出世ナビ 記事セレクト

最強のチームビルディング

常識人ほど腹が立つ 信念や価値観はゆる~く!(堀 公俊)

第13回「~たいです」 「べき論」を語ると行きづまる

常識人になればなるほど腹が立つ

自分の思考の癖を知るための簡単なエクササイズを紹介します。お時間のある方は、手元に白紙と筆記用具を用意して、紙の真ん中に一本の線を上下に引いてください。

まず紙の左半分に、「腹が立つ」「悔しい」「情けない」「恥ずかしい」「恐ろしい」といった、ネガティブな感情を抱いた出来事を箇条書きで挙げていきます。あまり古い話だとよく思い出せないので、最近あったことの中から3つ4つ選んでください。

おそらく、そういう気持ちを抱くには、なんらかの前提があるはずです。たとえば、電車の中で大声で話す人に腹が立ったとしたら、「電車の中は静かであるべきだ」「公の場所では周囲に配慮するのが当たり前」という信念があるからです。そうでなければ、腹が立つ理由がありません。

次に、そういった普段当たり前だと思っている信念や価値観を、書き出したエピソードに応じて、紙の右側に挙げていってください。「○○すべきだ」「○○するのが当たり前だ」「○○でなければならない」といった表現で。

書き終わったら、右側に並んだ信念をざっと眺めてみてください。何となく、自分の人柄が透けて見えるのではありませんか。何度も登場する信念があったとしたら、意識する/しないに関わらず、よほどそれにこだわっているのです。

逆に言えば、そのこだわりを少し緩めると、ネガティブな気持ちになることが少なくなり、楽しく人生が過ごせます。出来事に絶対的な意味はなく、自分が決めているわけです。

「べき論」ではやっていけない

チームビルディングで一番頭の痛いのが、互いが持つ信念や価値観の違いです。

人は誰しも、前提となる思考の枠組みや、大切にしている価値があります。英語で言えばMust/Shouldで表現される考え方です。

NG 「こんな時こそ、みんなで一致団結すべきだ
NG 「だからといって、簡単にあきらめては駄目だ

それ自体は悪いものではないのですが、世間一般に通用する原理原則だと勘違いし、人に押しつけてしまうと、面倒なことになります。相手には相手の当たり前としている考えがあり、信念と信念がぶつかり合ってしまうからです。最悪の場合、「常識が通用しない人とは一緒にやっていけない」となり、チームが崩壊しかねません。

多様な人々がチームを組む際に「べき論」は禁物。すべての考えは個人的ものであり、絶対的に正しいことはない。そう考えて、英語で言えば、Will/May/Canを使って意見を述べるようにしましょう。「すべき」ではなく「したい」いったように。これが今回のワンフレーズです。

OK「こんな時こそ、みんなで一致団結したい
OK 「だからといって、簡単にあきらめられない

合理的で柔軟な考えになっているか?

中には「とはいえ、世の中には正しい考えがあるのではないか」「チームで共有している常識なら構わないのでは?」と思う人がいるかもしれません。

そう思う方は、今から紹介する4つの質問を試してみてください。先ほどリストアップした信念の中で、最も正しいと思えるものを一つ選んで。

たとえば、「約束は必ず守るべきだ」と考え、不誠実な人に腹を立てていたとしましょう。一見、誰が見ても納得できる考え方でが、念のため1つ目の質問で調べてみましょう。

OK 「その考えは事実に基づいていますか?」

「守る/守らなかった」とは判断であって、事実ではありませんよね。どれくらいやれば、「守った」とみなされるのでしょうか。いったい、どうやって検証されたのか、何か客観的な基準でもあるのでしょうか。

守らない人に腹を立てているというのなら、当人がどれくらい平均や中央値から劣っているか科学的に測定されましたか。いずれにせよ、勝手に思い込んでいるだけで、事実やデータに基づいた考えとは違うのではありませんか。

ある程度吟味ができたら、2つ目の質問にいきましょう。

OK 「その考えは柔軟なものですか?」

いついかなる場合にでも、約束を守ることが本当に必要なのでしょうか。そうしないと、社会生活を送る上で致命的なのでしょうか。守れない人は、この世の中で生きてはいけないのですか。できない人にはできない人なりの生き方があり、いついかなる場合もやらないといけないというのは、硬直化した考えではないでしょうか。

現実的で役に立つ考えになっているか?

さらに、3つ目の質問です。

OK 「その考えは現実的なものですか?」

よく周りを見渡してください。約束を完璧に守っているように見える人でも、時には守らないことはありませんか。おおむねやっているようでも、特定の状況ではやっていないということはありませんか。100%完璧に誠実にやるというのは、どう考えても現実的ではありませんよね。

しかも、守らなかった人が未来永劫(えいごう)いつまでも、どんなことに対しても守らないままだと、どうして言えるのでしょうか。そう考えるのは、非現実的ではないでしょうか。

そして、最後の質問です。

OK 「その考えは目的の達成に役立ちますか?」

必ず約束を守ったら、どんな効用や便益があるのでしょうか。仮に、社会をうまく渡っていけることなら、約束はそのための一つの手段に過ぎませんよね。

それができなくても、人にまねできないことができるとか、進んで嫌なことを買って出てくれるとか、他の手段で目的が達成できるかもしれません。その人に適したもっとよい手段があるかもしれないのに、そのことだけを責めて、一体何の役に立つのでしょうか。

信念をちょっと緩めて融通を効かせる

いかがでしたか。信念が変わらなかったとしても、「そこまでかたくなに考える必要はないか……」と思われたのではありませんか。それで十分です。

 私たち一人ひとりが持っている信念は、過去の膨大な経験から培われたものであり、そう簡単に変わりません。すべての思考や行動の元になっており、変えたら当人らしさはなくなってしまいます。にもかかわらず、無理に変えようとするから、余計にかたくなになるのです。

 大切なのは「融通を効かせる」ことです。原理を運用する「程度」を変えるのです。

信念を改める必要はなく、状況に応じて少し緩められれば十分。そうすれば、違う信念を持った人とも折り合いをつけることができます。

一方的に「常識はずれだ」と言われて説得されると、負けを認めたとしてもやる気になりません。手間はかかっても、互いの意思と欲求に折り合いをつけ、共に納得できる価値を紡ぎだしていくほうが、チームづくりの上では役に立ちます。

だからこそ、自分の意見を正義や規範(何が正しいか?)ではなく、意思や願望(何がしたいか?)として語ることが大切なのです。

NG 「その考えはおかしい。○○すべきであって、△△するのが常識だ」
OK 「その考えは分からないことはない。でも、私は○○を△△したいんだ」

◇   ◇   ◇

常識人ほど腹が立つ 信念や価値観はゆる~く!(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • 会社役員・幹部向けベーシックコース
  • NBSベーシック300
  • オンライン講座
  • ビジネススキル再点検
  • 日経緊急解説Live!
  • 日経ビジネススクール アジア
  • 日本版エグゼクティブ研究会
  • お気に入り登録&マイページ便利な使い方