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白熱MBA講義

経営の規律と組織の規律~リーダーシップリスクとは何か

早稲田大学ビジネススクール平野正雄教授のコーポレートガバナンス論(3)

リーダーシップリスクとは

 これまでコーポレートガバナンスの眼目が経営者の監督であり、経営に規律を与えることである、と述べてきた。当然ながら、ガバナンスをいくら強化しても、それだからと言って、優れた戦略が生まれるわけでもないし、組織が一つにまとまり目標達成に向けてひた走ることもない。これらはすべて経営者の仕事である。

 コーポレートガバナンスの強化で、経営の規律が高まったとしても、改革の方針を打ち出し、それを実行するのは経営者である。つまり、株主価値を創造できるのは、要すれば優れた経営者、リーダーの存在しかないということである。

 実は、「リーダーシップリスク」という耳慣れない言葉がある。リーダーシップ自体は肯定的な言葉だが、リーダーシップリスクとは間違ったリーダーを戴いたときに、傘下の組織に与える潜在的なダメージを意味する。

 具体的には、リーダーシップリスクは4種類に分類できる。

経営の規律と組織の規律~リーダーシップリスクとは何か

リーダーにまつわる4つのリスク

 第一に、「意思決定リスク」。これはどういうリスクかと言うと、リーダーとして求められる経営判断をタイムリーに行えず、かつ痛みを伴うタフな意思決定ができないために、改革が進まないリスクである。

 次に、「キャパシティリスク」。これはリーダーとして期待される洞察力や構想力が不足し、複雑で高度な問題の処理能力が弱いために、事業が停滞するようなリスクを指す。最悪の場合、判断を誤り、会社が窮地に陥ることになる。

 それから第三のリーダーシップリスクが、「ポリティカルリスク」である。これは、不用意に特定の信条や意見を表明する、あるいは保身行為など政治的な行動を行うなどして、発言や行動が社内外の反発、混乱、不信を招くようなリスクである。

 そして、最後に「コンプライアンス(コンプラ)リスク」。つまり、リーダーとして不可欠な倫理観やコンプライアンスの意識が不足し、結果として法的、社会倫理的な問題を引き起こすリスクである。

 当然、このようなリーダーシップリスクのいずれかが顕在化すれば、組織は深刻なダメージを受け、株主価値は破壊されることになる。実際、我々はこれらのリーダーシップリスクが顕在化した多くの事例や事件を多く思い起こすことができるはずだ。

 ところで、一方これらのリスク要素をそのまま裏返せば、企業経営者に不可欠な資質を表していることにもなる。

 要は、ここで言いたいことは、企業とは経営者次第、ということである。であれば、これまで論じてきたようなガバナンスは箱に過ぎず、そこにどのような経営者が入るかによって、企業の発展停滞も、改革の成否も決まることになる。

 とどのつまり優れた経営者の育成と選抜こそが、企業の発展、そして株主価値向上の要なのである。これは自明のことのように思えるが、実は多くの日本企業では、これまで経営者の育成と選抜を経営の中心的な命題において取り組んできたとはとても言えないのだ。

優れた経営者の育成と選抜を実現したGEの取り組み

 そのベンチマークとして、世界企業として有名なジェネラルエレクトリック、通称GEの有名なリーダー育成への取り組みを改めて見てみよう。

 この会社では、優れた経営者の育成こそが会社発展―株主価値創造―の根幹であるという認識に立って、多くの経営資源をリーダー育成に割り当てている。良く知られているクロトンビルでの集合研修は、一つのパーツに過ぎない。

 GEの発想は、全社売り上げ規模約18兆円のグローバル複合企業体であるGEを経営できる50代の人材を育成するためには、その候補者に40代において売上数千億円規模の経営を担わせて、そこから選抜する必要があると考える。さらにその予備軍には、30代後半から数十億円から数百億円の事業運営の経験を積ませて、その実績に応じて将来の経営者の候補者を選抜する、と言った具合だ。

 そして、そのような候補者や予備軍を選抜するための公正なアサイメントや正確な評価・選抜を行うために、綿密な制度や仕組みが整備されて、そしてその運用に多大な経営陣の時間をかけるのだ。

 こうして選抜された現在のGEのCEOはジェフ・イメルトであり、伝説的なジャック・ウエルチの後継ながら、独自の経営ビジョンで卓越した業績を上げている。同時に注目すべきは、イメルトとトップの座を競ったジェームス・マクナーニはGEから転出して3Mを経てボーイングの経営者となり、同様にライバルであったロバート・ナーデリもホームデポ、そしてクライスラーの経営者として名を馳せることになる。

 つまり、GEのリーダー育成への取り組みは、自社のみならず米国の大手企業で活躍する強いトップを輩出したことから明らかなように、素晴らしい成果を上げていると言えるのだ。

>> 人材の育成にかける意識や金額が劣る日本企業

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