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最強のチームビルディング

トイレの貼り紙、あなたを一歩前に進めるのはどれ?(堀 公俊)

第19回 よかったら 納得感は自己選択から生まれる

どれなら一歩前に進もうと思いますか?

 「狙いを定めて、もう一歩前に」。この言葉にピンとくるのは、おそらく男性です。そうです、男性用トイレの小便器に貼ってある言葉です。

 言いたいことは分かるのですが、上から目線で指示命令されているようで、あまりよい感じがしませんよね。人は命令されると反発したくなる性質があります。かえって、一歩前に進む気がそがれるのではないかと心配します。

 これなら、便器の中に的(ハエの絵?)を書いてあるもののほうがマシです。自然とそこを狙う男子の習性を利用しているようです。

 中には、「急ぐとも、心静かに手を添えて、前にこぼすな松茸のツユ」といった風流なものがあります。悪くありませんが、読むのに気をとられて、注意が散漫になるのが玉にきず。

 シンプルに「トイレを汚さないようにお願いします」「トイレはきれいに使いましょう」あたりがよいのかもしれません。きれいに使うか使わないか、こちらの選択に委ねられているからです。

 さらに秀逸なのが、「きれいに使ってくださり、ありがとうございます」です。先に感謝されると、きれいに使わないと悪いような気がします。なかなかいいところをついてきますね。

 ちなみに海外では、「あなたのトマホーク(巡航ミサイル)は、あなたが思っているほど長くはありません」(Your TOMAHAWK is not so long as you wish.)というのがあるそうです。ジョークとしては分かりますが、こう言われて一歩前に進む人なんているんだろうか……。

希望を伝えて相手に判断を委ねる

 「メンバーに何かしてほしいときは、自己説得を使うとよい」というのが前回のお話でした。ところが、いつもそううまくいくとは限らず、こちらから依頼やお願いをする「他者説得」を使わざるをえない場合が多いのが現実です。

 そんなときでも、できるだけ一方的に要求を押しつけず、相手の判断に委ねるようにしたいもの。活用してほしいフレーズとしては「よかったら」(できれば、差し支えなければ、不都合がなければ)があります。希望を伝える場合と挑戦を促す場合の2通りがあります。

NG 「会議に出てください」
OK 「よかったら、会議に出てくれませんか?」(希望)
OK 「支障なければ、会議に出てみませんか?」(挑戦)

 頭に留保条件がついており、条件を満たすかどうかの判断を、相手に任せているところがポイントです。さらに、自分の感情を相手に伝えると、説得力が高まります。

OK 「ホント、いつも悪いんだけど、できれば会議に出てくれると、とてもありがたいんですけど……」
OK 「いつも感謝しているだけど、問題なければ、会議に出てくれると、大いに助かるんだけどなあ……」

チームにとっての必要性を伝える

 そうやって思いを伝えた後で、依頼の理由、すなわち「なぜ、それをやらないといけないか?」を説かないと、相手は納得してくれません。依頼事項に対する必要性と、被依頼者に対する必要性の2通りがあります。

OK 「今日中に頼む。明日朝一番にお客に届けなければならないんだ」(依頼事項)
OK 「今日中に頼む。朝一番に間に合わせるには、君しかできる人がいないんだ」(被依頼者)

 ただ、これでは「なぜ、朝一番でないといけないか?」がよく分かりません。本当に伝えるべきはチームにとっての必要性です。

 よほど心酔している相手ならともかく、誰かの個人的な目的のために動くのは面白くありません。かといって、自分のメリットのためにだけ動くと、チームがギスギスしてしまいます。

 誰かの役に立てるから、チームの一員として貢献できるからこそ、やろうという気持ちが高まります。何をすべきかを自分の頭で考えることもできます。Weメッセ―ジを使うと、チームの一体感ややる気を高めるのに役立ちます。

NG 「朝一番に間にあえば、私(君)の評価も上がるんだ」
OK 「朝一番に間にあえば、私たちみんなが大いに助かるんだ」

意思の確認と感謝の言葉をお忘れなく

 そして、必ず最後に、相手の意思を確認するように。言いたいことだけ言って、「じゃあ、ヨロシク」とならないように。「無理だったら断っていい」ことを伝えると、さらによくなります。

OK 「~ということなんです。いけそうですか?(ダメでしょうか?)」
OK 「~ということです。やってみる気はありませんか?(どうかな?)」

 答えがイエスなら、素直に感謝の言葉とうれしい気持ちを伝えるようにします。本稿で紹介した感情を表現するフレーズが役に立ちます。

OK 「ありがとう、助かったよ」
OK 「実は、受けてくれなかったら、どうしようかと思っていたんだ」

 ノーの場合は、あきらめるか、あらためて説得にかからないといけません。そのときでも、なるべく他者説得は避けて、自己説得となるような工夫が必要です。具体的なやり方については、次回で述べたいと思います。

「優しい恫喝(どうかつ)」は危険な賭けになる

 戒めのために、「相手に判断を委ねたらからといって、必ずしも納得感が高くない」という話を付け加えておきます。

 たとえば、映画「八甲田山死の彷徨」の中に印象的な場面があります。明治の終わりに青森の連隊が雪中行軍の演習中に遭難し、210人中199人が死亡した事件を題材にした名作映画です。

 無謀と思える行軍の白羽の矢がたった青森歩兵第五連隊と弘前歩兵第三十一連隊。上官にあたる師団長が二人の連隊長を自室に呼び出し、「雪の八甲田を歩いてみたいとは思わないか?」と質問するシーンがあります。字面だけ見れば、挑戦する覚悟を尋ねているのです。

 しかしながら、これはどう見ても命令ですよね。とてもノーとは言えません。それどころか、同僚への対抗意識もあり、「ぜひ、やらせてください!」と男気を見せたくなります。

 同様の話は、歴史のターニングポイントの中で何度も登場します。一つだけ例を挙げると、後鳥羽上皇の反乱を知った北条政子が、朝廷に弓引くことをためらう鎌倉の武士たちにぶった演説があります。「朝廷側につこうと言う者がいるのなら、京都へ行きなさい」。ただし、みんなの前で言えませんよね。

 いずれの場合も、もはや説得ではなく、「優しい恫喝」に過ぎません。うまくいけばよいですが、思うようにいかなくなると「本当は嫌だったんだ!」「無理にイエスと言わせた」となってチームが崩壊しかねません。危機的な状況以外では使わないのが得策です。

◇   ◇   ◇

トイレの貼り紙、あなたを一歩前に進めるのはどれ?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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