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最強のチームビルディング

セールスレディーを自在に操るスゴ腕所長の「コツ」(堀 公俊)

第8回「おかげ」 チームへの貢献を讃え合う

アンタが大将! アンタが大将!

 私の知人に多数の女性従業員を自在に操るスゴ腕の男がいます。ある大手生命保険会社の営業所長なのですが、配下に何十人ものセールスレディーを抱えています。いかに彼女らのやる気と知恵を引き出すかが、営業所の成績に直結します。

 私なんて、妻や娘の相手をするだけでも四苦八苦しているのに、一体どんな方法を使っているのか。平身低頭で教えを乞うたところ、「そんなの簡単♪」と意外なコツを教えてくれました。

 毎日、誰かを所長室に呼び出して、1対1の面談を欠かさずやっているそうです。そのときに、必ず伝えるメッセージがあります。「佐藤さん。いつもホントに助かっているよ。あなたがいるからこそ、この営業所は持っている。今の私があるのはあなたのおかげだ」と。

 こう言われて、やる気にならない人はいません。言われたことを誇りに思い、もっと頑張ろうと思うはず。さすが、手練手管、百戦錬磨のベテラン営業所長です。

 でも、皆さん不思議に思いませんか。全員に「あなたこそ……」といっているわけです。他の人にも同じことを言っているとバレたら、大変なことになりませんか。

 疑問を彼にぶつけると、笑って答えを返してくれました。「大丈夫。男性と違って女性はそんな話を吹聴したりしません。仮にバレたとしても、自分に言ってくれた言葉こそが真実だと思うのが女性です」と。ウ~ム、そこまで心の機微を読むとは、恐ろしい人だ……。

人の役に立つことほどうれしいことはない

 今回紹介したいフレーズは、まさに彼が使っている、「おかげ」(助かる、役に立つ、必要である、頼りになる)です。「有用な存在である」ということや、チームへの貢献をたたえる言葉です。

OK 「商談、どうでしたか?」「君のおかげでうまくいったよ」
OK 「これでどうでしょうか?」「いつもホント助かるよ」
OK 「私がやりましょうか?」「こんなときこそ頼りになるよ」

 このフレーズ、特に女性に響くことば冒頭の事例で紹介した通り。効果を疑っている人のために、もう一つデータを紹介することにしましょう。

 アルバイト情報「an」が女子学生100人に「店長に言われてうれしい一言とは?」を尋ねたところ、このフレーズが堂々第1位を獲得しました(1位:居てくれて助かるよ 2位:よく気が利くね 3位:いつも頑張っているね 4位:ありがとう)。

 第5回で述べたように、私たち日本人は「自分は役立つ存在であるか否か?」が自尊感情に大きな影響を与えています。他者との関わりの中で、自分の存在を承認する傾向があるのです。だからこそ、こういった自己有能感をくすぐるフレーズが威力を発揮するわけです。

自分というブランドを向上させる

 もちろん、男性に対してもこの言葉は効果的です。ただし、女性とは少しポイントが違ってきます。男性はプライドや名誉を何より大切にします。単に役立っているだけではなく、「特別な存在である」ところに自尊心がくすぐられるのです。

OK 「何とかやりとげたぞ」「それができるのは、山田さんしかいません」
OK 「そんなのできるわけがない」「本当に分かっているのは山田さんだけですよ」
OK 「私が話を通しておくよ」「やっぱり山田さん抜きでは仕事が進みませんよ」

 これらのフレーズ、どこかで耳にしたことはないでしょうか。いずれも、サラリーマンが集う酒場でよく聴くフレーズです。普段なかなか満たされない 自尊心を、「あんたが大将!」と互いに持ち上げて、慰め合っているわけです。アルコールの力を借りて。

 実際には、特定の誰かがいないと困るようなことは多くなく、いなければいないで何とかなるものです。また、困らないようにするのが組織づくりです。そんな哀しい現実が薄々分かっているからこそ、「あんたが大将!」が必要なわけです。

 数年前、千葉のホテルのレストランが一般向けの料理レシピコンテストを実施しました。賞金や賞品は一切なく、最優秀作品は考案者の名前と顔写真とともにメニュー化され、ホテルの情報誌にも掲載されて県内に配布されるだけ。にもかかわらず、名誉を求めて多くのママさんシェフが応募したそうです。

 昔から「男はプライド、女は感情」と言われてきました。最近は、男女問わず、自分というブランドの価値を向上させることに大きな喜びを感じるようになってきました。そのため、毎号の社内報に全員が登場させて、一人ひとりの仕事ぶりをアピールしている会社もあるくらいです。

2種類の信頼を地道に積み重ねていく

 有用であることや貢献していることから一歩進め、「信頼」を伝えると関係性がさらに深まります。男女問わず心によく響く言葉です。こう言われると悪い気はしません。

OK 「これ、やっておきましょうか?」「悪いな。いつも頼りにしているよ」(安心して任せられるよ、君じゃなきゃ頼めないよ)

 ただし、最近は頼られたくないし、頼りたくもないというマイペース人間が増えてきていますので、相手を見て使うようにしたほうが無難です。

 ちなみに、社会心理学者・山岸俊夫氏によれば信頼とは大きく2つあります。1つは、期待通りの成果を出すという、「能力に対する信頼」です。平たく言えば、やると言ったことをキッチリやり遂げるかどうかです。

 信頼のもう1つは、社会規範にそった思考や行動ができるかという、「意図に対する信頼」です。たとえば、どんなに有能な人であっても、自分の懐を肥やすために仲間を裏切るのでは、安心して任せられません。

 両方があいまったときに大きな信頼が得られ、安心して任せることができます。それは一朝一夕には築けず、地道な努力の上にできあがるものであることは言うまでもありません。

置かれた場所で咲くのが日本人

 話を戻すと、多くの日本人は役に立つ存在であることに生きがいを見いだします。この特質は、チームの力を結集するときにも頭に入れておかなければなりません。

 チームビルディングの重要なツールの一つに「ビジョン」があります。「業界ナンバーワンを目指す」といったような目標を定め、メンバーのベクトルをそろえるのに役立てます。

 ところが、こういう言葉に鼓舞されるのは、自分の信念をしっかりと持ち、自らが抱く夢や目標に向け、自分の才覚と努力でそれを勝ち取っていくアメリカンな人たちです。どちらかと言えば、与えられた役割を果たす中で、自分の居場所や本当にやりたいことを見つけ出すのが、日本人の生き方です。「誰かの役に立ちたい」「恥じない仕事をしたい」と考え、貢献や価値を求めようとします。

 たとえば、朝礼で一人ひとりに「私は○○を目指します!」と宣言させる会社があります。「ギネスに挑戦!」といったイベントで目標達成の喜びを実感させたりするところもあります。裏を返せば、こういったしつけをしなければ、目標に向けて頑張るという意識が育たないのです。

 「何を目指すのか?」でまとまるのは、どちらかと言えば体育会系の組織。それ以外では、「この仕事は誰のどんな役に立っているのか?」「そのためには、何を大切にしないといけないのか?」を共有するほうがまとまりがよくなります。実際に、多くの企業の経営理念は、ビジョン(理想像)よりもバリュー(行動指針)やクレド(信条)が中心となっています。

 チームビルディングの考え方は、多様性を重んじるアメリカの文化が下敷きになっています。日本の組織風土にあわせてアレンジを加える、和魂洋才の知恵が求められるわけです。

◇   ◇   ◇

セールスレディーを自在に操るスゴ腕所長の「コツ」(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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