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「いいね!」ボタンと部下育成の密接な関係とは(堀 公俊)

第6回 気に入った ほめて育てるのはもう古い?

僕、将来、絵描きになりたいんだ…

 絵を描くことが大好きなA君は、いつしか「絵描きになりたい」という夢を持つようになりました。そのことを父親に打ち明けると、「どうしてもやりたければ、厳しい先生に鍛えてもらえ」と言われ、著名な先生の指導を受けることにしました。

 来る日も来る日も、「あそこがいけない」「努力が足らない」とダメ出しをくらう中で、少しずつ腕前を上げていったA君。20年後には、一人前の絵描きとなることができました。

 時は流れ、A君の娘のBさんが、「イラストレーターになりたい」と言い出し始めました。同じ苦労をさせたくないと思ったA君は、娘に絵を描かせては「すばらしい!」「すごいね」とほめることに努めました。自ら才能を開花させたBさんは、20年後には気鋭のイラストレーターとして、世間の注目を浴びるようになりました。

 そのBさんの息子C君が、「漫画家になりたい」と母親に打ち明けたのは15歳の春でした。漫画をほとんど読まないBさんには、息子が描く漫画の良し悪しがよくわかりません。「お母さんは、この絵好きだわ」「次が楽しみね」とファン第一号になって応援することに徹しました。そのおかげもあり、20年後には売れっ子漫画家として忙しく活躍するようになったC君でした。

 実は、この物語、私がつくった本邦初公開のオリジナルストーリーです。それぞれの親が採用した育て方の違いを分かっていただけましたでしょうか。

ほめるよりも、存在を認めること

 一昔前は、子育てでも部下の育成でも、厳しく育てることが当たり前とされてきました。まさに『上司が「鬼」とならねば部下は動かず』(染谷和巳)です。

 もちろん、今はそんなやり方では誰もついてきません。ほめて育てるのが正しい育成方法とされ、「私はほめると伸びるタイプだから」と公言する人も増えてきました。『褒め言葉ハンドブック』(本間正人ほか)といった便利なマニュアル本もあります。

 ところが、最近、風向きが少し変わり始めました。「ほめるのはよくない」という声が多方面から聞かれるようになってきたのです。それは、ほめるにしても叱るにしても、他人からの評価を気にするようになり、自分で自分を承認する自己肯定感が育たないからです。

 今、台頭しつつあるのが、「ほめることよりも存在を認めることが大切だ」という考え方です。その典型が、C君に施した「応援する」というやり方です。

 そのために、今回紹介したいフレーズが「気に入った」(好きだ、楽しみだ、応援するよ)です。

 NG 「○○という考えはどうでしょうか」「すばらしい!」(すごい! 見事だ!)
 OK 「○○という考えはどうでしょうか」「気に入ったよ」(そういう考えは好きだな、先が楽しみだね、実現するよう応援するよ)

モチベーションには2つのタイプがある

 人間誰しも、ほめられるとうれしいものです。やる気もグッと高まります。

 ところが、それを繰り返すと、「ほめられたいから頑張る」となってしまい、賞賛というご褒美を求めて行動するようになります。昇給や昇進を求めて頑張るのと同じ、外からもたらされる報酬でモチベーションが生まれるわけです。

 そうすると、より多くのご褒美を求め、外からの評価に合うような行動をするようになります。本来の自分と少なからずギャップが生まれます。無理をした揚げ句、失敗してご褒美がもらえないと、一気にやる気が下がります。いずれにせよ、他者に自分が振り回わされてしまいます。

 それに対して、自己実現、使命感、達成感、自尊心、自己有能感など、内部から生まれてくるモチベーションがあります。

 こちらは、外からどんな評価を受けようが、目に見える報酬がなかろうが、何度失敗しようが意欲を維持し続けられます。首尾よくいけば、とてつもなく大きなやりがいを感じることができ、自己の成長につながります。

 ほめるのが100%悪いわけではありません。要所要所でうまく使えば効果的です。リスペクトしている人からほめられる経験は、大きな自信につながります。

 しかしながら、ほめるのはあくまでもスパイス。メインのソースとしては「応援する」「勇気づける」を使うほうが相手の主体的な成長につながります。そのためのフレーズを、本稿の中で紹介していきます。

SNSの「いいね!」は応援の印

 ほめずに応援する。実は、このやり方、すでに多くの方が毎日使っています。SNSでよく使う「いいね!」です。

 ご存じない方に説明しておきます。たとえば、フェイスブックやインスタグラムにはボタンを押せば投稿コメントに対して気軽にポジティブなフィード バックを与えることができる便利な機能がついています。それが「いいね!ボタン」です。

 「いいね!ボタン」とは「Like Button」の日本語訳です。良し悪しを評価するのではなく、単に好きである、気に入っている、応援していることを伝えるボタンです。「いいね」と言うと評価的なニュアンスがあるので、「気に入った(好きだ)!ボタン」と訳すべきだったと思っています。

 今では、コメントへの支持や推奨を表すものになり、「いいね!」の数に一喜一憂したり、「自動いいね!機能」なんてものまで現れる始末。本来とは違う使われ方をされているのが残念です。

 NG 「△△するのはどうでしょうか」「それは正解だよ」
 OK 「△△するのはどうでしょうか」「いいんじゃない。好きだな、そういうの」

 もちろん、すべてのことに「いいね!」「気に入った!」という必要はありません。要は、評価をするのではなく、素直な気持ちをフィードバックすればよいのです。実際、嫌な人のために「Dislike Button」(やだね!ボタン)が用意されているSNSもあります。

 OK 「もうやめようよ」「そうか。残念だな」(私は、あまり感心しないな

刑事ドラマに学ぶチームづくり

 ほめる(アメ)と叱る(ムチ)で動くチームから、互いの自発的な行動を応援し合うチームへ。警察物のドラマや映画でよく描かれテーマです。相手を勇気づけるフレーズが「ここぞ」という場面で登場します。

 たとえば、部下や後輩からの身の危険を伴う提案に対して、上司や先輩が言う台詞があります。言葉だけではなく、行動で応援することを伝えており、心強い限りです。

 OK 「思い切って○○しようと思うのですが……」「分かった。応援するよ。何か手伝えることはない?」「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」

 あるいは、自分一人で危険を冒そうという上役に対して、部下や後輩が言うせりふもあります。こちらは、とてもビジネスの現場では使えないのですが、一度は言ってみたいものです。

 OK 「お前たちまで危ない目に遭わせるわけにはいかん」「何を言うのですか。我々は課長の応援団(ファン)です。どこまでも手伝わせてください」「そうか、面倒をかけてスマンな」

 他にも、この手のドラマには結構“しびれる”フレーズがたくさん出てきます。理想のチームづくりを目指す方には、古くは「踊る大捜査線」から、最近では「64(ロクヨン)」まで、人間模様が描かれる警察物を見ることをお勧めします。

◇   ◇   ◇

「いいね!」ボタンと部下育成の密接な関係とは(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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