(西村克己)

 役に立つ人脈を考えるとき、大きく分けて2種類の人がいます。1つめは、身分や役職で人を判断する人です。2つめは、身分や役職に関わらず相手の話を聞き、相手の能力を見極められる人です。現在もそうですが、幕末の時代にも、圧倒的に前者が多くいました。しかしキーパーソンは、後者である必要があります。龍馬は、キーパーソンの人脈開発力に優れていました。

龍馬の人心掌握術~幕末の要人の懐にどう飛び込んだのか?(西村克己)

 龍馬はキーパーソンを見つけることが非常に上手でした。キーパーソンを見つける方法は、大きく分けて2つあります。1つは世論や知人から情報を集めて、キーパーソンが誰かを判断することです。2つめは、直接会って、本音で議論して日本の将来を担っていける人かどうかを冷静に分析することです。

 龍馬は幕府、長州藩、薩摩藩、土佐藩のキーパーソンが誰かを見極めていました。幕府のキーパーソンは、越前福井藩主の松平春嶽と軍艦奉行の勝海舟でした。龍馬が神戸海軍操練所で航海術を身に付けられたのは、松平春嶽の後方支援と、勝海舟の直接的な支援があったからです。龍馬にはそれぞれのキーパーソンの役割と権限範囲を十分理解して行動していた形跡がうかがえます。

 ここで龍馬を取り巻くキーパーソンのネットワークを整理しておきましょう。幕府、薩摩藩、長州藩、土佐藩につながる4つのネットワークがポイントになります。

 幕府のネットワークの始まりは、千葉貞吉道場の塾頭、千葉重太郎の紹介状です。松平春嶽への紹介状を書いてもらい、海防論を語ったといいます。春嶽は幕府への発言権が大きい四賢侯(しけんこう)の1人であったため、幕府の強力な人脈を獲得したといえます。

 松平春嶽の紹介状は、勝海舟へと人脈がつながります。海舟が幕府の予算で設立する海軍操練所に参加することにより、航海術の習得を実現しました。

 薩摩藩へのネットワークの始まりは、勝海舟です。海軍操練所が解散され、海舟は薩摩藩の西郷隆盛に、龍馬と海軍操練所のメンバーを託します。

 長州藩へのネットワークは、武市半平太(土佐勤王党党首)の使いとして久坂玄瑞との会談に赴いたことで始まりました。桂小五郎とも面談したと言われ、後の薩長同盟に大きく貢献しています。

 土佐藩の大観察、後藤象二郎へのネットワークの始まりは、亀山社中を引き取って、土佐海援隊を結成するときでした。しかし幕府の実力者、松平春嶽の口沿えがなければ、脱藩者の龍馬は受け入れられなかったでしょう。

 龍馬はキーパーソンの考え方のエッセンスを即座に吸収する力がありました。キーパーソンの側は、龍馬の考え方に賛同して、本音ベースで話すことができたのでしょう。さまざまな考え方が対立し、異なる考え方の相手に対しては、武力を使ってでも排除しようという風潮でした。脱藩者の龍馬に対して、本音で話してくれたキーパーソンも、やはり人を見る目があったといえます。

 龍馬はそれなりに勉強をしていたのだと思います。「文字は読めないけれど直感で内容を感じ取る」といって、外国語で書かれた本とにらめっこしていたことも多かったようです。龍馬がある程度以上の知識を持って、それを自分の考え方として昇華していなければ、十分な知識を持っていたキーパーソンと会話が成り立たなかったでしょう。

 勝海舟の回りには、刺客が大勢いたといわれています。剣の達人である龍馬も刺客に間違われても不思議ではありません。キーパーソンは、キーパーソン同士のにおいを感じるのでしょうか。身分が低い、それも脱藩者を相手に会談したキーパーソンたちは、龍馬から「何かをやってくれる」と感じ取ったのかもしれません。

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龍馬の人心掌握術~幕末の要人の懐にどう飛び込んだのか?(西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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