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最強のロジカルシンキング

大阪人に道を尋ねると、なぜ迷ってしまうのか?(堀 公俊)

第10回 「私は」 話の主体をハッキリさせる

なんや、知らんのかい!

 皆さんは、知らない土地を訪れて道に迷った時にどうされますか。おそらく多くの方は、地図を取り出したり、案内板を探したり、自力で何とか解決を図ろうとすると思います。それでダメなら近くを歩いている人に尋ねてみると。

 ところが、そのやり方が通用しないのが大阪の街です。大阪の人が不親切で、誰も助けてくれないわけではありません。親切すぎるのが仇(あだ)になってしまうのです。こんな感じで。

 「すみません。あべのハルカスに行くには、ここからどう歩けばいいですか?」

 「え、ハルカス? そうやなあ……。ここを真っすぐにド~ンと下って、2つ3つ先の角を左にシュッと曲がって、ドンつきを右にトコトコ歩けばいけるんちゃう? よう知らんけど」

 擬態語が多いのはご愛嬌(あいきょう)として、問題は「よう知らんけど」です。「知らなかったら、いい加減なことを教えるなよ!」とツッコミたくなります。

 情に厚い大阪人は、「知らない」とは言えません。少しでも力になろうと、自分の推量を述べてしまいます。大阪に限らず、アジアやラテン系の国でよく起こる現象です。実際にとんでもない見当はずれのときもあり、複数の人に尋ねて確認したほうが無難かもしれません。

必要なときはあえて主語を置く

 自分の推量を述べるのが悪いわけではありません。であれば、最初からそうであることを言ってほしいところ。でないと客観的な事実なのか、主観的な意見なのかが分からなくなります。

[NG] ○○は△△で、□□は◇◇ではないかなあ……。(事実?)
[OK] 私が思うに、○○は△△で、□□は◇◇ではないでしょうか。(意見)

 日本語が主語(私、あなた、我々など)を省略する言語であることは、誰しもご存じだと思います。一説には、集団主義の日本では主体をあいまいにして、言葉よりも背景(コンテクスト)から意味を読みとることに重きがおかれるから、と言われています。

 だからといって、日本語が特殊な言語だというわけではありません。

 主語をキッチリ立てるのは、英語をはじめとする西欧の言語に多いだけで、どちらかといえば主語を省略するほうが多数派です。時々、「主語を省略する日本語は論理的でない」と言う人がいます。だとしたら、世界中が論理的でない人であふれかえってしまいます。

 普段の会話で主語を省略するのは大いに結構です。しかしながら、冒頭の事例のように、発言の所在を明確にしたいときは主語をつけなければいけません。ここぞというときは、あえて「私は」「あなたは」「我々は」と主語を置くようにしましょう。

誰の話なのか明確にして議論する

 中でも大切なのは、事実と意見の区別です。たとえば、「お客の不満が高まってきている」といっても、客観的なデータで証明できなければ事実ではありません。単なる意見です。それも、誰の意見なのかを明らかにしないとロジカルに考えることができません。

[NG] 最近、お客の不満が高まっています。
[OK] 私は、「お客の不満が高まっている」と感じています。営業部でも、「お客の不満が高まっている」と見ています。

 話し合いをしていても、自分の見解をあたかも確定した事実のように伝える人がいます。「ありえない」「けしからん」「困ったものだ」といった発言です。ほとんどの場合、発言者個人の観測や感想であり、事実とは区分けして検討しないといけません。

[NG] まさか、そんなことはありえないだろ。
[OK] あなたは、そんなことは起こってほしくないと考えているのですね。

 思考の主体と結論がはっきりすれば、検討すべきは根拠、すなわち「なぜ、そう考えるのか?」です。思考の筋道を点検することが、よりよい結論につながっていきます。言い換えると、ロジカルシンキングを起動するためには主語が必要となるわけです。

あたかも英語のように話をしてみる

 ロジカルに考えるという点で、英語に優位性があるのは認めざるをえません。IやWeといった主語を置かないと文章が始まらないような文法構造になっているからです。

 あたかも英語を話しているような、いわゆる“翻訳調”で日本語を使ってみましょう。そうすれば、日本語であっても論理的に話したり、書いたりができます。

 余談になりますが、グローバル化に伴って、英語を公用語とする企業が現れ出しました。そうなると、日本人同士であっても、英語で会議をやらなくてはなりません。

 下手な英語を駆使して議論しようと思うと、余分なことを話す余裕がなく、「○○してくれ」「いやそれはできない」とストレートに言いたいことだけを伝えるようになります。主語を置かざるをえず、発言のあいまいさもなくなります。

 結果的に、会議に要する時間が短くなり、サクサクと物事が決まるようになったそうです。会議のムダで悩んでいる方がいたら、ぜひ一度試してみてください。ただし、アフター5に日本語でフォローする羽目になり、二度手間になるらしいですが……。

 話を戻すと、「英語のように」といっても、いつも「私は」「あなたは」とやる必要はありません。誤解を招きやすい話や、発言の責任の所在をハッキリさせたいときだけでOKです。そのときでも、日本語らしい、互いの関係に配慮した言いまわしを使いたいものです。

[NG] その考えはおかしい!
[OK] 私は、その点について大いに疑問を持っています。

主語を置けばとらわれから脱出できる

 私たちは、一人で考えているときも言葉を用います。主語を省略するという日本語の特徴は、頭の中だけで考えているときも、私たちの思考に影響を与えます。

 たとえば、大きな問題を抱えて「どうしようもない」「もうダメだ」と悩んでいる人がいるとしましょう。ところが、本当に「どうしようもない」かどうかは誰も分かりません。「白いカラスがいない」ことと同様に、絶対に解決策がないことを証明することはできないからです。

 「どうしようもない」の忘れられた主語は「私」です。自分が「どうしようもない」と思っているだけです。英語で言えば「I think……」です。

[NG] もはや、どうしようもない!
[OK] 私は、「どうしようもない」と考えている。

 事実と意見を切り離せば、気持ちが少し軽くなるはずです。事実は動かせなくても、私の意見は私がコントロールできるからです。

 「どうしようもある」と考えれば、何か解決策が見つかるかもしれません。そうやって、「どうしようもない」と諦めるよりも、「どうしようもある」ことを探すほうが、よほど合理的な考え方ではないでしょうか。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は6月23日の予定です。

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大阪人に道を尋ねると、なぜ迷ってしまうのか?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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