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最強のチームビルディング

日本人をほめるのに失敗しない超便利なフレーズって?(堀 公俊)

第5回 自分らしさを発揮するには?

評判通りの意地っ張りなヤツだ

 昔、中国の晋の国に、秀才の誉れ高い孫楚という男がいました。ある日、俗世間を嫌って山で隠遁(いんとん)生活をしたいと思った彼は、友人の王斉に「漱石枕流」(石に口すすぎ、流れに枕する)と言いました。

 何か変じゃありませんか。そうなんです、正しくは「枕石漱流」(石に枕し、流れに口すすぐ)と言うべきだったのを、間違えてしまったのです。

 「そんなこと、できるわけがないじゃないか」と誤りを指摘されると、「石に口すすぐのは歯を磨くためであり、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言い張りました。「さすが、孫楚。うまいこじつけだ」とういうことから、「流石」という字を当てるようになったそうです。

 「さすが」とは、「予想通りに」「期待にたがわず」という意味です。「大したものだ」「それだけのことはある」「ダテに○○ではない」と納得や感心する様を表します。

 個人的には、このこじつけは「さすが」とは言い難いと思っています。少なくとも、孫楚の知力に対する「さすが」ではなく、性格に対する「さすが」と取るべきではないしょうか。評判通りの意地っ張りなヤツだと。

 それでも、「さすが」と言われたら悪い気はしません。相手が感心したり、一目置いてくれたりしていることが伝わるからです。ひいては互いの関係を深めてくれます。

「さすが」と言っておけば間違いない?

 「さすが」(思ったとおり、期待通り)は、相手を評価せずにほめられる便利なフレーズです。良いことであれ悪いことであれ、予想や期待に合っておれば「さすが」となります。

 NG 「部長を説得できたよ」「やれやれ、それはよかった」
 OK 「部長を説得できたよ」「さすが! それはよかったね」

 極端な話、とりあえず「さすが」と言っておけば、相手に好意的なメッセージを送ることになります。返答に困ったら「さすが」を使ってみてください。相手の名前を頭につけて。

 NG 「このアイデアどうかな?」「まあ、いいんじゃないの……」
 OK 「このアイデアどうかな?」「山田君。さすがだよ」

 ただし、初対面の人には要注意。たとえば、初めて商談をする相手に「さすが」と言うと、「どうしてさすがと言えるの?」となりかねません。そんなときは、ある程度評判が流通しているものに注意を向けるとよいでしょう。

 NG 「はじめまして」「さすが課長、いいスーツをお召しになって」「ン?」
 OK 「はじめまして」「さすが御社は受付の方もしっかりしておられて……」「ありがとうございます。よく言われるんですよ」

人は「共通性」と「独自性」を求める

 人は、少なからずみんなと一緒でありたいという、「共通性」を求める気持ちをもっています。同じ仲間であることを確認して、安心したいのです。チームおそろいのTシャツをつくって会議をやると全員が活発に発言するようになる、というのはこの性質があるからです。

 一方、みんなと同じだけでは、自分の存在が薄れてしまいます。みんなとは違って自分だけが持っているユニークなもの、すなわち「独自性」を求める性質もあります。みんなと同じでありたいと思いながらも、みんなと違ったものを求める。やっかいな性質をもっているわけです。

 典型的なのがファッションです。特に女性や若い人は、流行遅れと見られるのが嫌で、毎年のトレンドに乗った新しい服を買いそろえます。自分に合う合わない以前に、流行に乗ること自体に重きがおかれます。

 そうすると、まれに同じ服を着た人と鉢合わせすることがあります。この時ほど情けないことはありません。一生懸命に探して見つけた服だったとしても、他人と同じ選択をしたことで、個性を否定された気になるからです。

 「さすが」というフレーズは、「個性的でいたい」「自分は自分らしくありたい」という気持ちを高めてくれます。そうすれば、一人ひとりが持つ独自性をより発揮しようと思います。多様性を前提としたチームビルディングに欠かせないフレーズなわけです。

自分らしさって一体何だろう?

 ここで多くの方が疑問に思うのは、「自分らしいとはどういうことなのか?」ということではないかと思います。これは結構、哲学的な問いです。

 自分本来の特徴が発揮できているのが「自分らしい」です。ところが、人間は、社会的動物であり、周囲との関わりの中で自分をつくりあげていきます。状況や相手によって自分の心理や行動が変わり、時とともに変化や成長をし続けます。

 本来の自分を探すといっても、玉ねぎの皮をむくようなものなのかもしれません。どれが本来なのかよく分からず、むきすぎると何もないことに気がつくだけかもしれません。

 いずれにせよ、過去に発揮した「自分らしさ」をもとに、周囲は何らかの「あなたらしさ」を期待します。それは、自分が思う自分とは完全に一致しません。でも、その期待に応えようとして、「自分らしさ」を演じようとします。

 それは、本当に「自分らしい」と言えるのでしょうか。言えないとしたら、自分らしさとは誰がどう決めるのでしょうか。しかも、今までの自分なのか、これから目指す自分なのか、どちらを元にすればよいのでしょうか。考えれば考えるほど分からなくなります。

 なので、私からのアドバイスは、あまり深入りしないこと。「さすが」を使うときは、それだけを言って、自分らしさは相手に考えてもらうのです。「何がさすがなの?」と突っ込まれたら、もう一度力強く言い切ってください。きっと都合のよい解釈を見つけてくれるはずです。

 OK 「このアイデアどうかな?」「さすがだよ」「何が?」「君らしいじゃないか!」「そうかなあ……」「そうだよ!」

自尊感情が際立って低い日本人

 そもそも、私たち日本人は自尊感情が低い民族だと言われています。

 たとえば、「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成25年度、内閣府)において、主要7カ国の青年男女の意識を調査したところ、日本人の自尊感情が諸外国に比べて際立って低いことが分かりました。その理由を、加藤弘通氏が本調査の中で次のように分析しています。

 諸外国では、長所や挑戦心といった自己認識から自尊感情を立ちあげるのが一般的です。ところが、日本人は、「自分は役立つ存在であるか否か」という自己有能感が自尊感情に大きな影響を与えています。自分よりも他者との関わりの中で自己を認識する癖があるというのです。

 そういえば、先日「私は日本通で、ジブリ映画を研究している」というイタリア人と会いました。よくよく話を聞いてみると、「隣のトトロ」を見たことがあるだけ。「それでよく自信たっぷりに日本通なんて言うようなあ……」とあきれてしまいました。

 おそらく日本人なら、こんなときでも謙遜して「いえいえ」「私なんて」「この程度では」となります。ラテン系のポジティブ思考は、我々にはとても真似ができません。

 日本人は、たとえ立派な長所や技能を持っていたとしても、なかなか自分では認めようとはしません。だからこそ、みんなで「さすが」と言って、勇気づけてあげることが大切です。本人のやる気を高めるだけではなく、互いの持ち味を活かしたチームづくりに貢献してくれます。

◇   ◇   ◇

日本人をほめるのに失敗しない超便利なフレーズって?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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