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最強のロジカルシンキング

お母さんは、なぜ捜し物を見つける天才なのか?(堀 公俊)

第21回 「でなければ」 未開拓の荒野を探し出す

さく裂する“お母さんマジック”

 「ほら、ここにあるわよ」。妻の一言にがくぜんとしました。朝からずっと捜していた愛用の小さな手帳が、アッサリと見つかったからです。

 カバンから取り出して手帳にメモをしたのは覚えているのですが、別のことに気をとられてしまい、どこに置いたかまったく記憶にありません。きっと無意識にチョンとどこかに置いたのでしょう。書斎からトイレまでくまなく捜しても見つかりません。

 ひょっとして、カバンから取り出したということ自体が記憶違いで、そもそもどこか別の場所に忘れて帰ったのかもしれません。そうなってくると捜索範囲が一気に広がります。不安と焦りが募るばかりです。

 仕方なく、恥を忍んで妻に「どこかで見なかった?」と尋ねたところ、「そんなの知らないわ」といいつつも捜索がスタート。ものの数分で、想定外のところに隠れていたのを、無事に保護されたのでした。我が家で「お母さんマジック」と呼ばれているスゴ技です。

 いくら主婦でも、家中のどこに何があるかを逐一把握しているわけではありません。「一体、どうやって見つけ出すの?」と尋ねた私に、帰ってきた答えは意外なものでした。

 「そんなの簡単よ。あなたの探しそうにないところを捜せばいいんだから」と。さすが、参りました。次もぜひよろしくお願いします。

まだ考えないことを考える

 一度捜して見つからなかったところに捜し物はありません。

 にもかかわらず、「そんなはずはない」「ここにあるはずだ」「もう一回捜せば見つかるかも」と同じところを捜してしまいがちになります。何度も同じところばかり捜して、無駄に時間とエネルギーを使ってしまいます。

 いくら気合いと根性を入れ直しても、同じやり方から違う結果は生まれません。まだ探していないところを捜すほうがはるかに合理的です。

 この話は思考についても言えます。

 考えにいきづまったときに大切なのは、まだ考えていない領域を見つけ出すことです。それで、必ず活路が開けるとは限りませんが、少なくとも同じ考えを繰り返すよりはマシです。

 そのためのフレーズが「でなければ」(もしくは、あるいは、さもなくば)です。いったん、自分が考えたことから離れて、他の道を探すために使います。

【NG】 ○○が我々の求める答えのはずだ。
【OK】 ○○が答えでなければ、どこに答えがあるだろうか?

他の人の知恵を生かさない手はない

 「まだ考えていないことを考える」というのは簡単ではありません。自分が何を考えていないか、自分では分かりづらいからです。

 いちばん手っ取り早いのは、冒頭の事例のように、他人から知恵を借りることです。

第三者に助言してもらったり、知人の経験から学んだり、先人たちの知恵を参考にしたり……。第13回で紹介した「考え方の切り口のセットを活用する」というのもこれに当たります。

【NG】 私にはこの道しか残されてない。
【OK】 私でなければ、どこを攻めるだろうか?

 もっとよいのは他者とぶつかり合うことです。議論こそが、自分の壁を壊すための最善の方法となります。

 それも、できるだけ違う考え方や文化を持った人とやりたいものです。

 たとえば、同じ会社に勤める人達で議論をしても、組織特有のモノの考え方から抜け出るのは容易ではありません。日本人同士で議論をしても、日本人ならではの思考の癖に気づくこともありません。

 集団が持つ壁を打ち壊すには、多様なメンバーで議論する必要があります。オープンでフラットな“異種格闘技戦”こそが、まだ考えていないことを考えるのに役に立ちます。

自分の考えを俯瞰して見る

 もう一つのやり方は、物事と距離をおいて俯瞰(ふかん)的にとらえることです。わかりやすく説明してみるとこうなります。

 おそらく、本稿をパソコンや携帯の画面でご覧になっている方が大半だと思います。試しに、目を画面にドンドン近づけてみてください。そのうちに、書いてある文字も読めなければ、周りの景色も見えなくなるはずです。

 思考も一緒です。自分の思考に没入していると、それを客観的に判断することができなくなります。同時に、他の考えにも気づかなくなります。まさに自分の考えにとらわれている状態です。

 この状態を脱するには、自分の考えと距離を取るしかありません。それが、第14回で紹介した「そもそも」です。

 いったん、目的や効用といった本質的なものに立ち戻り、それを実現するための考え方のバリエーションを考えてみましょう。「何のために」「他に」の組み合わせです。

【OK】 そもそも、自分は何を目指して考えているのだろうか。それを実現するには、今の考えでなければ、どんな考え方がありうるだろうか?

 これなら、考えていなかった領域が自力で見つかります。それがダメなときは、「そもそも」を何度も繰り返して、どんどん距離を遠ざけてみましょう。

時にはしらみつぶしに考えてみる

 それでもうまくいかなければ仕方ありません。思いつくものに片っ端から当たっていくしかありません。捜し物の例で言えば、家中を余さず捜索する“しらみつぶし”戦法です。いつか必ず見つかると信じて。

【OK】 また○○もダメだった。○○でなければ、どこに次の糸口はあるだろうか。

 試行錯誤の回数を増やして、未検討の領域をどんどん狭めていく。これも一つのやり方であり、実際にはそれしかできない場合もよくあります。

 発明王エジソンが残した名言があります。

 私は失敗をしたことがない。上手くいかない1万通りの方法を見つけただけだ。
 成功するための最も確かな方法は、常にもう1回試してみることだ。

 天才エジソンですらこうです。「考えていないことを考える」なんて姑息な手を使うことすら、おこがましいのかもしれません。

 いずれにせよ、大切なのは、「○○に違いない」と思いこむのではなく、「○○以外にあるかもしれない」と常に疑う気持ちを持つこと。その上で、「でなければ△△」「それもダメなら□□」といったように、次から次へと新たな考えを生み出していきます。

 新たな考えを出し続けられる間は、捜し物が見つかる可能性があります。あまりスマートではありませんが、時にはこういった力技も必要となります。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は9月15日の予定です。

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お母さんは、なぜ捜し物を見つける天才なのか?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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