高砂熱学、「環境クリエイター」を育成
人的投資100億円増に

2023.11.02
日経ビジネススクール

日経の人材開発コラム
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高砂熱学工業の小島社長

2023年11月に創立100周年を迎える空調最大手の高砂熱学工業。小島和人社長は、これまでの空調設備の設計・施工会社というイメージを一新、2040年に向けた長期ビジョンを策定して経営改革を推進、「環境クリエイター」という新たな人材の育成に注力。環境創造型企業に変貌しようとしている。

――今、多くの日本企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、人材育成に力を入れています。創立1世紀を超え高砂熱学はどう変わってゆきますか。

 

1923年に創業したときの社名は「高砂暖房工事」という暖房関係のスタートアップ企業でした。その後、空気調和技術を核に日本初の産業用クリーンルームのほか、東京ドームや国立競技場などの設備にも携わってきました。

しかし、今後は脱炭素社会の実現のため、空気調和技術にプラスして、グリーン水素など環境技術を活用した環境創造型の企業へと変わっていきます。5月に2040年までの長期ビジョンとともに、「環境革新で、地球の未来をきりひらく。」というパーパスを新たに策定しました。

今までは建設インフラ関連の人材を求め、育成してきましたが、環境関連の事業領域をもっと広げ、役職員一人ひとりが環境問題に貢献する「環境クリエイター」という人材づくりに挑んでゆきます。

――建設関連業界のため男性社員中心だったと思います。環境クリエイターの育成を目指すとなれば、採用のあり方も大きく変えるのでしょうか。

人材のダイバーシティ化を進めています。新卒採用では、かつては、大学の工学系の建築関係や機械工学を専攻した理系の学生が多かったのですが、近年では農学やバイオなど幅広い分野からも採用しています。また、外国籍や女性の採用も拡充しており、(24年度の)新卒採用内定者には、中国やベトナムなど多数の外国籍学生が含まれます。

高砂熱学工業の小島社長

■女性管理職10%へ オシャレな現場事務所も


 

――女性の活躍する環境も整えているわけですか。

 

環境クリエイターには女性の目線も必要となります。恥ずかしながら、現在の女性管理職比率はわずか2.3%にとどまっていますが、30年頃には10%に引き上げたいと考えています。すでに女性の現場所長もいますが、面白い兆候が起こっています。多様な価値観やライフスタイルを受容できる現場事務所づくりを進めています。

その一例として、ある現場事務所では、スノーピークのアウトドア用品を設置、他の現場では女性主導でオシャレな空間に変わりました。以前はプレバブの男臭い建物でしたが、茶室のような場所やパウダールームまで設けました。最近は男性も化粧をするそうなので、女性専用室と表現してはダメだそうですが(笑)。
 

 

――人材のリスキリングを進める企業が増えていますが、どのように人材教育や研修を行っていますか。

 

将来的に私たちの会社は、空調設備事業を核として建設事業や設備保守・管理事業に加え、カーボンニュートラル事業や環境機器製造・販売事業の4事業を柱にして、DXで連携していきます。そのための人材育成に注力しています。これまでも技術者や営業など個々に研修は行っていました。

しかし、17年からは「タカサゴ・アカデミー」という人材育成組織を設立して全社員を対象にした体系的な研修・教育に取り組んでいます。新人など若年層や中堅、エグゼクティブなど幹部層に分けて、各層にDX関連など必要となる知識やスキルの研修を実施しています。MBAや様々な外部の経営セミナーも活用して、経営人材育成に力を入れています。

高砂熱学工業の小島社長

■後継の経営人材、社外の有識者が判定・育成


 

――経営層の後継人材はどのように選抜・育成していますか。

 

これまでとは全く違うやり方で、後継人材の選抜・育成プログラムを実行しています。我々経営者が役員などを選び、育てるのが一般的なやり方でしょう。しかし、現在は2階層に分けて計画的に選抜・育成を行っています。

能力だけではなく、『人格』を考慮して経営人材を選抜、社外取締役など7人の外部有識者に判定してもらう形で、評価していき、コーチングやワークショップを活用して育成するやり方です。有能な外部人材の客観的な視点も入れ、人格面でも優れた経営人材を育成していく考えです。

■単身赴任向け交通費も年36回支給


 

――人的資本経営に力を入れていますが、どのように人事制度改革を進め、従業員のエンゲージメントを高めていますか。

 

従業員のエンゲージメント向上は大きな課題です。以前の社員エンゲージメント調査の結果では、「会社に誇りを持てる」と回答する社員は高い水準でしたが、「友人に会社を紹介できる」と回答する社員の比率は、それらを下回りました。そこで人的資本経営を強化して、エンゲージメント向上に努めているところです。

人材への投資を拡大しており、中期経営計画(23〜26年度)で100億円増加させる予定です。まず新たな社員を200人以上増やします。ベアなど賃金引き上げを検討したり、人事制度改革を実施したりします。

自身がランチミーティングをしたり、全国の現場を回って直接社員の声を聞くようにしたりしています。例えば、単身赴任している社員には自宅に戻る交通費等を年12回支給していましたが、これを36回に引き上げ、さらに家族も自由に活用できるように改めました。

■平均年収944万円からアップへ


 

24年度から建設業界では残業時間の上限が原則、月45時間・年360時間と規制されます。そのためにも人材の量と質の向上を進める必要があります。


――企業の公開データによると、23年の高砂熱学の平均年収は約944万円。他業種のメーカーと比べてかなり高額ですね。
 

これでも空調設備関連の同業他社と比べて高いとは言えません。早期に従業員の平均年収を同業他社比で1番の水準に引き上げるためにも、エンゲージメントを高め、環境クリエイターの育成に全力を注ぎたいと思っています。今までは建設関連のBtoB企業で、縁の下の力持ち役で良かったのですが、企業の競争力の源泉はやはり人材です。今後はブランド力も高め、人材確保も積極的に実施していきます。

(聞き手は代慶達也)

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