出世ナビ 記事セレクト

最強のチームビルディング

日本人は1日何回「ありがとう」と言っている?(堀 公俊)

第4回 「ありがとう」 みんなを幸せにする魔法の言葉

みんなを幸せにする魔法の言葉とは?

 皆さんは、毎日何回くらい「ありがとう」をいう言葉を口にしているでしょうか。接客業の方なら、日に何百回も繰り返しているかもしれません。終日パソコンや携帯に向き合って、1回も言っていない方もいるでしょう。日本の平均は、一体どれくらいだと思われますか。

 そんな調査をしたのが、チョコレート菓子「キットカット」で有名なネスレ日本。そこからは、「ありがとう」をめぐる意外な、でも納得のいく事実が浮かび上がってきます。

 1日に「ありがとう」を言う回数は平均7.5回でした。ところが、言われる回数は4.9回と約3分の2に留まっています。つまり、自分が言っているほどは、相手に言われていると思われていないのです。3割増しで言って、ようやくバランスがとれるのかもしれません。

 特に注意してほしいのは、中高年男性です。男性は、年齢が上がるに従って回数が減り、50代男性の平均(4.3回)は、10代男性の平均(7.8回)の半分に留まります。オジサンになればなるほど「ありがとう」を言わなくなってしまうようです。

 たしかに、50代ともなれば、子どもや部下などから感謝の言葉を言われるほうが多くなります。「イチイチありがとうなんて……」という考えも分からないでもないです。

 しかしながら、「ありがとう」を言う回数が多い人ほど、ストレスが少なく、幸福感が高く、何ごとにもポジティブにとらえる傾向があるそうです。しかも、言う回数が増えるほど、言われる回数も増え、自身の周囲も幸せにしていく正の循環が生まれるとのこと。いわば、「社会全体をポジティブにしてくれる魔法の言葉」であると、この調査では締めくくっています。

やってもらって当たり前ではない

 なぜ私たちは、素直に「ありがとう」が言えないのでしょうか。一番の理由は、何かをされることに慣れてしまい、「やってもらって当たり前」と考えているからだと思います。

 この話は、ボランティア組織に関わるとよく分かります。やりたい人がやりたいことを自発的にやるのがボランティアです。やりたいことは頼まれなくてもやるものの、やりたくないことは頼まれてもやりません。

 いくら「やる」と約束しても、「ごめん。できなかった」と言われたら、責めても仕方ありません(次から出てこなくなるだけです)。結果的に、やってくれたことに感謝するようになります。

 こんな話をすると、「仕事には責任があり、成果を出さないといけない」「指示命令を守らないと仕事にならない」という言う方がいます。いえいえ、その点はボランティア組織でも同じ。違うのは、お金が介在するかどうかです。「給料をもらっている以上、やって当然」と思ってしまうのです。

 それは間違いではありませんし、お金はインセンティブの一つです。しかしながら、それだけでは活気ある組織にならないのは、今さら例を挙げるまでもありません。

 一人ひとりが大切にされ、各々の働きぶりやチームへの貢献を認め合う。そんな組織をつくるために欠かせないフレーズが「ありがとう」(感謝します、恩に着るよ、サンキュー)です。

 NG 「ようやくレポートがまとまりました」「そこに置いておいて」
 OK 「ようやくレポートがまとまりました」「ありがとう。しっかり読ませてもらうよ」

ねぎらいよりも感謝の言葉をかける

 感謝というと、「ご苦労さま」「お疲れさま」といった“ねぎらい”の言葉を思い浮かべる人が多いかもしれません。ねぎらいとは、相手の苦労をいたわり、感謝することです。感謝には違いないのですが、「ありがとう」に比べると、少し距離感のあるそっけない印象を受けます。

 NG 「ようやくレポートがまとまりました」「ご苦労さま」
 OK 「ようやくレポートがまとまりました」「山田さん。いつもありがとう

 中でも「ご苦労さま」は要注意。元々は、「部下に苦労をかけてすまない」と、目下の者をねぎらう言葉だからです。

 「お疲れ様」のほうが、上下関係を選ばず使えるのですが、業界や職種によっては、「お疲れ!」が単なる合いの手のようになっているところもあります。感謝の気持ちが心に響いてこず、「ありがとう」とは区別して使ったほうがよいでしょう。

 NG 「今、戻りました」「お疲れ」
 OK 「今、戻りました」「ありがとう。お疲れだったね」

 ましてや、家族は友人といった近しい間柄に「お疲れさま」はいただけません。宅配便を届けてもらった人に言うような、他人行儀な感じがします。下手をすると「大変なのが分かっているの?」と逆効果になりかねません。心をこめて感謝の言葉を述べるのに勝るものはありません。

私たちの行動は周りの反応で決まる

 なぜ「ありがとう」がチームにとって重要なのか、もう少し背景を説明しましょう。

 私たちの行動の元になっているのが、心の中にある欲求です。何か「したい」という感情を抱いてはじめて、「する」というアクションが生まれます。「心理」から「行動」が生まれる、というのが多くの人が抱いている考え方です。

 ところが、実際に何かをやってみて、周囲が何の反応もなかったらどうでしょうか。手ごたえがないと、少なからず面白くなく感じると思います。あるいは、「そんなのじゃダメだ」とネガティブな反応だったら。おそらく、せっかく生まれた「したい」という気持ちが萎えてしまうでしょう。

 つまり、「行動」した直後の「反応」によって、「心理」が左右されるのです。それは私たち人間が社会的な動物だからです。

 たとえば、たまたま暇だったから、何の気なしに同僚の仕事を手伝ってあげた。後で「ありがとう。本当に助かったよ」と言われたら、「また、やってあげよう」という気にもなります。しかも、相手は相手で、やってもらったことにお返しをしようという気持ちが芽生えます。

 つまり、「ありがとう」というポジティブな反応が、「貢献したい」というポジティブな行動の繰り返しを誘発するのです。結果的に、チームの協力関係が高まっていくわけです。

ほめるよりも、勇気づける

 このことを、最近流行のアドラー心理学では「勇気づけ」という言葉で説明しています。

 アドラー心理学では、ほめたり叱ったりするのは、上の立場から相手を操作するものであり、好ましい関係にないと考えます。そんなことをしなくても、「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えれば、対等の関係で勇気づけることができます。

 こんな話をすると、「仕事なんだから、結果やプロセスの評価抜きには回らない」という人もいると思います。ほめたり叱ったりをやめるわけにはいかないと。

 それはそれで結構だと思います。だったら、「ほめる」「叱る」に加えて「感謝する」を付け加えてみてはどうでしょうか。

 たとえば、仕事が一段落したときに、振り返りをやることがあります。その時に「良かった点」「悪かった点」を挙げるだけではなく、「感謝する点」も出し合って、互いの貢献をねぎらうのです。

 面と向かってが気恥ずかしければ、「サンクスカード」を使って伝えるのもよいやり方です。新幹線の超早ワザ清掃で有名なJR東日本テクノハートTESSEIでは、内容をレポートにまとめて発行しているそうです。感謝の気持ちを表すバースデー会や、一番感謝された人を表彰する制度をつくった会社もあります。

 まずはあなたが「ありがとう」を率先して言うことが、前向きなチームをつくる出発点となります。今、すぐにでもこの言葉を誰かに届けてみてはいかがでしょうか。

◇   ◇   ◇

日本人は1日何回「ありがとう」と言っている?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

  • 1日でわかる・戦略的思考力強化の進め方

    問題を発見・分析・解決するスキル続きを読む

  • よくわかる管理会計の基礎と実践

    会計の基礎知識を考える力にする続きを読む

  • 財務諸表分析と企業価値評価の基本

    企業価値向上の好循環を生みだす続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • 会社役員・経営幹部向けベーシックコース 2017夏
  • SUMMER SCHOOL 2017
  • 上司力養成講座特集
  • ビジネス基礎力特集
  • ビジネススキル再点検
  • 日経緊急解説Live!
  • 日本版エグゼクティブ研究会
  • お気に入り登録&マイページ便利な使い方