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最強のチームビルディング

沈没する船 日本人乗客を海に飛び込ませるひと言は?(堀 公俊)

第16回「大切なのは」 価値を尊重しつつ融通を利かす

どう言えば海に飛び込んでくれるか?

 さまざまな国の人を乗せた豪華客船が事故に遭って沈みだしました。船長は、速やかに船から脱出して海に飛び込むように、乗客たちに指示しなければなりません。それぞれの外国人乗客に何といって説得するでしょうか(早坂隆『世界の日本人ジョーク集』中公新書ラクレ)。

 皆さんも考えてみてください。乗っているのは、米国人、英国人、ドイツ人、イタリア人、フランス人、日本人の6カ国の乗客です。

 正解はこうです。アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」と言い、イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」と言います。ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」と言えばOK。イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」、フランス人には「飛び込まないでください」と言うのがよいそうです。

 では、私たち日本人には、何と言えばよいでしょうか。答えは「みんな飛び込んでいますよ」です。たしかに、そう言われると飛び込まざるをえなくなるのが、日本人の悲しい性。みんなが同じ方向に向けて泳ぐ「メダカ社会」と揶揄(やゆ)されるゆえんです。

 こんなふうに、お国が違えば大切している価値や、行動の元になる規範が違います。ドイツ人はルールに厳格に守ることを重んじ、日本人は人の和を大切にする、といったように。いずれも長い歴史の中で培われてきたものです。どれが良くてどれが悪いというものではありません。

 大事なのは、違いを理解して尊重することです。それこそが、多様性を活(い)かしたチームビルディングの原点になります。

物事を判断する基準を明らかにする

 私たちは、毎日いろんなことを判断したり、選択したりします。たとえば、皆さんが今このコラムを読んでいるのも、面白くないので読むのをやめるのも、その一つです。あまり意識することなく、半自動的に物事を決定していると思います。

 ところが、多様な人が集ってチーム活動をしているときは、それでは困ります。なぜ、そういう選択をしたのか、何を大切にして決定したのか、判断の基準が分からないからです。先ほど紹介したように、判断で重要視される価値は人によって違い、ちゃんと伝えないと理解が得られません。

 そこで、用いるフレーズが「大切なのは」(大事なのは、守るべきは、優先すべきは)です。

NG 「すぐに対応すべきだよ」「ン?(なんで、そうなるの?)」
OK 「すぐに対応しないといけない。今、大切なのは、何よりもお客の安全だ」
OK 「すぐに対応しないといけない。優先すべきは、問題をこれ以上大きくしないことだ」

 逆に、相手の基準が分からなければ、こちらから尋ねてみましょう。

OK 「何を大切にして、そう判断したの? よりどころは何?」
OK 「何を大事に(優先)しようとしているの?」

働く人が目指す価値には8種類ある

 こうやって、選択や判断の基準を明らかにしていくと、「山田さんは、完璧に仕上げることを重きにおく人だ」といった傾向が見えてくると思います。それこそが冒頭のエスニックジョークです。

 たとえば、組織心理学者のE.シャインは、働く人が目指す価値には8種類あると考えました。

①専門能力 :自分が得意とする特定の分野で専門能力を発揮したい
②経営管理 :組織をうまくマネジメントして、組織の期待に応えたい
③安定   :変化を好まず、安定・着実に組織と関わっていきたい
④創造性  :リスクを恐れず起業家のように新しいものを創り出したい
⑤自律   :組織に縛られず、自分の裁量やペースで仕事がしたい
⑥社会貢献 :仕事を通じて社会づくりや他者の救済に寄与していきたい
⑦全体調和 :仕事、家庭、自己実現などをバランスよくこなしていきたい
⑧挑戦   :難問を解決したり、競争に勝つためにチャレンジしたい

 一方、性格をタイプ分けする方法として有名なエニアグラムでは、①完全でありたい、②奉仕をしたい、③達成したい、④個性的でいたい、⑤知識を得たい、⑥安全でいたい、⑦熱中したい、⑧挑戦したい、⑨平和でいたい人の9つの欲求に分類しています。

 見れば分かる通り、両者はとても似ています。人間が目指す価値にそれほどバリエーションはないわけです。代表的なものだけでも頭に入れておけば、言動を理解する助けとなります。ほめるときも、そこに力点をおけば効果抜群となります。

OK 「さすが、山田さん。目のつけどころが斬新ですね」(④創造性)
OK 「田中さん、よくあのピンチを切り抜けることができましたね」(⑧挑戦)

御社の経営理念が説明できますか?

 こんな話をすると、「こんなにも違った価値を持つ人同士で、どうやって合意を築くのか?」と疑問に思う人がいるかもしれません。一つのやり方は、異なる価値の上位概念をよりどころにすることです。一番使いやすいのが、チームで共有する理念です。

 たとえば、皆さんがお勤めの会社や団体には、経営の方向性や規範を定めた「経営理念」と呼ばれるものがあるはず。その内容を、社外の人に分かりやすく説明できるでしょうか。

 企業研修でこの質問をすると、みんなあたふたと手帳を取り出したり、スマホで検索したりし始めます。安心してください。「企業理念の浸透と社員のパフォーマンスに関する調査」(JTBモチベーションズ)によれば、なんと一般社員の33%しか説明できないそうです(部長クラスでようやく85%)。

 ところが、「業績を上げている社員は、企業理念を社外の人に説明でき、企業理念に沿った行動を取って」いるとの調査結果が出ています。

 企業理念に沿った行動を取っている社員は、「自律性やモチベーションが高く、会社の将来性を信じて」いるそうです。「自分の意見が職場や組織の運営に反映されている」、「自社は、社会に貢献する仕事をしたり、取り組みをしたりしている」とも感じています。

 企業理念は、判断のよりどころとなるのはもちろん、人と組織の活性化にとってなくてはならないもの。単に唱和したり、ポスターを掲げるだけではなく、その意味を議論したり、経験談を語り合ったりして、広く価値を共有するように努めましょう。

勇気をもって折り合いをつけよう

 もう一つのやり方が、守るべき信念や大切にしている価値へのこだわりを緩めて、折り合うものを見つけ出すことです。第13回でお話をした方法です。

 具体的には、互いの価値を十分に尊重した上で、今この問題の解決のためにどこまで融通を聞かせられるかを話し合うようにします。だからといって、自分の価値を捨てるのではなく、逆に守るためにあえて苦渋の選択をするのです。

NG 「私にとって大切なのは挑戦することだ。そこは1ミリたりとも譲れない」
OK 「私にとって大切なのは挑戦することだ。そこは絶対に譲れないが、それを言っていると決裂して、挑戦すらできなくなる。今回は問題を解決するために、一部は挑戦しないという選択肢を認めることにしよう。それは私にとって新たな挑戦かもしれない」

 これは単なる妥協ではなく、名誉ある撤退です。互いの価値を認めた上で、もっと大きな価値のために、勇気をもって折り合いをつけたわけです。こうすれば、チームにしこりが残ることなく、逆にチームの結束を高めてくれます。まさに、「雨降って地固まる」です。

◇   ◇   ◇

沈没する船 日本人乗客を海に飛び込ませるひと言は?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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