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最強のロジカルシンキング

怒り狂っている相手をロジカルに落ち着かせるには?(堀 公俊)

第16回 「おおよそ」 ザックリと全体を把握する

物理屋は細かい数字にこだわらない

 私の専門は、ロジカルシンキングでも経営学でもありません。大学院では応用物理学を修め、メーカーに入社したときは研究所に配属されました。

 物理は、世の中で最もスケールの大きい学問です。メートルで言えば、10のマイナス35乗のプランク長から、10の27乗の大きさの宇宙まで、壮大なスケールで物事を考えます。そのため、物理屋は、細かい数字よりも桁数(10のべき乗)で考える癖を持っています。

 そんな私が“文転“してマーケティングの仕事につくと、営業の方々と話をする機会が多くなりました。驚かされたのは、数字の細かさです。なにせ、末尾1桁の数字の多寡にこだわり、正確な数字を求めてくるのですから。

 桁数で考えることに慣れている私には「そんなもの、どうでもいいじゃない」と思ってしまいます。話がかみ合わなかったことをよく覚えています。

 「三つ子の魂百まで」と言いますが、桁数で考える癖は今でも抜けません。

 先日、父親が退院するにあたり、お願いしていた診断書を窓口に取りに行ったところ、「すみません。もう少しお待ちください」と言われてしまいました。段取りの悪さに頭にきた私は、条件反射的に質問していました。「もう少しとは1日ですか? 1週間ですか? 1カ月ですか!」

 皆さん、物理屋とお付き合いする際は、最初に単位を伝えてあげてください。そうすれば、吠えたり、かみついたりすることはありませんから……。

ザックリつかんでから細部に入る

 桁数の話は大げさとしても、はじめに物事をザックリととらえておくことは、効率的に考えるのに欠かせません。活用すべきフレーズとしては「おおむね」(おおよそ、概して、大まかに言えば、ザックリといえば、全体としては、総じて)です。

【NG】 まだ準備ができておらず、もう少しお待ちいただけますか?

【OK】 通常ですと、おおむね1週間程度かかります。多分、きょうが月曜日なので……

 たとえば、慣れない土地に行って目的地を探しているとしましょう。土地の人に道を尋ねたところ、2通りの教え方をしてくれました。どちらが分かりやすいか、言うまでもないと思います。

【NG】 そこの角を左に曲がり、3つ目の交差点を右に曲がって100メートルほど進み……

【OK】 おおよそ北東に徒歩10分のところにあります。ここからの道のりを言えば……

 自分一人で考えるときも、細かい枝葉の話はひとまずおいて、まずはザックリと全体像をとらえるようにします。そうやって、大まかに見当をつけてから、細部に分け入るのが要領のよいやり方です。

まずは一般論として考えてみる

 ロジカルシンキングとは、「10人中、ほぼ10人がそうだと思う」筋道をつくることだ、という話をしました。そのためには、まずは一般的に考えるのが得策です。常識が共有できていれば、一般論はいつでも通用するからです。

【NG】 社長はやる気満々ですが、営業は腰が引けており、かといって現場は……

【OK】 一般的(基本的)には、ここは無理をするときではありません。

 もちろん、一般論で物事が片づくほど世の中は甘くありません。特に、競争が激しいビジネスにおいては、一般論を越えた知恵が求められます。

 だからといって、いきなり奇策に走っても、誰も賛同してくれませんし、リスクも大きすぎます。まずは一般的な考えをしっかりと押さえた上で、オリジナルな考えへと発展させていきましょう。

【OK】 一般的には無理でしょう。とはいえ、ウチの強みである○○が△△できるなら……

 このように、ロジカルシンキングを進めるには、定石となる基本 的な考え方を身につけておく必要があります。

 ビジネスで言えば、経営学の知識であったり、先人たちが培った経験則であったり。基本となる型をしっかりと見につけた上で、自分なりに型をアレンジしたり壊したりしていきます。それこそ、芸能や武道で培われた上達のセオリーです。

論理的イコール正しいとは限らない

 さらに言えば、ロジカルに考えることが正しいわけではありません。現実の社会で起こることに関して言えば、論理と正しさは別問題です。論理的に正しくても、価値観や心情として正しくないということは、世の中に山ほどあります。

 実際、ロジカルに考えて上手くいく話もあれば、いかない話もあります。ロジカルだけで物事が解決できるなら、こんなにも多くの人が人生で悩み、今なお世界中が戦争や貧困であふれかえるはずがありません。

 第一、今の複雑な世の中に正解と言いきれるものはどこにあるのでしょうか。結局やってみないと正解かどうか分からないというのが、本当のところです。

 少なくともロジカルに考えたほうが、正解だと思いやすくなります。みんなが信じて頑張れば、いい成果が出ます。それこそがロジカルに考えることの意味です。

 なので、あくまでも優先順位とお考えください。まずは論理的に考えてみるべきだと。

【NG】 Aさんの気持ちを考えると○○だし、Bさんの立場では△△だろうし……

【OK】 ひとまず論理的(客観的)に考えると、○○すべきなんでしょう。ただし……

ロジカル人間は冷たい人なのか?

 ついでに言えば、論理的イコール感情を排した冷たい考えである、というのも誤解です。

 確かに、怒り狂っている相手に、落ち着くように理詰めに説得すれば、火に油を注ぎます。それよりは、「それは怒るよね」と共感することのほうが、望ましい対応となります。

 それは、「受けとめてもらえると感情が和らぐ」という一般的な法則(パターン)があるからです。物事を因果関係や原理といった訳ありで考えるのが論理であり、後者のほうが本当はロジカルなのです。

 特に最近では、心がからむ問題に関しても、脳が持つ機能や感情に関わるホルモンの話として解明されることが増えてきました。「あなたがやる気にならないのは、あなたが悪いのではなく、脳科学的に言えば○○というメカニズムが働いているからです」といった説明です。

 実際に、心の病の代表選手であるうつ病は、カウンセリングよりも薬物療法が主流となっています。心の問題は、脳や体の問題に還元され、どんどんロジカルに扱えるようになってきています。

 私たちの体の中に起こっているのは、化学反応や電気信号のやりとりです。その原理原則を説明するのが物理です。だから、物理を学んでおけば、どんなことにもつぶしがきくのです(ホンマかいな?)。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は8月4日の予定です。

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怒り狂っている相手をロジカルに落ち着かせるには?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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