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最強のロジカルシンキング

問題解決で「使わないと損!」なザックリ思考とは? (堀 公俊)

第4回 「要するに」 木を見ず、森を見よう」 (この連載の一覧

ここにサインをしてください!

 ある地方空港での出来事です。優先搭乗のアナウンスが流れる中、搭乗口そばのトイレから出るなり、いきなりサインを求められました。トランシーバーをもった若い女性の係員に。

 「先ほどお客様からお預かりした荷物に破損箇所が見つかりました」
 「それなら、荷物を預けたときに、破損箇所を確認してサインをしましたけど……」
 「ハイ、新たにもう1カ所見つかったので、あらためて確認のサインをいただきたいのです」

 預けたのは、日本全国津々浦々を引きずり回したキャスター付きのバッグ。車輪のゴムははるか昔になくなり、底は擦り切れて穴があき、伸縮自在のハンドルは収納できなくなっています。まさに満身創痍(そうい)といった状態です。

 要するに、航空会社は「後でイチャモンをつけられては困る」とサインを求めているわけです。つまり、こんなオンボロを預けられると、手間がかかって迷惑なのです。一言で言えば、ボロ過ぎるのです。端的に言えば、「いい加減、買い換えたら?」なのです。

 そんな風に瞬時に思考が駆け巡り、多少ムッとしたものの、ここで声を荒げるのも大人げない。素直にサインして搭乗口へと向かいました。でも、どうして私が持ち主と分かったんだろう……?

ときにはズームアウトして眺めてみる

 私たちは膨大な情報に囲まれて生活しています。細かいことに振り回されていると、本質を見失いがちになります。ときには、枝葉(ディテール)を切り落として、幹(エッセンス)の部分だけを取り出すことが大切です。

 これを「抽象思考」と呼びます。いわゆる「木を見ず森を見る」です。一段高い視点で物事をザックリととらえる考え方です。そのために役立つのが「要するに」(つまり、言ってしまえば、一言で言えば、端的に言えば)というフレーズです。

[OK] 要するに、ここにサインすればいいのですね。
[OK] つまり、航空会社には責任はないと言いたいわけですね。
[OK] 端的に言えば、サインが面倒なら買い換えろ、とおっしゃりたいのですね。

 こうすると、係員が求める行為の意味が明らかになります。視点を高くすればするほど、本当は何が言いたいか、本質が見えてきます。Google マップをどんどんズームアウトして俯瞰(ふかん)的に眺めているのに似ています。

 抽象化は、論理的に考えるのに欠かせない思考法の一つです。抽象化をすることで、物事の筋道がハッキリと見えてくるからです。

要するに、何が言いたいの?

 会議などで議論しているときに、自分が何を言いたいか見失うことがあります。そんな時こそ抽象化の出番です。いったん、要するに(つまり)でポイントを明らかにしてみましょう。

[OK] 最近は○○の要望が多いし、他社では△△に取り組んでいるというし……(あれ、何言いたいんだっけ?) つまり、事務効率化にもっと力を入れるべきなんです。

 さらによいのは、「要するに」と言いたいことを先にまとめてから、「たとえば」「というのは」と具体的な説明をすることです。

[OK] 要するに、事務効率化にもっと力を入れるべきなんです。たとえば、他社が取り組んでいるような△△といった方法が……。

 細かいところにとらわれて、要領を得ない発言をする人がいたら、抽象化するように求めてみましょう。そうすることで、メッセージや意図が明らかになります。

[NG] 最近は○○と言う問題が多発しており、他社では△△に取り組んでいるというし……。
[OK] 要するに?(一言で言えば?)

 中には、「要するにだね」「つまりはね」と何回も言いながら、まったく抽象化できていない方もいます。そんなときは、こちらから助け舟を出してあげるのが得策です。

[NG]要するに、これからもっと自分のキャリア形成の支援に取り組んで行くことが大切に……。
[OK] つまり、今のキャリア教育ではモノ足りない、ということ?

悩みのパターンや構造を見つけ出す

 抽象化は、私たちが抱える悩みを解消するのにも大いに役立ちます。

 たとえば、ある方が職場の人間関係に悩んでいたとしましょう。上司とソリが合わないといったような。相手がある話だけに、こちらの思うようにならないのがつらいです。

 そんなときは、抽象化を使って、時間的にスケールアップしてみましょう。過去に同じような問題で悩んだことはないか探してみるのです。あるいは、空間的にスケールアップする手もあります。家庭や友人関係など、他の場所で同様の問題が起こっていないかを考えるのです。

 そうすると、多くの場合、共通のパターン、構造、原理が見つかります。恋愛でよくある、「ダメ男とばかり付き合い、精一杯尽くした揚げ句、もっとダメにしてしまう」といったような。

[OK] 要は、私は○○な人と一緒のときは、△△してしまう癖があるんだ

 もし、そんなパターンがあるのなら、問題は自分が悪いのでも、相手が悪いのでもありません。互いの関係が織りなすパターンに問題があるわけです。関係を変えることが解決につながります。

 それも、新たにアイデアを考える必要はありません。そのパターンで悩んだ無数の人がいるはず。本やネットから事例を集め、抽象化を使って一般的な法則(原理原則)を見つけだしましょう。

[OK] とどのつまり、何をすることが解決に近づくのか?

 抽象化のよいところは、エッセンスが他に転用できるところです。自分の状況に当てはめてみて、具体的にできることを考えるのです。問題が行きづまったら、「要するに」と抽象化して眺め直してみる。ぜひ覚えてほしい思考法の一つです。

俯瞰的に見れば共通点が必ず見つかる

 同じように、意見の対立があるときにも抽象化が威力を発揮します。

 たとえば、テレワークの推進については対立する意見があるとします。営業部門は積極的に進めてほしいと強く望んでいるのに対して、人事部門では労務管理の観点から慎重な姿勢だと。

 一見、正反対のようですが、互いの言い分を少し抽象化して、心の中を探ってみましょう。

[OK] 一言で言えば、営業部(人事部)は何をしたいのでしょうか?

 そうすると、前者は「仕事に合った働き方」、後者は「最大限に人材を活用」といったニーズが見えてきます。「効果的な資源の運用」という意味では、大差ないのかもしれません。

 さらに両者を近づけるには、共通の関心事を探すことです。互いのニーズをさらに抽象化してみましょう。

[OK] 仕事に合った働き方(最大限の人材活用)とは、つまり、何を願っているのでしょうか?

 そうすると、「みんながイキイキと働ける会社をつくる」といったように、両者の思いは根本的なところでは一致していることが分かります。後は、それを達成するための最適な手段は何かを考え、両者の満足度が最大となる案を選べば、対立は解消できます。

 異なる意見でも、抽象化して俯瞰すれば、必ず共通項が見つかります。つまり、抽象化は問題解決の力強い味方であり、早い話が「使わないと損!」なわけです。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は5月12日の予定です。

この連載の一覧

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問題解決で「使わないと損!」なザックリ思考とは? (堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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