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龍馬の参謀力

龍馬のロジカル思考、海援隊が徳川御三家に勝訴!(西村克己)

 グローバル化、ボーダレス化の今日において、論理思考の重要性がますます増大しています。龍馬は論理思考(ロジカルシンキング)が得意でした。初対面の人と対談して初回で信頼を勝ち取るためには、相手を納得させなければいけません。論理的に考え、話し、交渉することが必要です。

 論理的であるためには客観性が重要です。論理的とは、「筋道が明確で矛盾がないこと」「結論や主張に至るプロセスが明確で矛盾がないこと」です。客観的(誰もが納得できること)に筋道立っていなければ、相手をきちんと説得することはできません。へ理屈のように、都合がいい話ばかりを列挙すると、逆に相手は警戒します。

龍馬のロジカル思考、海援隊が徳川御三家に勝訴!(西村克己)

 龍馬が頭を抱えたのは、土佐海援隊を結成し、土佐藩から借り受けたいろは丸を沈没させたことでした。海援隊はいろは丸(160トン、45馬力、蒸気内輪船)で購入した武器弾薬を、長崎から大坂に運ぶ途中、紀州藩の明光丸(887トン)と1867年(慶応3年)4月23日に衝突、翌24日に沈没しました。160トンのいろは丸、887トンの明光丸ですから、約5倍の明光丸にぶつけられたいろは丸は、ひとたまりもありませんでした。

 いろは丸が衝突された直後、土佐海援隊の1人が衝突してきた明光丸に乗り込み、すばやく航海記録を押収しています。海難裁判に備えた証拠物件の押収は、論理的な交渉に不可欠なことを、土佐海援隊員は理解していたといえます。

 長崎に到着して困難な談判が長崎奉行で始まりました。江戸時代の常識では、徳川御三家の1つである紀州藩に対して損害賠償請求するなど、想像もできない話でした。泣き寝入りするか、へたをすれば紀州藩から損害賠償を請求されかねない話です。しかし龍馬は困難と思える交渉に取り組みます。

 明光丸の航海記録の押収は、海難裁判に極めて有利に働いたことでしょう。事実データがなければ、水掛け論に終わってしまいます。藩の力関係で、紀州藩有利になることは必然でした。しかし龍馬はあきらめませんでした。

 龍馬がもう1つ、海難裁判で用いた道具は、「万国公法(International Law)」でした。「万国公法」は、国際法学者であるヘンリー・ホイートンの代表的な著作で、英国、フランス、米国、ギリシャが使っていました。まさに法律に基づいて交渉する、龍馬の論理的思考の一端を垣間見ることができます。

 龍馬は世論を味方にすることも考えました。「船を沈めた償いは、金を取らずに国をとる」の歌を市中に広めて世論を有利に展開したのです。求心力を失った幕府にとって、世論を圧力で押さえる力はすでに残っていませんでした。

 そして薩長同盟で発言権を増していた薩摩藩の調停で、同年10月、いろは丸の勝訴が決定しました。万国公法に基づいた海難裁判の国内第一号でした。勝訴により、紀州藩から土佐海援隊に1万5345両の支払い命令が出されました。

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龍馬のロジカル思考、海援隊が徳川御三家に勝訴!(西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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