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白熱MBA講義

ビジョンと理念による統合的ガバナンスの実現

早稲田大学ビジネススクール平野正雄教授のコーポレートガバナンス論(4)

ビジョンと理念の重要性

 前回は、リーダーシップリスクと言うネガティブな概念を導入して、経営トップの資質や能力が企業価値を支配することを紹介した。従って、経営トップの指名、評価、交代などの経営者人事こそ、コーポレートガバナンスの中核的機能として位置付けられるべきであるとした。また、経営トップが企業価値創造の命運を握るからこそ、リーダーの育成を経営のメインテーマの一つに据えて組織的に取り組むことの重要性も述べた。

 また、企業が実際の事業運営を通して価値を生み、また組織として法令を遵守し、非倫理的な活動を回避するためには、経営層のみならず、組織全体が規律ある判断と行動をとらなければならないとも指摘した。つまり、経営の規律とならんで、組織の規律の確立も広義のコーポレートガバナンスの命題と言うことである。

 だが、現場組織まで規律が浸透するためには、もちろん取締役会機能をはじめとして監査機能や内部統制機能などの制度体制面の整備は不可欠だが、それだけでは効果としては不十分であり、かつ形式化しやすい。また、管理のコストが肥大化し組織が硬直化も懸念される。

 そこで、制度体制整備だけに依らずに、組織メンバーに対して明確な行動や判断の価値基準を与えることで、自律的な規律が組織に備わる方策が必要となる。それがビジョンや企業理念の役割なのである。

 一般的に経営ビジョンは、企業の長期的な事業目標であり、目指すべき会社の未来像を示すものであり、社内外に表明されるべきものである。言い換えれば、ビジョンとは、経営としての持続的な意思表明であり、経営上の最上位の概念として大きな経営判断に対して規範性を持つべきものとも言える。また、説得力あるビジョンは、顧客や株主、あるいは社会や従業員などの主要なステークホルダーに対する会社としての価値提案でもあるのだ。

 従って、経営者は、各ステークホルダーに対して約束した価値の実現に向けて施策を整え、組織全体を動員していかねばならない。つまり、ビジョンとは単なる未来予想図ではなく、公式に表明された経営の意思として、経営そして組織運営全般に対して高次元の規律を与えるべきものなのである。

ビジョンや理念が経営の中核的な概念になっているか

 これに対して企業理念は、より直接的にその企業が重視する価値基準を表したものであり、経営から現場まで組織全体に対して判断と行動の指針を与えるものである。そこでも、顧客や社会、従業員などの主要なステークホルダーに対して、企業として尊重する価値観や行動規範が示されていなければならない。

 つまり、各ステークホルダーに関していえば、ビジョンは企業としての価値提案であるとすれば、理念は価値基準である、と言うこともできる。どちらも制度や形式に依らず経営や組織に規律を与えるものとして、実質的なガバナンスを形成する上で極めて重要なものなのである。そして、そのようなガバナンスが機能するためには、各ステークホルダーは企業が表明したビジョンや理念を評価し、場合によっては注文を付けながら、継続的にその実践ぶりを監視かつ支援していくことが重要なのである。

 実際のところ、独自のビジョンや理念を定めている企業の数は多い。ただし、良くある問題は、それらが美辞麗句のお飾りになっていて、実際の経営判断や組織運営から遊離していることだ。それは、ビジョンや企業理念が経営の中核的な概念として位置付けられていないことを意味する。

 これらが経営の中核的概念になっているということは、例えば短中期の事業計画が経営ビジョンと整合して策定される、あるいは、大きな経営事項に際してはビジョンや理念と一貫した判断を継続的に行われている、と言うことだ。

 例えば、企業変革を推進する時には、ビジョンを活用することが有効なことは知られている。なぜなら、変革の推進には必ず対立や軋轢が発生するものであるが、ビジョン実現を大義にすることで、経営としてブレることなく一貫した強い意思決定を行うことができるからだ。

 例えば、スイスのネスレ、フランスのダノン、オランダのフィリップス、ドイツのシーメンスなど、欧州企業は、変革の当初に掲げたビジョン実現を目指して、大胆な事業構造改革を進めて成果を上げているが、当然その間には様々な利害対立が表面化したはずである。それでも日和らずに改革を推し進められた要因の一つに明確なビジョンの存在があるはずだ。これに対して日本企業は全般的に改革にてこずっているのには、株主価値志向の不徹底もあるだろうが、美しい将来ビジョンと日々の経営が遊離していることもあると言える。

 また、ビジョンや理念を企業内で実体あるものとして機能させるためには、人材育成や評価にもそれらが反映されることが重要だ。

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