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異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

■なぜ企業は国際化するのか

異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

 企業は何らかの立地特殊的優位を求めて海外へ進出し、外国法人として通常は不利な立場になるにも関わらず、海外投資を行います。ですから、進出に際しては現地企業に対して優位性を確保するだけの十分な企業特殊的な優位性がなければなりません。

 企業の国際化には、「企業特殊的優位性」を損なうことなく、他国へいかにスムーズに移植していくことができるかが大切になりますが、その際に、企業特殊的な優位性が持つホームカントリーへの立地の粘着性を考えなくてはなりません。企業の能力のうちいくつかは、それを蓄積してきた場所から離れると、失われてしまうという研究結果があり、進出先でも言語能力、サプライヤー、研究などの能力、暗黙知(アナログ式)、現場のコンテキスト(高コンテキスト文化)が保てるかどうかを議論しなければなりません。また、カネやモノに比べてヒトの移動は困難であるため、社員が海外駐在に対して積極的か、消極的かどうかも大きく関わってきます。

 新興国に対する海外直接投資の性質を見てみると、市場探求型のFDI(外国直接投資)が増加しています。日本企業の海外進出は第1次ブームが輸出目的によるもの、第2次がコスト優位性を求めた生産拠点の移転、第3次が現地市場の開拓というように、コスト優位型から市場開拓型の投資に変遷してきました。言い換えると、受動的な環境適応からより戦略的な環境創造的な動きに変化してきたのです。

 日系製造業の多くに見られた、環境適応的かつコスト優位性を求めた海外展開では、日本で予算をつけて、マニュアル通りに正しい方法を移転し、予定と実際の際に着目したフィードバック型の「シングルループ学習」を前提として、診断型のマネジメント・コントロール・システムを利用してきました。しかし、新興国市場の相対的重要性が高まり、現地子会社に求められる役割が変化してくると、それまで日本側で正しいと思っていた前提そのものを問い直していかなければならなくなります。これが「ダブルループ学習」と呼ばれるもので、現地との価値共創を促進する双方向型のマネジメント・コントロール・システムの利用が求められるのです。ハーバードのロバート・サイモンズ教授が指摘したように、戦略的コンテクストによって異なるコントロール・レバーを活用していかなくてはなりません。人材開発の方法は戦略によっても変わりますが、海外進出の発展段階によっても変わるため、どの企業にも当てはまる正解は存在しません。

 企業の海外売上高のシェアが増すにつれて、経営スタイルも変化します。日本人駐在員が中心的役割を担う海外拠点経営から、国籍に関係なく優秀な人材が国内外の重要なポストを担う時代となりました。グローバル人事システムには、グローバルで共通の物差しで、公正な格付けができるプラットホームが必要です。さらにその上に、日本やそのほかの地域ベースでの基準を設けるなど、グローバルとひとくくりにするのではなく、一つ一つを見直すべきでしょう。

■現地化できない原因は日本人にある?

 現地組織の重要なポストに日本人を登用するのであれば、なぜ日本人でなければならないのかという理由を明確にし、名目的な登用とは異なることを示す必要があります。日本語でのコミュニケーションが求められるから、日本本社とのやり取りが必要だからといった理由なのであれば、ヒトの現地化が進まない理由は原因は日本人にあるという意識を持つべきかもしれません。

 もちろん、日本型の理念を重要にする目的があるのであれば、それを議論をすべきでしょう。マルチドメスティック戦略を実践する企業では、現地の肌感覚が大切になりますし、グローバル戦略を実践する企業なら、本社の実践を正しく移植していくことが大切になります。ただし、国の文化を強く押し出しすぎると、海外では文化至上主義として批判される恐れがあることも留意したい点です。

 本社から派遣された日本人は、業務の遂行は得意でも、チームを率いたり現地での方向性を定めたりする、リーダーシップの面で劣ると指摘されています。日本企業の海外子会社における外国人社長の比率は欧州や北米のみならずアジア諸国でも増えてきていますが、ASEANの製造拠点では、日本人駐在員はコストの面からも、削減方向にあります。先述の戦略的含意に加えて、ここからも、現地人材を育成する必要性は明らかです。

 欧州のグローバル企業では20代、30代の社員を次世代リーダーとして10年などの長期スパンで育成しています。若手人材と、ミドルやトップに求められる能力は異なり、グローバル環境において、駐在員には経営分析や戦略を構築する能力が求められるほか、国境を越えて行き来する中で、駐在員は4つのギャップに直面するという研究結果が報告されています。

 1つ目がビジネスステージです。日本では不景気しか知らない、守りの経営を見てきたが、海外では攻めの経営が求められます。2つ目は事業領域で、日本では専門の領域を突き詰めていたのが、海外ではマーケティングから会計まで広く見ることが求められます。3つ目は、日本にいた頃よりも組織的役割が増え、求められることが増えること。そして最後が文化のギャップです。日本で優秀だからといってアジアでも通じるとは限りません。攻めの経営を実践して、経験と失敗を資産化できる人材の育成には、日本の高度経済成長を経験してきたシニア世代からルート開拓やコネクション構築のノウハウを学び、再活用することもできます。

 マネジメント能力の開発面では、いかに成果を出すかよりも、いかに多様な人材を動かして成果を上げるかにシフトしていくことがポイントになります。また、異文化マネジメント能力の開発面では、外部と同じだけの多様性を内部でも持つことが鍵になります。これが「最小多様性のルール」です。在タイの日本企業は概して日タイの二国籍企業が多いですが、現地適応の重要性と、日本市場の相対的な需要がアジアに対して低下している事実からも、グローバル戦略からマルチナショナル戦略に変化していくことが課題です。

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