彼らと一緒に踊れる? スズキ流、インド人材との交流・育成術

2024.3.6
日経ビジネススクール

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インドで人材交流・育成事業を展開するスズキの横井さん

インド進出で最も成功した日本企業といわれるスズキ。同国の新車市場が日本を抜いて世界3位に躍進する中、スズキの現地合弁会社マルチ・スズキの乗用車シェアは4割を超えている。世界有数の理系大学インド工科大学(IIT)ハイデラバード校は、2022年にスズキなど日本企業との人材交流・育成拠点「スズキ・イノベーション・センター(SIC)」を設立、現地でブリッジ役として活躍するのがスズキの横井美乃里さんだ。どんな交流を通じて、次世代人材を育てているのか。

スズキ、インド工科大と交流拠点を開設、人材採用も


 

――どんな経緯でSICが誕生したのですか。

 

IITはインドの理系トップ大として知られていますが、全国に23校を展開しています。各校の特徴がありますが、同国南部のハイデラバードにあるIITHは、IT分野に強く、特に日本企業との連携に熱心なのです。同国初のAI学部も設置しています。自動車業界でも自動運転や電気自動車(EV)など新たなテクノロジーが求められています。それで2008年からスズキとIITHの間で技術分野の交流が始まり、共同研究を実施、19年には初めてIITHの有能な学生をスズキ本体が採用することにつながりました。

さらにIITHで教えている片岡広太郎准教授と、その教え子でスズキ採用1期生のヴィプールさんが中心となって、イノベーションを生み出せる日印の懸け橋を作ろうという話しが浮上しました。もともと私はインド事業に携わりたいと2014年に新卒でスズキに入りました。運良く入社直後からインドに長期出張したり、海外営業部門でサポートしたりしてきました。インドとの人材交流・育成もぜひやりたいと考えていたので、SICの立ち上げにも当初から積極的に参加しました。

 

――マイクロソフトやグーグルのトップなど米欧のテック企業ではインド出身のIT人材が増えています。特にIITの優秀な学生は高額報酬で奪い合いになっています。日本でもメルカリなど有力IT企業が人材確保に躍起ですが、なかなか採用は難しいようですが。

 

これまでにIITHから100人以上の応募があり、スズキ本体には計20人ほどが入社しました。欧米の企業はジョブ型雇用で、高額報酬であってもレイオフなどのリスクもあります。しかし、スズキのような日本企業はそのリスクは低く、長期的な目線で成長を考えてくれる、そんな面が評価されている点かもしれません。

SICで多くのインド人と日本人が交流している

スズキ若手社員を現地で育成、農村で自動販売機事業


 

――実際、SICはどんな役割を果たしていますか。

 

ここには20人ほどのスタッフがいますが、IITHの研究者のほか、地元のスタートアップの起業家やビジネススクールの教授や学生が集まり、スズキなど日本企業関係者との交流拠点となっています。インドの人材確保のほかに、スズキの本体からも若手社員が派遣され、人材育成の場としても活用しています。スズキのIT部門や海外営業部門などから3〜6カ月間でユニークな研修をやっているわけです。現在も5人がここで活動しています。インド人は起業家精神に富んでいるので、大きな刺激を受けています。

 

――具体的にどんな人材育成をやっていますか。

 

これを勉強しなさいというモノはなく、結構自由放任です。基本は新たなビジネスモデルを考え、仮説検証しています。SICではインドの農村部の生活水準向上を支援するという目標を設定しています。農村支援のソリューション提供をKPI(数値目標)として掲げ、活動してもらっています。インド人の約7割は農村部で暮らし、決して所得が高いわけではありません。クルマを買えない人もたくさんいます。地域の課題を解決するにはどうしたらいいのかという問いに向き合うわけです。

例えば1人の研修生は週2〜3回のペースで何度も農村部に通い、地域住民との信頼関係を築きました。何を求めて、都市部に出かけるのかを探り、需要の高い商品トップ50のリストを作成。人気の食材や日用品を届ける自動販売機を考案し、設置しました。カレーの豆やセッケン、シャンプーなどを売り、好評を得たのです。さらにイーコマースをやろうと企画し、半年間の研修期間も延長し、現地赴任に切り替えました。農村部でもみんなスマートフォンを所持しているし、デジタル決済は日本より進んでいるのです。

IITH構内にあるSICでインド人スタッフと打ち合わせする横井さん

仕事の話の前に雑談を


 

 パーティー参加で人間関係構築 

――確かに起業家育成の実地研修のようですね。インドの人口は世界一となり、GDPも世界5位に浮上しましたが、多くの日本の会社はインド市場になかなか食い込めていません。スズキは同市場を攻略した数少ない日本企業と言われます。日本のビジネスパーソンはインド人との付き合い方は難しいと嘆く人が少なくありません。交流するコツは何だと思いますか。

 

日本人には上から目線で現地の人に接する方もいますが、それはダメですね。欧米とは違い、いきなりビジネスの話を切り出してもうまくいかない場合もあります。こちらには優秀な人材が多いので、プレゼンテーションで論破されて終わりなんてことになりかねません。

まず仕事以外の雑談、会話を楽しむのがいいと思います。インド人は誕生日会などパーティーを頻繁に開きます。少し親しくなると、その人の兄弟姉妹や叔母さんの結婚式にも呼ばれたりします。日本では考えられないでしょうが、パーティーで会話して一緒に踊るのが好きなのです。同僚のインド人と意見で対立した時も、パーティーに参加してその同僚の奥さんと仲良くなると、彼ともうまく対話できるようになりました。公私を分けず、深く付き合うことが肝要です。

 

――会話を楽しみ、彼らと一緒に踊れるようになれば、ビジネスもうまくいくというわけですね。しかし、日本人のビジネスパーソンはインドでビジネスをやると、予定や計画が次々変わり、驚きの連続だと。なかなか商習慣が合わないと悩む人も少なくありませんが、どうしたらいいでしょうか。

 

日本人はプロセス重視で、計画通り物事を進めるのが得意だと思います。しかし、インドでは突然いろいろな物事が変わったりするのは日常茶飯事です。私も父親が商社マンで子供の頃の一時期をインドで過ごしましたが、衝撃の連続でしたね(笑)。

ただ、トラブルが頻発しても最後の最後には何とかやってくれる、非常に問題解決力が高い人が多いのです。インド人特有の「ジュガール精神」といいますか、エネルギッシュな人が多いと思っています。最後に課題を解決してもらうためにも、しっかりとした人間関係を構築することが欠かせません。スズキでは「広く深くインドに根付けるように」をスローガンに掲げ、インド市場と向き合っています。現地の方の思考法をちゃんと理解して、交流し、次世代の人材育成につなげることが大事だと考えています。

 

(聞き手は代慶達也)

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