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最強のチームビルディング

同僚の愚痴に対するリアクション、共感得るのはどれ?(堀 公俊)

第3回「大変だ」 相手の気持ちに寄り添っていますか?

アンタはあの先生を見習え!

 実家から歩いて5分のところに近所で評判のお医者さんがいます。時々、母親をそこに連れていくのですが、朝一番にフライングして飛び込んでも2時間くらい平気で待たされます。

 母が語るには、有名な大病院に務めた経験がある名医ではないそうです。町医者なので、最新の医療設備があるわけでもありません。にもかかわらず、お年寄りから子どもまでが押しかけ、毎日大変なにぎわいです。なぜ、それほどまでに人気があるのでしょうか。

 母親は80歳をとうに越えています。いろんな痛みや不具合を訴えるのですが、どれも原因がハッキリとしません。強いて言えば老化であり、治療をしてもスッキリ治ることもありません。

 それでも、この先生のところに足繁く通います。苦しみや悩みを訴える患者の声をじっくりと聞き、「大変でしたね」「痛かったでしょう」「安心してください」「必ずよくなりますから」「いつでも来てくださいね」と優しい声をかけてくれるからです。それだけで、心が少し軽くなるのです。

 母も、「歳だから仕方ない」ことくらい百も承知です。それでも、不安や悩みを誰かに言いたいのです。苦しい気持ちに共感してもらいたいのです。「薬」ではなく「言葉」で患者を癒やしてくれるから、患者がひきもきらないのです。

 「アンタはあの先生を見習え」と母にいつも怒られます。私だって、仕事のときはそうしています。毎日同じ愚痴を聴かされたら、誰だって共感力が萎えてしまいますよ……。

理解と共感が関係性をつくりあげる

 前回、人と人の関係性を高めるには、互いが「分かり合う」ことがベースになるという話をしました。その時に述べませんでしたが、「分かる」には2種類があります。一つは、事実、根拠、筋道、構造、意味といった、理性的な理解です。

 もう一つの「分かる」は、知覚、心象、情動、情感といった、感情的な理解です。平たく言えば、気持ちを分かち合うのが共感です。ここが、医者と私との「分かる」の違いです。

 相手の気持ちが分かったら、自分の言葉で表してみましょう。そうすれば、同じ気持ちを持ち合えたことが相手にも伝わります。

 代表的なフレーズとして「大変だ」(つらかった、ガッカリだ、疲れた)を挙げておきます。「うれしい」「気分いい」「ハッピー」といったポジティブな感情でもOKです。

 NG 「上司に怒られちゃった」「あらあら」
 OK 「上司に怒られちゃった」「それは大変だったね
 NG 「何とか成約できたぞ」「おめでとう」
 OK 「何とか成約できたぞ」「それはうれしいね

聴き方には7種類のバリエーションがある

 簡単なようで難しいのが共感です。たとえば、あなたの同僚が「もうこんな仕事、やりたくない」と愚痴ったとしたら、まずはどのようにリアクションしますか。

 この質問をコミュニケーションの研修でやったところ、7通りの答えが返ってきました。いずれも、悪いわけではありませんが、本当の意味で共感とは言えるのは最後の一つだけです。

 NG 「こんな仕事、やりたくない」「どうしてそう思うの?」(分析)
 NG 「こんな仕事、やりたくない」「それはよくないなあ……」(評価)
 NG 「こんな仕事、やりたくない」「やったほうがいいんじゃない?」(助言)
 NG 「こんな仕事、やりたくない」「だったらやめればいいよ」(許可)
 NG 「こんな仕事、やりたくない」「もったいないなあ……」(同情)
 NG 「こんな仕事、やりたくない」「私もそう思うときがあるよ」(同感)
 OK 「こんな仕事、やりたくない」「やる気にならないんだね」(共感)

 回答で最も多かったのが分析、すなわち理性的な理解を求めるリアクションです。必要なことではあるものの、愚痴っているのですから、順番としては共感が先。その上で、少しずつ分析に入ると会話も弾みます。

 同情、同感、共感の区別がつかない人もいます。同情は、上から目線で相手の感情を見ることです。話し続けるうちに評価や助言になりかねません。同感も、気がついたら自分の方が話をしてしまい、相手の気持ちが置き去りになる恐れがあります。

分からなければ語尾を繰り返してみる

 この種の研修をしていると、「気持ちをつかむのが苦手です。どうしたらよいですか?」という質問をよく受けます。どちらかと言えば、男性は感情面に疎く、ビジネスシーンで感情を扱うことをよしとしない風潮もあります。感情のアンテナの感度が下がることは否めません。

 しかしながら、理屈だけでは人や組織が動かず、感情が扱えないとよいチームがつくれません。苦手な方は、カウンセラーがやっているような、相手の言葉を繰り返すところから始めてみましょう。やっているうちに相手の感情が透けて見え、そこで共感のフレーズを繰り出すのです。

 NG 「また、転勤だってさ」「ガッカリだね」「いや、そうでもないんだ」「え?」

 OK 「また、転勤だってさ」「あらあら、転勤なんだ」「そうなんだよ、これで3度目」「へえ~、3度目なんだ」「一から頑張るしかないか」「大変だね」「まあな、何とかするさ」

 ただし、毎回これをやられると正直言ってうっとうしいです。ここぞというところで、タイミングよく使ってみてください。

言い訳をすると火に油を注ぐことに

 共感には怒りをなだめる作用もあります。私の経験談を一つ紹介させてください。

 わが家の隣に新しい人が引っ越ししてくることになり、その日だけわが家の前に引っ越しのトラックを留めてもらうことにしました。ところが、段取りが悪くて夜の10時なっても作業が終わりません。夜にもかかわらず、荷物を動かす大きな音や作業員の掛け声が近所に鳴り響きます。

 とうとう、ほとんど付き合いのなかった向かいの家の方が、ウチの家の引っ越しだと勘違いして、すごい剣幕で怒鳴り込んできました。「今、何時だと思っているんだ!」「ウチには病気の年寄りがいるんだぞ!」と。

 騒ぎを聞きつけ、引っ越し中の隣の奥さんがビックリして謝りに出てきたのですが、つい「引っ越し屋の段取りが悪くて……」と言い訳をしてしまいした。「そんなことを言ってるんじゃない!」「分かっとらん!」と怒りさく裂。見るに見かねた私が間を取り持つことにしました。

 「それは腹が立ちますよ」「ウチだっていい迷惑です」「お隣の奥さんも、逆の立場だったら怒鳴りたくなりますよね」といった具合に。3者が同じ気持ちを持ち合っていることを丁寧に伝えるようにしたのです。

 怒りという感情は、問題もさることながら、相手に気持ちが届かないことに燃料となって燃え盛るもの。届いたことが分かると少し落ち着きます。

 怒りが収まれば、問題解決に向けての歩み寄りが始まります。協力関係ができれば問題は早く片づきます。この時も30分だけご近所に我慢してもらい、騒音を気にせずフルスピードで引っ越し作業を終えてもらいました。みんなで手伝って。

 この一件で、私の株は大いに上がり、それぞれの家からとても感謝されました。今でもよいご近所づきあいが続いています。お袋さん、私だってできるんだからね!

◇   ◇   ◇

同僚の愚痴に対するリアクション、共感得るのはどれ?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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