出世ナビ 記事セレクト

いま求められる6つの上司力

タイムマネジメント力(2)「5%ルール」の導入が部下のチャレンジ精神を喚起する!(西村克己)

5%ルールでチャレンジできるチームに

 現状維持にやっとで、仕事の改善や改革や考えるゆとりもないと悩んでいる管理職の方も多いのではないでしょうか。1年を振り返ると、現状維持か、事業の縮小。成果を冷静に見ると、この1年間何をがんばったのか明確でなく、達成感が得られません。

 部下は「今日の仕事で手一杯」だといいます。新しい仕事に着手して担当を決めても、「これ以上忙しくしないでくれ」不満ばかり。上司も部下もストレスがたまります。そして上司は経営幹部から「チャレンジが足りない」と怒られるのです。

1.今日のことで手一杯の上司と部下

 部下たちにチャレンジ精神がないと不満を持っている上司は多いようです。「自分が若い頃は、問題提起してチャレンジしたのに」と首をかしげます。しかし今の部下たちは、忙しいことばかり主張して、自分のテリトリーしか出ようとしません。「急に言われても困ります」と、上司を避けるようにする部下も多いことでしょう。

 なぜ部下たちは、チャレンジ精神が無いのでしょうか?実は、多くの上司は無意識のうちに、部下たちのチャレンジ精神をそぎ落としているのです。

 たとえば、部下が自発的に提案したことを、「もうちょっと頭を使え」「もっといい案があるだろう」「他にやることがあるだろう」など、無意識に批判するのです。批判されたと感じた部下は、「新しい提案をしてもムダだ」「提案して損をした」と感じます。

 上司がそれに気づかないため、部下たちは目の前の仕事だけやっていた方が楽だと考えるのです。結果的に、チャレンジ精神は失われていきます。

 チャレンジ精神を失うのは、「パブロフの犬」のような現象です。ベルを鳴らしてから食事を与え続けた犬は、ベルを鳴らすだけで唾液分泌がよくなるという実験から命名されました(実験者の名前がパブロフ)。部下は問題提起や新しい提案をしても、上司から受け入れてもらえない経験を何度かすると、提案してもムダだと無意識に思い、チャレンジ精神は潜在意識の下に沈んでしまうのです。

2.5%のゆとりが新しいゆとりを生む

(作成=西村克己) (作成=西村克己)

 部下のチャレンジ精神を育成したいなら、2つの環境提供が不可欠です。1つめは、問題提起や新しい提案に聞く耳を持つことです。少なくとも何らかの問題意識やアイデアがあるから発言しているわけです。部下の話をよく聞く姿勢が必要です。たとえば、「Yes・Yes・But法」(第9回目参照)で部下の話を聞くのです。頭ごなしに否定したのでは、問題提起や新しい提案に無関心になるでしょう。

 2つめは、チャレンジするために必要な時間と心のゆとりを持たせることです。まず時間のゆとりを与えます。時間のゆとりが心のゆとりとなり、改善努力を促し、問題提起や新しい提案の環境を提供するのです。

 少しのゆとりが仕事の質を上げます。少しのゆとりとはどれくらいでしょうか。ずばり最低5%です。5%は、1ヶ月であれば1日超、1日であれば30分弱です。

 5%の時間のゆとりは、心のゆとりを生み出し、仕事を改善しようという動機になります。ゆとりを自分の仕事の改善に使うのです。「今までの仕事のやり方をもっと工夫して短時間でできないか」ということに時間を使ってもらうのです。

 改善効果が出ると、人間は達成感を味わいます。小さな改善、小さな成功体験が達成感を生むのです。「達成感は仕事の活力の源泉」です。達成感が得られた部下は、仕事が面白いと感じます。仕事が面白ければ、やらされ感や義務感から解放されます。そしてまた、新しい達成感を求めて自主的に努力するようになります。

 わずか5%の時間のゆとりが心のゆとりを引きだし、新しい10%のゆとりを生むのです。最初の5%のゆとりがないと、いつも仕事に追われてばかりで、仕事はイヤなものだと被害者妄想に陥るのです。

 「5%のゆとりが10%のゆとりを生む」ことを、「ゆとり理論」と命名したいと思います。ゆとり理論なんて、あり得ないという人もいるでしょう。しかし目の前の忙殺から一歩抜け出す努力をしなければ、改善意欲は失われ、効率が悪い仕事のやり方から抜け出せないのです。

 だまされたと思って、最初の5%のゆとりを生み出してください。たとえば、仕事がたまっている人は、1日だけ休日出勤して仕事を減らします。1日分の仕事が減れば、5%以上の時間のゆとりが得られるはずです。そこから、10%のゆとりをめざして、仕事のやり方を創意工夫して改善するのです。

3.スリーエムの15%ルール

(作成=西村克己) (作成=西村克己)

 全社をあげて、「ゆとり理論」を実践している会社があります。粘着材で世界市場を開拓している3M(スリーエム)です。3Mは付箋紙で有名な会社なので、知らない人はいないでしょう。3Mの場合は、5%のゆとりではなくて、3倍の15%のゆとりを推奨しています。

 「15%ルール」は、新しいことを始めるためのルールです。社員の持ち時間の15%を、新商品開発や業務改革など新しい挑戦に使うことを推奨します。15%は、1カ月であれば3日間超(3.3日)、1日であれば1時間超(72分)です。会社として導入されたルールですから、誰はばかることなく、チャレンジのために時間を使えるのです。

 15%ルールには、「30%ルール」の条件が付帯しています。30%ルールとは、「15%のチャレンジ時間は、新製品比率の売り上げを高めるために使う」というルールです。そして実績として、「過去の4年間の売り上げを合計したとき、新製品比率が30%を超えていること」の達成が目標として与えられています。過去の4年間の売り上げ合計において、新製品が30%を超えていることが求められるのです。

 3Mで学ぶべきことは、チャレンジのための時間をきちんと確保することを全社レベルで決めている点です。チャレンジ精神の重要性と、新製品を作り続ける重要性を、経営方針に組み込んでいることです。

 過去の4年間の新製品比率30%は、非常に厳しい目標だと感じる人もいるでしょう。3Mの新製品の定義は3つあります。「改良品」「拡大品(市場を拡大する製品)」「真水(新分野での新製品)」です。改良品や市場を拡大する製品(拡大品)も新製品に算入できるのです。

 たとえば、品質向上とコストダウンを達成した改良品の売り上げも、新製品の売り上げに分類できます。拡大品とは、製品や技術の用途拡大による新しい市場の拡大に貢献する新製品です。

 3つめの「真水(新分野での新製品)」とは、全くの新分野での画期的な新製品です。改良品と拡大品も新製品ですが、3Mが最も注力すべきだと推奨しているのは、真水を増やす新製品です。

 管理職や上司の立場のあなたは、業務の運営方針を決めるとき、「5%ルール」または「10%ルール」を加えてはいかがでしょうか。現状打破の起爆剤として効果的です。部下に対して、新しいことへの取り組みの重要性、チャレンジ精神の重要性をわかりやすく伝えられるはずです。日常業務の中にチャレンジできる方針を組み込むのです。

 今回で12回連載を終了いたします。

  • 1日でわかる・戦略的思考力強化の進め方

    問題を発見・分析・解決するスキル続きを読む

  • よくわかる管理会計の基礎と実践

    会計の基礎知識を考える力にする続きを読む

  • 財務諸表分析と企業価値評価の基本

    企業価値向上の好循環を生みだす続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • 会社役員・幹部向けベーシックコース
  • 働き方改革プロジェクト実践講座
  • 上司力養成講座特集
  • ビジネス基礎力特集
  • ビジネススキル再点検
  • 日経緊急解説Live!
  • 日本版エグゼクティブ研究会
  • お気に入り登録&マイページ便利な使い方