出世ナビ 記事セレクト

最強のチームビルディング

拾いたくない火中の栗、上手に断るテクニックは?(堀 公俊)

第22回 「今は」 角を立てずにノーを伝える

自由業は不自由な商売?

 私は、どこの組織にも属さず、一人で仕事をしている個人事業主です。十数年前に会社を辞め、著述と講演活動を中心に、フリーランス(自由業)として働いています。

 こんな自己紹介をすると、「自由でうらやましいです」とサラリーマンの方によく言われます。それは大きな勘違い。見方によれば、会社勤めのほうがはるかに自由。自由業は、とっても不自由な商売なのをご存じですか。

 たとえば、サラリーマンなら調子が悪いときは仕事を休んでも、誰かが穴埋めをしてくれます。自由業はそうはいきません。這(は)ってでも仕事にいかなければなりません。幸い、その緊張感のせいで免疫力が高まったのか、独立以来ほとんど風邪をひかなくなりましたが……。

 会社勤めなら、何もしなくても次から次へと仕事が降ってきます。ところが、自由業になると、自分で仕事を取りにいかないと、明日やることがなくなってしまいます。仕事がなくなる恐ろしさを考えるだけで、胃に鈍い痛みを感じ、血圧値が20ほど上昇します。

 なので、多くの自由業者は、仕事の依頼があると何でもかんでも引き受けてしまいます。断ると、「二度と依頼が来ないのではないか?」という不安が先に立つからです。そのせいで、常に山のような仕事を抱え、自由な時間なんてほとんどない。それがフリーランスの実態です。

 自由業は、「何とかなる」と考える脳天気な人か、「何があっても動じない」強いメンタルを持った人向きの稼業です。え、私がどちらか知りたいですか。残念ながらどちらでもありません。「いざとなったら、浮世を捨てて自給自足の生活を」と考える隠遁(いんとん)タイプなのです……。

ノーを伝えるときは完全否定をしない

 何でもかんでもお願いを聞き入れていたのでは、体が持ちません。時には、ノーと言える勇気が必要です。拒むなら、できるだけ後腐れなく、角を立てずにきれいに断りたいもの。自由業はもとより、組織に所属しているすべての人にとって重要なテクニックです。

 ポイントは、「できない」「したくない」と完全否定しないことです。これでは取りつく島もありません。かといって、「考えさせてください」「検討します」といったあいまいな返事だと、ズルズルとやる羽目にならないとも限りません。

 そこで使いたいフレーズとして、「今は」(すぐには、ここでは、現段階では、この状態では、私一人では)があります。

 NG 「この仕事、お願いできないかな?」「無理!」
 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「今は、無理だと思うな」
 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「こんな状態では、できるわけがないよ」

 要するに、「力が足らない」「やる気にならない」からやらないのではなく、時間や労力といった条件が整っていないことを、できない理由にするのです。これなら、断られたほうは、「タイミングが悪かった」と受け取り、「次の機会に再チャレンジすればよい」と考えるようになります。

婉曲な表現を身につけてソフトに断る

 できれば、「できない」よりも、「難しい」のほうがソフトな印象を受けます。

 NG 「この仕事、お願いできないかな?」「ダメ!」
 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「今は、難しい(期待できない)と思うよ」

 こうすれば、できない理由を、依頼事項の困難さのせいにできます。断る私が悪いのではなく、身の丈に合わない難しい課題を依頼されているところに問題があると。

 日本語には、この手の婉曲に断る用法がたくさんあります。それぞれ微妙にニュアンスが違い、状況に応じて使い分けてみましょう。

 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「こんな状態では、きつい(辛い)よ」
 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「私では、手に負えない(歯が立たない)な」
 OK 「この仕事、お願いできないかな?」「今すぐは、無理がある(厳しい)な」

 特に、メールや手紙のように文章で依頼を断るときには、この種の表現は欠かせません。ワンパターンにならないよう、複数のフレーズをものにしておきたいところです。

 ただし、この種の婉曲な表現は、異なる文化を持った人に対しては注意が必要です。たとえば、外国人に「very difficult」と言ったからといって、「No」と受け取ってくれる保証はありません。「難しいからこそ、頑張ってくれる」とならないとも限りません。相手を見て使うようにしましょう。

断られる相手の顔を立てよう

 これでも引き下がらない相手には「かえって」(むしろ、反対に、逆に)が効果的です。

 OK 「お願いできませんか?」「安請け合いをしたら、かえって迷惑がかかります」
 OK 「お願いできませんか?」「むしろ、受けないほうが、後で面倒をかけずにすみます」

 こう言われると、これ以上プッシュしづらくなります。非は依頼された人にあり、依頼した人のことを思って断ってきているからです。断られる人の顔を立てることができます。

 「かえって」とは、「期待に反して」「予想とは反対に」という意味です。期待に応える実力や自信がないことを伝え、諦めてもらうのに使います。

 時々、「私では役不足ですので……」といって依頼を断る人がいます。これでは、意味がまるで逆になってしまいます。

 役不足とは、自分の実力にふさわしい役割が与えられていない様を言います。こちらを使うと、「私にとって取るに足らない依頼で、わざわざ一肌脱ぐほどのこともない」という意味になってしまいます。荷が重すぎる依頼には「力不足」というのが正しい使い方です。間違いやすいので注意してください。

火中の栗を拾わされそうになったら

 同じような大人の言いまわしをもう一つ紹介しましょう。直接、依頼されたことを断るのではなく、他にやるべきことがあるのを伝えるやり方です。

 たとえば、あなたに新規事業を立案するプロジェクトのリーダーとして白羽の矢が立ったとしましょう。光栄な話ではあるものの、そう簡単に新しいビジネスなんて見つかりません。周囲のサポートが得られる保証もなく、2階に上がってハシゴを外される恐れもあります。

 そんな火中の栗を拾わされるだけの損な役回りは、できれば丁重にお断りしたいところ。そういうときこそ、この言いまわしの出番です。

 OK 「ご期待に添いたいのですが、しばらくは今の業務に専念したいと思っています。また、それが会社全体のためになると考えています」

 この便法、どこかでご覧になったことはありませんか。選挙で担ぎ上がられそうになった著名人が、辞退するときによく使う言いまわしです。

 選挙ともなると、いろんな人がいろんな思惑で動きます。できるだけうまく断らないと、後で厄介なことにならないとも限りません。あえて依頼事項には言及せず、もっと優先すべきことがあることだけを伝えるのが賢い断り方です。

 皆さんの中で、次から次へと降ってくる縁談を断るのに困っている方がいたら(そんな人はいない?)、このフレーズをお勧めします。相手に傷つけずにスッパリと断ることができるはずです。

◇   ◇   ◇

拾いたくない火中の栗、上手に断るテクニックは?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

  • 1日でわかる・戦略的思考力強化の進め方

    問題を発見・分析・解決するスキル続きを読む

  • よくわかる管理会計の基礎と実践

    会計の基礎知識を考える力にする続きを読む

  • 財務諸表分析と企業価値評価の基本

    企業価値向上の好循環を生みだす続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • 会社役員・経営幹部向けベーシックコース 2017夏
  • SUMMER SCHOOL 2017
  • 上司力養成講座特集
  • ビジネス基礎力特集
  • ビジネススキル再点検
  • 日経緊急解説Live!
  • 日本版エグゼクティブ研究会
  • お気に入り登録&マイページ便利な使い方