日経ビジネススクールアジア特別講座 NBSセッション
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2015年末に東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)が発足、東南アジアが人口6億人を超す巨大市場の統合に向けて大きく舵(かじ)を切った。今後、10~20年をにらんだ東南アジアでの企業戦略を描くうえで留意しておくべき「新潮流」は何か。日本経済新聞社がタイ・バンコクで9月に開いた「日経ビジネススクールアジア特別講座 NBSセッション」から、伊藤博敏・JETROバンコク主任調査研究員の講座を紹介する。
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■変化していくAECを活用したビジネス戦略を
伊藤博敏・JETROバンコク主任調査研究員
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2015年12月末に発足したAECの進展でビジネス環境はどう変わるでしょうか。
まずAEC内の関税は2015年中にほぼ撤廃されており、後発加盟国であるCLMVの有関税品目も、原則18年1月に撤廃が予定されています。また、16年中には原産地証明書の電子フォーム導入を目指しています。これに加え自己証明制度の導入がいつ実現するかが次の焦点です。
AECが発足されて1年が経過しますが、ほかにも課題は多く残っています。経済統合深化の過程で今後、段階的に課題の解決が進められていくとともに、ビジネス環境の改善も徐々に図られていくことでしょう。
日系企業の対ASEANビジネスの動向を見ると、投資額は3年連続(13~15年)で2兆円超となり、中国向けを大きく上回りました。また、ASEANおよび周辺国市場を見据えたハブ化が進んでおり、ASEANを面で捉えた集約化、リスク分散、拠点間の相互補完などを行い、機能的なサプライチェーンが整備されつつあります。
ビジネス環境上の課題としては、国・地域によってさまざまですが、人件費の高騰、新興国のインフラ未整備などが挙げられます。入念なFS(事業化調査)による想定外のコストを減らすことが重要です。経済統合の進展に伴う新制度構築および規制緩和、情報インフラ整備など適切に対応、活用し、地域全体を見据えたビジネス戦略を構築していくことが競争を勝ち抜く鍵になると考えます。
伊藤博敏氏
日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所 主任調査研究員(アジア地域)
1998年日本貿易振興会(現機構)入会。東京本部、長野貿易情報センター・諏訪支所、インド・ニューデリー事務所(調査担当)、東京本部アジア大洋州課(ASEAN・南西アジア担当)を経て13年から現職。
(ArayZ 渡部貢生)