AI時代こそ「二刀流」、欧米トップ大と組み人材育成へ

2023.10.24
日経ビジネススクール

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名古屋商科大学の栗本学長

全国有数の社会人向け経営大学院に成長した名古屋商科大学ビジネススクール(NUCB)。国内初のトリプル国際認証を取得、600人近い受講生が集う。同校と海外提携校で、MBAとデータサイエンス系のMScという経営管理と経営科学の2つの修士号を同時に取得可能な「ダブル・ディグリープログラム」も開始、DX(デジタルトランスフォーメーション)リーダーづくりに本腰を入れる。AI時代のリーダー育成について同大学長の栗本博行さんに聞いた。

AIで問われるプロンプト能力、知識の掛け合わせが大事


 

――生成AIの登場で高度なビジネス知識の習得はもう不要という声もありますが。

 

そうは考えていません。むしろ必要な知識やスキルについてはハードルが上がるかもしれないと思っています。AIを使いこなすには「いい問いの立て方」が大事になり、その回答が適切か否かの判別する能力を求められる。プロンプト(質問や指示)やアウトプットの判断能力を高めるためには、相当の知識やスキルの習得が不可欠となります。

 

しかも経営分野全般からデジタル技術に至るまで幅広い知識を身につける必要がある。DX時代の到来で、今のリーダーはいわゆる「両利きの経営」を求められるケースが増えています。既存事業を回しながら、常に新規事業を開発する力量が必要とされている。多様な知識の掛け合わせこそが重要になるわけです。

「上司の壁」を打ち破る学びは


 

――今の日本はDX時代と言われますが、大企業ではうまく進まないケースが少なくないですね。

いくつかのDXを阻む壁があるとの指摘があります。データサイエンティストなどデジタル人材が足りないとか、組織や企業文化の問題があると言われますが、最大は『上司の壁』にあると思っています。日本の中高年のリーダー層はデジタル技術の知識やスキルに疎い上に、部下に「この新規事業が成功する確信はあるのか」と問うわけです。そんな風に言われて、新規事業に挑戦する気になるでしょうか。
 

――革新的な事業であるほど、最初は9割方失敗しますね。こんな組織の壁を打ち破るにはどうしたらいいのでしょうか。

新たなイノベーションを起こす、DXをやるためには、仮説と実験を繰り返す必要があるわけです。トライして失敗して、どこに問題があったのかと検証して、修正してまたトライして、新規事業を創出してゆくわけです。ABテストを何度も実施して解を探り出す必要があります。過去の経験とカンではイノベーションを起こすことはできません。そのためには基本となるビジネスとデジタルの両面の知識とスキルは不可欠です。

しかもグローバル体験も不可欠。日本の大企業はグローバル化を急いで、海外企業のM&Aを進めていますが、失敗するケースが少なくありません。語学の問題という以上に多様な文化を理解できているリーダーが少ないからです。そこで私たちは今、海外提携校と組んだダブル・ディグリープログラムを始め、グローバルDXリーダーの育成に本腰を入れることにしました。プロ野球の米メジャーで活躍する大谷選手のような「二刀流」のリーダーが必要となるからです。

 ダブル・ディグリープログラムに取り組むと語る栗本学長

欧州のトップスクール、留学先の授業料は免除


 

――欧米の大学ではダブルディグリーは一般的ですが、国内の経営大学院では珍しい試みでは。

 

うちはトリプルクラウン(国際認証)を得ているので、世界中の多くのトップスクールと提携関係にあります。そこで1年目は本校でMBAを取得し、次年度に海外提携校に留学してデータサイエンス系のMScを取得するプログラムに取り組み、この9月から本格的にスタートします。ある一定の成績と英語力が前提となりますが、欧米のトップスクールで、データサイエンス関連の修士をわずか1年で取得できるというので、受講生からも高い関心を集めています。

 

――確かに2年間でMBAと今注目のMScを同時取得できるのは魅力的ですね。しかし、海外留学なんてかなりの高額な費用がかかるのではないですか。

 

米国の提携校は世界的なデータサイエンススクールとして知られるカーネギーメロン大学や医療系で世界トップクラスのジョンズ・ホプキンズ大学の大学院が対象となります。確かに円安もあり、両校の学費は日本円だと、1千万円前後に上ります。ただ、通常の選考を経て両校の大学院に進学するのはかなり難しい。さらに両校の出身者は高額な報酬を約束される人材が多く、コスト対効果に見合うと考える受講生は少なくありません。

 

英仏など欧州のトップスクールも提携先ですが、多くのスクールでは追加の学費は実質ゼロになります。現地での生活コストはかかりますが、寮生活となる場合、それほどの自己負担にはならないと思います。まずフランスのEDHECビジネススクールなどに本学から2人の女性が挑みます。ここは金融分野ではFTランキングで世界1位に輝いた実績もある欧州有数のビジネススクールですが、留学先の授業料は免除されるわけです。

カーネギーメロン大学の構内では深夜でも学び合う学生の姿が目立つ(写真は栗本学長提供)

目標は深夜でも学び合う米トップ大


 

――日本では初のトリプルクラウンを取得し、国内では評価を高めましたが、将来的にどんなビジネススクールに成長させたいですか。

 

先日、米ピッツバーグのカーネギーメロン大学を訪問した際、驚きの光景を目にしました。深夜12時に偶然キャンパスに行くと、オープンスペースや空き教室で何十人もの学生が学び合う姿が目に飛び込んできました。教員は誰もいませんでしたが、2〜3人の学生がそれぞれグループを組んで教え合っていました。

 

米国の学生は高額な学費を親に頼らず、自己負担するケースが少なくありません。投資した分はリターンを得ようと、時間を忘れて必死で学び合っているわけです。こんなスクールをつくりたいと改めて思いました。AI時代こそ、グローバルリーダーとなるためには多くの学びが必要となります。熱気あふれるカーネギーメロンの学生の姿を見てそう確信しましたね。

(聞き手は代慶達也)

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