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能力をほめられた子どもは、なぜ噓つきになるのか?(堀 公俊)

第7回「頑張った」 成果ではなく努力をほめる

ほめると嘘をつくようになる?

 心理学者C.ミューラーとC.デュエックは、子どもたちに簡単なテストを受けさせ、成績にかかわらず「80点以上だった」と伝えました。同時に、3つのグループに分け、(1)「頭がいい」と能力をほめる、(2)何もほめない、(3)「よく頑張ったね」と努力をほめる、の違った対応をしました。

 その後、2回目のテストをすることを伝え、「1回目と同程度の易しいテスト」と「1回目よりも難しいが、挑戦しがいのあるテスト」のどちらかを選ぶように伝えました。

 すると、(1)(能力をほめられた子)の35%しか難しいテストを選ばなかったのに、(2)(ほめられなかった子)は55%。(3)(努力をほめられた子)では、なんと90%が難しいテストにチャレンジしたのです。

 さらに面白いのはここからです。3回目には全員にとても難しいテストをさせ、成績をみんなの前で発表させました。すると、(1)の40%が嘘をついて実際よりも高い点数を言ったのに対して、(2)で嘘をついたのはわずか10%でした。

 そして最後に、全員に1回目と同じ易しいテストをしたところ、(1)は20%も成績が下がったにもかかわらず、(3)では平均30%も得点が上がったのです。

 ほめられて能力に自信を持つと、挑戦を避ける傾向が生まれます。しかも、結果が悪くてもそれを受け入れられず、嘘をつくようになります。さらに、失敗を恐れて緊張して、かえって成績を落としてしまう恐れがあるのです。

成果や能力ではなく努力を讃える

 もちろん、この話が大人にあてはまるとは限りません。しかしながら、このような傾向があることは、おおむねうなずけるのではないかと思います。

 チームの話に戻すと、そもそも仕事の成果は、本人の力だけでは決まりません。周囲の協力、環境の変化、運・不運といった本人以外の要素も大きく作用します。

 だったら、成果ではなく、プロセスをほめたほうが効果的です。能力や才能といったように、本人に関わる部分を。

 といっても、これらは生まれつきの部分が大きく、ほめられても急には向上しません。冒頭の実験で紹介したような懸念もあります。

 ところが、努力や工夫は頑張り次第でいくらでも増やすことができます。モチベーションやチャレンジ精神にもつながります。努力をたたえることは、本人にとってチームにとっても理にかなっているわけです。

 というわけで、今回紹介したいワンフレーズは「頑張った」(努力した、工夫した)です。

 NG 「この資料のまとめ方はどうかな?」「よくできているよ」(結果、内容)
 NG 「この資料のまとめ方はどうかな?」「センスがいいな」(能力、才能)
 OK 「この資料のまとめ方はどうかな?」「よく頑張ったね」(努力、過程)

プロセスをほめる言葉を増やそう

 頑張るとは「耐えて努力する」ことです。努力以外でも、本人が仕事や活動のプロセスにおいて注力したこと(行動や態度)であれば、ほめる対象になります。話の内容に応じて、臨機応変に使い分けてみましょう。

 OK 「無事に大役をやり通すことができました」「よく我慢したなあ」
 OK 「何とか交渉をまとめることできました」「よくやりぬいたよ」
 OK 「これなら誰からも文句がでないはずです」「すごく工夫したなあ」
 OK 「これこそ最善の策だと思います」「粘り強く考えたね」
 OK 「やれることはすべてやりました」「力を出し切ったね」

 東日本大震災の後、日本中が「頑張ろう、日本!」という標語であふれかえっていました。それに対して、「被災して苦しんでいる人に、これ以上何をどう頑張れというんだ」という批判も多く出ました。「頑張る」(work hard、do my best)と言われても具体性がなく、単に努力を強いられている感じがします。

 そこで出てきたのが「支え合おう、日本!」という標語です。確かにこちらのほうが何をするのかが明確であり、努力以外のものも考えられます。こんな風に、「頑張る」だけのワンパターンではなく、プロセスのほめ言葉を増やして、相手や状況に応じて使い分けられるようにしましょう。

分からなければ尋ねてみるのが一番

 この手の話をすると、よく質問があるのが「努力も工夫も忍耐もない人には、どうしたらよいでしょうか?」というものです。

 頑張り度に客観的な基準があるわけではなく、人と比べてどうこういう話ではありません。本人が頑張ったと思ったら頑張ったと認めざるをえません。

 とはいえ、誰が見ても頑張っていない人を「頑張ったね」とは言い難いのも分かります。嫌みに聞こえて、「ハイハイ、もっと頑張ればいいんですよね」と逆効果になる場合もあります。

 私からのアドバイスは、「本人に尋ねてみましょう」です。プロセス面において、どこに注力や工夫をしたか質問して、そこをほめてあげるのです。

 OK 「何とかやり終えました」「どこが大変だった?」「データ集めに苦労しました」「そうだね、よくこれだけ細かい数字を拾ったね」

 ずるいと思われるかもしれませんが、本人がほめてほしいところをほめるのが、一番効果があります。ほめられるとうれしいので、ずるい手を使ったと思われることもありません。ほめ方に困ったときはやってみてください。

第三者を通じて伝わるとうれしい

 ほめるのにもう一つよく使うテクニックがあります。直接本人に言わず、第三者にほめ言葉を伝えるワザです。

 OK 「最近、山田君、頑張っているみたいだねえ」「そうですよね」

 うまくすれば、いずれ本人の耳に届くようになります。このほうが、直接言われるよりもはるかにうれしいものです。

 なぜかと言えば、良い噂が回り回って届くというのは、仲介した人もそれを認めているからこそ。伝言ゲームを通じて内容の信頼性が高まるからです。

 OK 「山田君、田中さんが『山田君は最近頑張っている』と言っていたよ」「え、ホント!」

 また、このやり方だと、面と向かっては恥ずかしくて言えないことも伝えることができます。不器用な方には打ってつけの方法です。

 ただし、これはほめるときだけの話であって、ネガティブな話では使わないこと。第三者から悪口が聞こえてくると、余計に腹が立ちます。「言いたいことがあれば、直接言ってこい!」となり、関係性を悪化させます。

 ポジティブな話を間接的に伝えるのがよくても、ネガティブな話は直接的に伝える。つい逆になりがちなので注意しましょう。

◇   ◇   ◇

能力をほめられた子どもは、なぜ噓つきになるのか?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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