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最強のロジカルシンキング

コピー機の前に行列、あなたは上手に割り込める?(堀 公俊)

第2回 最も重要なフレーズは「なぜ」 (この連載の一覧

コピーを先に取らせてもらえませんか?

 急いでコピーを取らないといけないのに、コピー機の前に列ができています。先頭の方にどう言えば、先にコピーを取らせてもらえるでしょうか。

 心理学者のエレン・ランガーが、言い方によって承諾率が変わるかどうかを実験してみました。「すみません、先にコピーをとらせてもらえませんか?」と要求のみを伝えると、約6割の人が譲ってくれました。結構、人って優しいですね。

 それに、「すみません、急いでいるので、先にコピーを取らせてもらえませんか?」と理由を付け加えると、なんと9割以上の人がOKしてくれました。

 面白いのはここからです。「すみません、コピーを取らなければいけないので、先に取らせてもらえませんか?」と理由にならない理由をつけても、承諾する割合は変わらなかったのです(ただし、枚数が多い場合は、理由なしと同率に下がる)。

 つまり、人に何か頼むときは、単に「○○してほしい」と要求を伝えるのではなく、「○○だから○○してほしい」と理由をつけると、聞いてもらいやすいということです。しかも、些細なお願いなら、どんな理由であっても関係がないようです。

 理由を添えると、お願いの「意味」がよく分かります。だから、相手に協力しようと思うのです。

訳がないと、訳が分からなくなる

 人間は意味を求める動物です。

 早い子だと2歳、遅い子でも4歳になれば「なんで?」と言いだすようになります。大人になると、運命や偶然に対しても、「なぜ、私だけが……」と意味を探そうとします。

 すべてのことに訳(わけ)がある。これが論理思考の大前提です。

 訳とは道理や意味、ひいては原因、理由、根拠などを指します。論理的に考えるとは、原因と結果、理由と結論、根拠と主張といったように、“訳あり”で物事を考えることです。

 「○○なんだよ」「○○と思うけどね」と言いっぱなしにせずに、必ず「なぜなら」(どうしてかといえば、その理由は、訳を言うと、というのは)といったフレーズを付け加えましょう。

[OK] ミスしてしまった(結果)。なぜなら、不注意だったからだ(原因)
[OK] 発売は取り止めだ(結論)。その訳は、品質が安定しないから(理由)
[OK] 女性に活躍の場を(主張)。というのは、活用が不十分だから(根拠)

逆に、訳が明らかでない、次のような言いまわしは感心しません。

[NG] 何となく、うまくいくような気がするんだけどなあ・・・。
[NG] ほら、世の中とはそういうもんじゃないですか。それでいけるはずですよ。
[NG] ともかく、ダメなものはダメなんです!

「なぜ?」を繰り返して本質に迫る

 今回覚えてほしいワンフレーズは「なぜ」(なんで、どうして)です。理由や根拠を引き出すのに使います。

 物事を考えるとき、日常の会話の中、会議や交渉のときに、なぜを問うことで考えの筋道がハッキリしてきます。「なぜ?」(why?)はロジカルシンキングで最も重要なフレーズです。

[OK] 海外で働きたい ――(なぜ?) 国際感覚を身につけたいから。
[OK] 発売を遅らせるべきだ ――(なぜ?) クレームになったら大変なことになるから。

 いつもすぐに訳が見つかるとは限りません。そんなときは、なぜを何度も問うことで、根本的な訳を探していきます。いわゆる、トヨタ流の「なぜを5回繰り返せ」(5-Whys)です。

[OK] なぜ、こんな事故が発生したのか? ――作業者が機械の操作を誤ったからだ。
[OK] なんで、機械の操作を誤ったのか? ――ルール通りに操作しなかったからだ。
[OK] どうして、ルール通りにしなかったか? ――そのほうが、時間が短縮できるからだ。
[OK] なにゆえ、時間を短縮しようとしたのか? ――早く終えて、次の作業をしたいからだ。
[OK] どういう訳で、早く次の作業をしたいのか? ――やるべきことが多すぎるからだ。

 こうすることで、物事の本質や本当の意味が浮き彫りになります。物事を深く考えるためには、安易に分かった気にならず、なぜを問い続けることが重要です。

本当に起こったこと、いつも起こること

 ただし、理由があれば何でもよいわけではありません。「論理とは、10人中10人がそうと思える筋道だ」という話を前回にしました。通りやすい理由と通りにくい理由があります。

 コピーの話にしても、単に「私、急いでいるんです」と言うのと、「5分後に始まる役員会にこの資料を配りたいと社長が……」と言うのでは、どちらに説得力があるでしょうか。

 前者は主観的な判断であり、すべての人がそう考えるとは限りません。下手をすると「そう? 私にはそう見えないけど」と反論されかねません。ところが、後者は客観的な事実であり、誰が見ても急がないといけない状況にあることが理解できます。当然、後者のほうが通りやすくなります。

 「本当に起こったこと」は理由として通りやすくなります。なるべく、事実を理由として挙げるようにしましょう。

[NG] 早急に挽回策を打たないといけないぞ。(なぜ?) このままではヤバいからな。
[OK] 早急に挽回策を打たないといけないぞ。(なぜ?) 売上が20%以上落ちているからな。

 もう一つ、理由として通りやすいのが「いつも起こること」です。パターン、トレンド、原理、一般的法則などです。こちらも万人が

認める理由となります。

[NG] あまり無理をしないほうがいいよ。(なんで?) ほら、山田君が定年を前に倒れただろ。
[OK] あまり無理をしないほうがいいよ。(なんで?) 君、血圧が高い上にタバコを吸うだろ。

根拠の幅をなるべく広く取る

 もう一つ、理由や根拠を挙げるときのポイントがあります。

 理由や根拠はたくさんあったほうが通りやすくなります。1つより2つ、2つより3つと、なるべくたくさん挙げると説得力がアップします。

 だからといって、同じ理由をいくらあげても意味がありません。下手をすると、逆効果になる恐れすらあります。

[NG] 会社を辞めたいんだよ。(どうして?) だって、上司がワンマンだし、言い方が怖いし、優しく教えてくれないし、顔が気に食わないし……。

 ほとんど上司の話ばかり。「なんだ。それしかないの?」と言いたくなります。主観的な話ばかりで、事実かどうかも怪しいし……。

 こんなときは、違った視点から根拠が出せないか考えてみましょう。根拠の幅を出すのです。

[OK] 会社を辞めたいんだよ。(どうして?) だって、上司がワンマンだし、仕事がキツイし、業績も不安定だし……。

 根拠の幅は、説得力を高めるのに重要な要素です。幅の出し方にもコツがあるのですが、おいおい紹介していくことにします。

 今回は論理の基本である訳について考えてみました。ぜひ、いろんなものに「なぜ?」「なんで?」「どうして?」と突っ込んで、誰にでも通る理由を考える力を養いましょう。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は4月21日の予定です。

この連載の一覧

◇   ◇   ◇

コピー機の前に行列、あなたは上手に割り込める?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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