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最強のロジカルシンキング

ストレートに言わない人の対処法、最終兵器は?(堀 公俊)

第5回 「たとえば」 神は細部に宿るこの連載の一覧

ツッコミどころ満載の依頼メール

 何を隠そう(別に隠していないか)、私はスマホどころか携帯電話すら持っていません。そう言うと、ネアンデルタール人にでも遭遇したような目で見られます。誤解があってはいけないのですが、私は元々コンピューターの技術者でありITオンチではありません。単に面倒なだけです。

 すべての仕事の連絡はPCメールのみ。そのほうが効率的だし、エビデンスも残ります。ところが、たまにとんでもないメールが来て閉口させられます。典型的なのは、こんなパターンです。

 先生のご著書を拝見して深く感銘を受けました。つきましては、ご都合のよいときに弊社にてご講演を賜りたいのですが、経費削減がやかましきおり些少なお礼しかできません。つきましては、ぜひ一度お会いしてお話をさせていただきたいのですが、ご都合はいかがでしょうか?

 読みとれるのは、講演の依頼であることと、面会を求めていることくらいです。その他、何のテーマで話してほしいのか、どんな講演会なのか、予算はいくらなのか、会って何の話をするのか、急ぐ話なのか、まったく分かりません。

 仕方なく、「依頼内容を検討しますので、ご要望を具体的にメールでお知らせください」と返します。ところが、そういう人に限って「だからお会いして話を……」となります。

 「はっきりモノ申すのは失礼に当たる」と考える、礼儀正しい人ではないかと思うかもしれません。全然違います。たいていは思いつきで連絡してきた、何も考えていない人です。結局、後で苦労させられる羽目になるのです。

詳しく、ていねいに、かみ砕いて

 前回、「要するに」「つまり」と抽象的に考えることで、余計なものをそぎ落とし、物事の本質を見つけていくという話をしました。「要するに、講演を依頼したい」「つまり、お会いして話がしたい」と考えのエッセンスを取り出す思考法です。

 ところが、それだけだと、何が求められるのか、具体的なイメージがつかめません。抽象化しすぎると、内容があいまいになり相手に伝わりません。先ほどの事例のように、「だから何なの?」「何をしたいの?」と言いたくなります。

 そこで今回取り上げたいのが「たとえば」(具体的には、一例を挙げれば、たとえて言えば)です。物事を具体的に考える思考法です。細部(ディテール)に着目すれば、物事を詳しく、ていねいに、かみ砕いて考えることができます。

[OK] たとえば、10月頃に弊社の管理職200名に対して……
[OK] 具体的には、○○万円程度の予算しか手当てしておらず……
[OK] 一例を挙げれば、先生のご著書に書かれていた○○の部分を……

要素に分解して細かく考える

 「具体的に考える」とは、具体的には何をしたらよいのでしょうか?

 要は、考える粒を小さくすればよいのです。全体を部分に分解していって、一つひとつを詳細に検討していくのが一つのやり方です。

 一番簡単なのが5W1Hに展開することです。何を(What)、誰が(Who)、いつ(When)、どこで(Where)、なぜ(Why)、どのように(How)を明らかにします。

[NG] 先生にぜひ講演会をお願いしたいのです
[OK] たとえば、どんなテーマで、誰に対して、いつ頃にやればよいですか?

 それでも分かりにくければ、さらに細部に分け入っていきましょう。たとえば、考える対象を、要素、機能、属性で分解していくようにします。

[NG] 対象は当社の管理職です。
[OK] たとえば、男性と女性、事務系と技術系の比率は?

 データを使って考える「定量化」も具体的に考えるのに欠かせません。どのくらい(How much)の話なのか、程度を数字で把握するようにします。

[NG] なるべく早いお会いできると……
[OK] たとえば、何月何日までをご希望ですか?

ストーリーを使ってイメージしやすくする

 具体的に考えるもう一つのやり方があります。本当に起こった事例、経験、物語を使う方法です。

[NG] 先生にぜひ講演会をお願いしたいのです。
[OK] たとえば、以前にどのような講演会をおやりになりましたか?

 なぜ、これが有効かといえば、事例や経験談には5W1Hが自然と含まれているからです。加えて、物語には人の心に直接働きかけ、イメージを喚起する作用があります。物語を聞くことで、あたかもその場にいたかのように疑似体験ができるからです。

 たとえば、「お客様第一主義」という経営理念があっても、抽象的すぎて何をしたらよいかよく分かりません。であれば、この言葉を毎朝唱和するよりは、実際にお客様を第一に考えて行動して成功した事例を語り合ったほうが、よほど理念の浸透につながります。最近、注目を浴びているストーリーテリングと呼ばれる活動です。

 ストーリーと似たような効果を生むのが、比喩、ことわざ、名言、シンボルを使う方法です。

[NG] 講演会でみんなを奮起させてほしいのです
[OK] たとえて言えば、吉田松陰の「草莽崛起(そうもうくっき)」という感じでしょうか。

 ちなみに、私は、「ストレートに述べてくれ」といっても程度が分からない人に、最終兵器を使うときがあります。「当方、大阪在住の根っからの関西人です」と言うと、たいていは分かってくれます。シンボルを使ったのですが、喜んでいいのか、悲しむべきなのか……。

抽象化と具体化を組み合わせて使う

 抽象的に考えることは、物事の目的、原理、意味を見つめることにほかなりません。具体的に考えることは、物事の手段、イメージ、行動をあぶり出すことに役立ちます。「木(ミクロ)を見ず、森(マクロ)を見る」のも、「森を見ず、木を見る」のもどちらも重要です。

 なので、両者を組み合わせて使うのが一番です。自分の考えがいきづまったら、抽象度を動かしてみましょう。視点が変われば新たな発想がわいてきます。

[OK] 何をしたらよいか分からない。要は、何が今必要なのだろうか?
[OK] 何をしたらよいか分からない。たとえば、何が解決につながるのだろうか?

 この論法が一番役立つのが、テーマを深めるための話し合いである対話(ダイアローグ)です。抽象化に基づく原理原則と具体化から生まれる事例とをつきあわせれば、物事を深く考えることができます。ロジカルシンキングのトレーニング法としてもお勧めです。

[OK] 人は、なぜ働かないといけないのかな?
[OK] 要は、お金を稼ぐ必要があるからだよ。
[OK] たとえば、たっぷりお金がある人は働かなくてもいいの?
[OK] そうか……。じゃあ、つまり何らかの形で社会に貢献することだよ。
[OK] だったら、たとえば、ボランティアの方々は働くことにならないの?

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は5月19日の予定です。

この連載の一覧

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ストレートに言わない人の対処法、最終兵器は?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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