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最強のロジカルシンキング

「人間にできて人工知能にできないこと」言えますか?(堀 公俊)

第26回 「言い換えると」 しっくりくる言葉を見つけ出す

人間にできて人工知能にできないこと

 「囲碁のトップ棋士がコンピューターに負けた」というニュースは世界に衝撃をもたらしました。「人工知能(AI)が我々の仕事の大部分をとってかわるようになる」という話も、いよいよ現実味を帯びてきたのかもしれません。

 ところが、それほど進化したコンピューターが苦戦する分野がいくつかあります。そのうちの一つが「言葉の理解」(自然言語処理)です。

 人間の言葉を理解するには大きく2つのことができないといけません。一つは、「囲碁」「負けた」といった個々の言葉の意味を理解することです。もう一つが、主語が何で述語がどれ、何が何を修飾しているか、文章の構造を理解することです。「単語」「構文」の2つが分かれば、我々が話していることが分かるはずです。

 ところが、そうは簡単にはいきません。たとえば、先ほど「理解」を「分かる」と言い換えました。人間は当たり前のようにやりますが、コンピューターにとってはやっかいな作業です。

 省略もあります。ここまでの文章には、人間(私)とコンピューターの2つの主語が入り交じっており、必ずしも書かれていませんでした。ましてや、「言外の意味をつかむ」「行間を読む」なんてことは、高度な人工知能をもってしても容易にできません。

 逆に言えば、こういうことができるのが人間の素晴らしいところです。だから、機械にはできない行動な情報処理が、しかも効率的にできるのです。

どれくらいボキャブラリーがあるか?

 英語のロジックの語源はラテン語の「ロゴス」です。論理(理由、意味、真理)と言葉の2つの意味を持っています。

 また、中世のリベラルアーツ(教養)は、文系3科(文法学、修辞学、論理学)、理系3科(代数学、幾何学、天文学)、芸術系1科(音楽)とされていました。やはり、論理と言葉とは一体のものとしてとらえられていたわけです。

 言葉を使って考えるのがロジカルシンキングです。そのためには、言葉を適切に使い、言葉を巧みに組み合わせ、言葉で意味を表さなければいけません。言葉を適切に使えない人は、ロジカルシンキングも上達しません。

 皆さんがどれほどうまく言葉が扱えるか、簡単なエクササイズをやって確かめてみましょう。

 以下に挙げる5つの単語を別の言葉に言い換えるとしたら、何と表現しますか。3分間でできるだけたくさん挙げてみてください。名詞を動詞にする、といったように品詞を変えるのもOKです。満遍なくやっても、どれか得意なものに集中してもかまいませんので。

(1)成長  (2)話す  (3)かわいい (4)すぐに (5)けれども

とっさに出てこないと役に立たない

 いかがでしたでしょうか。参考に言い換えの例をいくつか載せておきます。

(1)成長  :生育、成熟、発達、進化、発育、育つ、伸びる、生育する……
(2)話す  :語る、しゃべる、述べる、会話する、口にする、声にする……
(3)かわいい:美しい、きれいな、すてきな、愛らしい、キュートな、麗しい……
(4)すぐに :即座に、即刻、直ちに、速やかに、短い間に、間をおかず……
(5)けれども:だが、しかし、かといって、とはいえ、だけど、さりとて……

 (1)~(5)のトータルで10個未満の方、ちょっと少ないです。何でも「やばい」「マジ」で済ませていませんか。10~19個の方、まずまず平均的なところです。スマホばかりいじっているとドンドン語彙が少なくなるので注意してください。20個以上の方、かなりの言葉の使い手です。いろんなジャンルの本を読んで、さらに語彙を増やしていきましょう。

 大人が平均的に知っている語彙がおおよそ5万語だと言われています。ところが、知っていても使えなかったら意味がありません。要は、とっさに思い出せるかどうかです。

 ロジックをつくって終わりではなく、もっと適切な表現はないか考えてみる。それでも、しっくりこなかったら、また別の表現で言い直してみる。そうやって思考錯誤することが、ロジックを研ぎ澄ますことにつながります。

 ということで、今回取り上げるワンフレーズは「言い換えると」(と言うよりは、別の言い方をすれば)です。

日本文学の名作を言い換えてみる

 先ほどやったのは単語の言い換えです。今度は、文章全体を違った表現で言い換えて、伝えたいメッセージやこめられた意味を、違うカタチで表してみましょう。たとえば、こんな具合に。

【OK】 人工知能が人間に勝った。言い換えると、もはやこの分野では人工知能のほうが優れているのである。
ただし、機械的に変換したのでは面白くありません。そうならないように注意してください。
【NG】 人工知能が人間に勝った。言い換えると、人間は人工知能に負けたのである。

 では、以下の文章から読みとれる含意を別の文章に書き換えてみてください。1問1答で結構です。時間は同じく3分です。

(1)国境の長いトンネルを越えると雪国であった(川端康成『雪国』)
(2)私はその人を常に先生と呼んでいた(夏目漱石『こころ』)
(3)禅智内共の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。(芥川龍之介『鼻』)

豊かな教養が豊かな言葉を生む

 これも回答例を載せておきます(作者の皆さん、勝手に書き換えてゴメンナサイ)。あくまでも例であって正解ではありません。意味が変わったり、つながりが切れていなければ大丈夫です。

(1)言い換えると、トンネルを越えると季節が一変したのである。
(2)と言うよりは、名前で呼ぶのがどうもしっくりこないのだ。
(3)別の言い方をすると、この鼻ほど人々の話題になっていたものはない。

 やってみてお分かりのように、文章の書き換えをするには、少なからず前提となる知識が必要となります。それが「10人中10人がそうだと思える」一般的な知識(常識)でなければ、「どういしてそうなっちゃうの?」となってしまいます。いわゆる論理の飛躍です。

 要するに、言葉を言い換えるにせよ、文章を書き換えるにせよ、一般常識が必要となるわけです。豊かな教養が豊かな言葉を生みます。

 本を読みあさったり、多種多様な人と出会ったり、はたまた世界を見て回ったり……。教養を高めることが論理力を高めてくれます。

 ロジカルシンキングというと、ややもすると筋道(プロセス)ばかりに目が行きがちです。しかしながら、よい道を通すためには土台となる知識(コンテンツ)が欠かせません。両者がうまく組み合わさったときに、しっかりとした道ができあがります。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は10月27日の予定です。

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「人間にできて人工知能にできないこと」言えますか?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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