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フレームワークで働き方改革!

使えない部下を何とかしたい 上司がやれる一つのこと(堀 公俊)

第8回 組織力を向上させる「成功の循環」

年上の部下にほとほと手を焼く

 年功序列が崩れた今、年上の部下というのが珍しくなくなってきました。私にも経験があります。サラリーマン時代に、40歳そこそこの課長だった私に、定年まであと数年という「お荷物社員」が部下として異動してきたのです。
 いろんな部署をたらい回しされた末、「しばらく、面倒みてやってくれよ」と部長から頼まれて。しかも、若い頃お世話になった大先輩で、やりにくいことこの上ありません。

 一番困ったのは、昔からずっとやっている定型業務以外は一切やろうとしないことです。課としては「新しい仕事にチャレンジしよう」というのを目標に掲げているのに、これでは他のメンバーに示しがつきません。あの手この手で働きかけるのですが、「結構です」「今のままで十分です」と全くのお手上げ。皆さんならどうされますか。

 すぐに思いつくのは、アメとムチです。やれば昇進や賞賛というご褒美を、やらなければ降格や異動という罰を与えて行動を変えさせるアプローチです。ところが、ご褒美に「興味がありません」、罰に「お好きにどうぞ」と言われたらどうしようもありません。

 中にはコーチングを思い浮かべる人もいるでしょう。本人の自発的な力を引き出し、目標達成に誘う手法です。残念ながら、これも通用しません。「給料さえもらえればよい」と考えている人に、夢や関心ごとを尋ねても答えが返ってこないからです。

いつか扉が開くことを信じて関わる

 私のやったことはシンプルです。「こんなことをやってみませんか?」「こういう仕事があるんですが、興味ありませんか?」と働きかけを続ける。ただそれだけです。

 当然、門前払いを食います。そこでめげずに、「残念ですが、私が引きとることにします。次は期待していますからね」と性懲りもなくまた持って行きます。いつか、扉が開くことを信じて。

 そうやって働きかけ続けて3カ月。その日は突然やってきました。「課長、先日のテーマ、私のほうで少し検討してみたんだけど、こんな感じでいい?」と自ら簡単なメモを持ってきたのです。何が起こったのか分からず、一瞬頭の中が真っ白になりました。

 あわてて、「ありがとうございます。では、私は○○しますから、△△を続けてもらえませんか?」と次のステップに向けての段取りを決めました。心の中でガッツポーズをしながら。

 その日を境に、少しずつですが、新しいことにチャレンジしてくれるようになりました。最後は自分から企画を持ってくるまでに。定年までの間、最後のひと踏ん張りとばかり、いろんな面でチームの一員として貢献してくれました。

 人はひとりでは変われません。人と人との関わりの中で変っていく。それには、とことん関わり続ける仲間が欠かせません。それを学んだ一件でした。

成功の循環を回して組織を変える

 組織は、目標達成という成果を出すためにつくられた集団です。成果は日々の行動から生まれます。成果の質を高めるには、行動の質をアップしないといけません。

 力を行使したり、アメとムチを振りかざしたり、無理に行動を変えさせることもできます。それでは長続きしないのは、ブラック企業を見て分かる通り。大切なのは、思考の質を変えることです。

 そのために、教育やコーチングなどの内発的なアプローチがあります。ただ、これらはやる気の火種がまったくない人には通用しません。「どうして私だけが」「なんでチームのために」という不信感を持つ人もいます。そこで大切になってくるのが信頼関係、つまり関係の質を高めることです。

 言い換えると、「関係の質」が「思考の質」を高め、「思考の質」が「行動の質」を高める。「行動の質」が高まれば「成果の質」が高まり、それが「関係の質」を高めることにつながる。これが、経営学者D.キムが提唱した「成功の循環」と呼ばれる、組織改革のフレームワークです。

使えない部下を何とかしたい 上司がやれる一つのこと(堀 公俊)

人と人の関わり方を改革する

 働き方改革は、まさにこのモデルがピッタリ合います。

 たとえば、「労働時間の短縮」といった成果を生み出すには、仕事のやり方を抜本的に変えなければいけません。それは、「長く働くことがよいことだ」という私たちの考え方を変えることに他なりません。そのために欠かせないのが、職場や会社全体における、人と人の関係性です。

 仕事の範囲があいまいな日本の労働慣行では、誰かが休暇を取れば、少なからずそのしわ寄せは他の誰かにいきます。「お前はいいよな」なんて言われると、とても休みなんか取れません。

 「留守中は私に任せろ」「気にせず、思いっきり楽しんでこいよ」「俺の時もよろしくね」と言い合える関係性があってはじめて、安心して休暇が取れます。そんな風土のないところに、どんな改革を企てても上手くいきません。

 理想のチームを表すのに、「One for All、All for One」(一人はみんなのため、みんなは一人のため)という言葉があります。そういった関係性をつくることが、すべての出発点になるわけです。具体的な方法については、どこかで回をあらためてご紹介していきます。

 「働き方改革」は「人と人の関わり方の改革」から始まる。そのことを忘れないようにしましょう。

◇   ◇   ◇

堀 公俊(ほり・きみとし)
使えない部下を何とかしたい 上司がやれる一つのこと(堀 公俊)
 日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『会議を変えるワンフレーズ』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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