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最強のチームビルディング

電車内のけんかを一発で止めた一言とは?(堀 公俊)

第11回「見えます」 相手の鏡になって事実を伝える

車内のけんかを一発で止めた達人の技

 私の知人の武勇伝を一つ紹介しましょう。仕事の帰り、ホームにやってきた電車に飛び乗ったところ、車内が異様な雰囲気なのに気づきました。体格のよい中年の男性二人が、胸ぐらをつかみ合って口論しているのです。剣幕に圧倒されて、誰も止めに入ろうとしません。

 見るに見かねた知人が二人に声をかけたところ、ピタリとけんかを止めて大人しくなったそうです。さて、何と言ってけんかを止めさせたでしょうか。

 「けんかは止めてください」なんて台詞が通用する状況ではありません。「お前たち、うるさいぞ」と怒鳴ると、「なんだと!」となってこちらに火の粉が飛んできます。「やるなら外でどうぞ」なんて言うと、「どこでやろうが俺たちの勝手だ!」と火に油を注いでしまいます。

 そうではなく、「まわりを見てください。空気、読めていますか?」と尋ねたのです。二人の肩を軽く叩きながら。

 そう言われて一瞬で我に帰り、自分たちがやっていることが周囲にどんな影響を与えているか気づいた二人は、つかんでいた手を離したそうです。気まずくなったのか、一人は次の駅で降り、もう一人は別の車両に移動して一件落着となりました。

 その話を聞いて彼に質問してみました。相手が「そんなの分かっている。何か文句あるか!」と言い返されたら、どうするのかと。

 「それなら結構です。お取り込み中、お邪魔して申し訳ありませんでした」と謝って、一目散に逃げたそうです。う~む、やはり良い子はまねをしないほうがよいのかも……。

相手の鏡となって指摘をする

 私の知人がやった行為のことを「フィードバック」と呼びます。

 たとえば、私は今この原稿を書いていますが、本稿が読者にどう受け取られているかは分かりません。指摘してもらって初めて、皆さんがどう思っているか気づきます。いわば、相手の鏡となって、「今、こんなふうに見えていますよ」と伝えるのがフィードバックです。

 今回お勧めしたいのは、自分の見立てを相手に伝えるためのフレーズ「見えます」(感じられます、しています、受け取っています)です。

OK 「まわりの方が迷惑を感じられているように見えます
OK 「私には、今回の内容が少し上滑りしているように感じられます

 何のためにフィードバックするかといえば、こちらが提供する事実や洞察を、学習の材料にしてもらい、行動を変えるヒントにしてほしいからです。一方的な指示や評価よりも、相手の主体性を生かした学習につながります。

NG 「仕事のやり過ぎは止めなさい!」(指示)
NG 「仕事のやり過ぎはよくないなあ……」(評価)
NG 「仕事をやり過ぎないほうがいいんじゃないですか」(助言)
NG 「仕事をやり過ぎずに済ませる手はありませんか?」(質問)
OK 「仕事のやり過ぎをみんなが心配していますよ」(フィードバック)

2つの事実をありのまま伝える

 では、いったい何をフィードバックすればよいのでしょうか。

一つは、相手を含め、みんなの行動や態度といった、誰の目でも確認できる事実です。分かりやすく言えば、「今、何が起こったのか?」「誰がどうだったのか?」です。

OK 「今、急に声のトーンが下がりましたよね」(客観的事実)

 もう一つは、「何を感じているのか?」「心の中で何が起こったのか?」です。知覚、感情、情動といった心理的な事実です。客観的ではありませんが、本人にとってはこれも事実となります。

OK 「少し興奮しておられるようですね」(心理的事実)

 もちろん、事実といっても、それを観察するのは人間です。少なからず観察者のフィルターがかかっており、同じものを見ても人によって受け取り方が違います。だからこそ、互いにフィードバックし合って、本当は何が起こったのか、真実を明らかにする必要があるのです。

 たとえば、チームでよくあるのが「○○と言ったはずだ」「いや聞いていない」という論争です。こういう時こそ、「言った/言わない」の話に加え、それをどう受け取ったか、二つの事実をフィードバックし合う必要があります。そうすれば「言ったつもり/聞いたつもり」に原因があることに気づくはずです。

「私」を主語にして解釈を伝える

 さらに踏み込んで、事実という材料を提供するだけではなく、その解釈を語るフィードバックのやり方もあります。

OK 「痛くもない腹を探られ、ムッとしておられるようですね。違いますか?」
OK 「『早く落ち着かないといけない』と思い、あせっておられるのですね」

 うまくすれば、「その通り!」(全然、違うよ!)となり、「そうなんです……」(実は、そうではなく……)と自己開示を促すことにつながります。

 ただし、このやり方はリスクを伴います。単に事実だけを伝えるのであれば、相手を傷つける恐れもなく、反感を与えることはありません。ところが、心の中を詮索するとなると「どうしてお前にそんなことまで……」となる危険性がでてくるからです。

 そうならないためには、「あなた」ではなく、「私は」を主語に立てるのがよい方法です。あくまでも個人的な解釈であり、人それぞれ解釈がありうることを暗に伝えるのです。

NG 「あなたは、あせってしているのですね」
OK 「私には、あなたがあせっているように見えました」

最後に期待や感謝を伝えて励ます

 フィードバックを受けて、それをどう生かすかは相手次第。それ以上踏み込むことは避けるべきです。おせっかいな助言や提案をしてしまうと、せっかくの主体的な学習を妨げてしまいます。

 フィードバックをした後にできることといえば、期待や感謝の気持ちを伝えて、励ますことくらいです。

OK 「正直言って、今回はちょっと物足りない感じがしました。いつも頑張ってくれてありがとう。次回も期待していますよ。いつも応援していますから」

 前回は、自分の心の中をオープンにする自己開示の話をしました。そして、今回は、他者の行動や心理を指摘するフィードバックを取り上げました。両者が相まって、互いの理解が進み、チームの絆が高まっていきます。

 皆さんは、どれほど率直に自分のことをいつも語っているでしょうか。また、それほど素直に他人からのフィードバックを受けて入れていますか。上司や同僚など、いろんな人を思い受かべながら、それぞれ10段階で評価してみてください。

 おそらく、相手によってバランスが悪かったり、ほとんどどちらもやっていない人もいるはず。そこに力点をおいて、コミュニケーションを強化してみてはいかがでしょうか。

◇   ◇   ◇

電車内のけんかを一発で止めた一言とは?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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