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「ティンバーゲンの4つのなぜ」が教える企業生き残りのカギ

早稲田大学ビジネススクール今村英明客員教授の「無常経営」:企業と経営者の進化論(6・最終回)

 この連載は、企業や経営者を栄枯盛衰しかつ流転する無常な生物システムと仮定し、最近の日経ビジネスオンライン(NBO)や日経ビジネス(NB)の記事を題材に、「ティンバーゲンの4つのなぜ」を使って、企業や経営者の進化を考えてきた。

(1)至近要因:その行動が引き起こされている直接の要因は何か?
(2)究極要因:その行動はどんな機能があるから進化したのか?
(3)系統進化要因:その行動は、その動物の進化の過程で、その祖先型からどのような道筋をたどって出現してきたのか。
(4)発達要因:その行動は動物の個体の一生の中で、どのような発達をたどって完成されるのか?

 これまでの連載で取り上げたケース(以下「記事ケース」)は、次の5つである。

「セブン&アイ鈴木敏文会長退任」
「三菱自動車の燃費偽装問題」
「俺の愛したソニー」
「シャープの身売り」
「大塚家具の脱皮」

 最終回は、ケース・スタディを振り返り、どんな示唆が導き出しうるのか、一緒に考えてみよう。

「系統進化要因」が新しい気付きを与える可能性が高い

1.「4つのなぜ」は使えるか?

 今回の分析ツールは、動物行動学者ニコ・ティンバーゲンが提唱した「生物の行動を本当に理解するために解明すべき4つの異なる『なぜ』」である。それを、企業や経営者の行動を理解するために試しに援用してみた。その狙いは、1つのビジネス事象を多面的に解析するスキルを学ぶことであった。さて「4つの問い」は、どのくらい役立ったのだろうか?

 記事ケースの内容や分析は、多くの場合、「至近要因」(その行動が引き起こされている直接の要因は何か?)と「究極要因」(その行動はどんな機能があるから進化したのか?)を論じている。例えば、三菱自動車の燃費偽装問題では、至近要因として、開発予算の少なさ、技術力不足、上層部からの過大な圧力、非倫理的企業体質、コンプライアンス違反、チェック機能不全を挙げている。また究極要因としては、偽装が発覚しなければ、低コストで見かけの競争優位を構築できたり、開発部門の立場を防衛できたりすることがあった。いずれも多くのメディアでカバーされている論点である。敢えて「4つの問い」で論じてみても、頭の整理程度にはなるものの、新しい発見は少ない。

 これに対して、「系統進化要因」(その行動は、その動物の進化の過程で、その祖先型からどのような道筋をたどって出現してきたのか?)は、記事ケースで深く分析されていたものは少ない。察するに、過去に遡って企業や経営者を調べる手間や、過去と現在の事象との繋がりを実証する難しさを考えると、その時々の記事では、なかなか掘り下げ切れないのであろう。したがい、今回は、記事ケース以外のことも色々想像しつつ、新たに仮説として考えざるを得なかった。

 系統進化要因を考えることで、現在のビジネス事象が、短期的な至近要因だけでなく、長期にわたる歴史的な累積の中で形成されてきた諸々の要因に強く影響を受けていることがよく分かる。仮説によれば、例えば、三菱自動車の偽装行動は、B2B的な意識・行動様式、分担の壁、総花主義などの、元々親会社である三菱重工譲りの「企業DNA」に大きく影響されている。また永年維持されてきた、優秀な親(重工)と出来の悪い子(自工)、本社エリートと現場叩き上げ、弱い人材といった「多重格差構造」が、偽装行動の背景として存在している。これらの要因がある限り、偽装行動は、今回に留まらず再三繰り返し出現する。この系統進化要因の仮説が正しければ、仮に日産自動車の支援下で先に述べた至近要因などを解決できたとしても、系統進化要因に手を付けなれば、三菱自動車には早晩同様の問題が再発する恐れが大きいということになる。

 4番目の「発達要因」(その行動は動物の個体の一生の中で、どのような発達をたどって完成されるのか?)は、今回のケース・スタディでは、余り活躍の機会がなかった。おそらく、企業内である程度確立した事業モデルや組織能力などを、買収合併などの機会に別の組織にどう移植・注入するか、といったテーマには使えそうな気がするが…。今後の課題である。

 まとめると、試用の結果からは、4つの問いのうち、「系統進化要因」が、ビジネス現象の理解のためには、新しい気付きを与える可能性が比較的高い問いかけのようである。系統進化要因の分析によって、ビジネス事象の要因をその発生にまで遡って理解することができる。さらに、将来の進化の道筋をある程度予測し、根本的な打ち手を考えるヒントも与えてくれる。

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