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親子争いを乗り越え 大塚家具は脱皮できるのか?

「脱皮現象」の至近要因

 至近要因は、「大塚家具が脱皮する現象の直接の要因は何か?」という問いになる。その要因は既にふれたが、下記の通りである。

【1】2008年以降の業績低迷
【2】業績低迷の要因と再建策に関する経営首脳間(親子間)の意見の不一致
【3】今後の経営方針と経営権を巡る対立と混乱

 久美子社長は、業績低迷の要因を主に「会員制」に求めている。会員制とは、大塚家具の店舗を訪れた全ての顧客が、受付で氏名や住所などを登録した後、付添い店員のガイドで、店内の家具を見て回る仕組みである。久美子社長は、このシステムこそが、消費者に「店の入りにくさ」や「高額家具購買への誘導」などマイナスのイメージを抱かせ、顧客数の減少と売り上げの低迷を生んでいる主因だと見ている。したがって、会員制を止め、「気軽に立ち寄れる店」という「一般的小売のモデル」に転換する方針を掲げる。これに対し勝久氏は、これまでのモデルをさらに継続・深化させるべきだと主張する。

 久美子社長は、勝久氏が創始した事業モデルを否定することで企業の脱皮を目指す。ただ、本人にその意図がなくても、事業モデルの否定が、創業者・前任経営者の否定に繋がり、さらには親子関係の否定として受け取られてしまうのは、ファミリー企業の経営承継にありがちなややこしさである。

「脱皮現象」の究極要因

 究極要因は、「脱皮現象は、企業行動上、なぜ有利なのか」という問いになる。至近要因から自明と思われるが、その究極要因は、以下の3つだろう。

【1】企業統治の回復:ファミリー経営者間の紛争と混乱を収束し、一般株主から経営者への信頼を回復するとともに、経営責任も明確化する。
【2】経営方針の明確化:企業再建への方針を明確化・一本化して、社員、取引先、金融機関などからの支援を確保する。
【3】経営主導権の確保:意見の異なる幹部や社員を排除することで、新経営陣の権力を確立し、経営革新のリードを取りやすくする。
【4】新しい企業・事業モデルの再構築:環境変化に対応して、旧来のモデルを改造して、新たなモデルと競争優位を構築し、生き残りの確率を高める。

 今回の騒動を契機に、経営陣は二つに分裂し、それぞれが自ら信じる道を歩くことになったという訳で、上記の【1】~【3】は、概ね達成されたということであろう。委任状争奪で敗れた勝久氏は、保有株の一部を売却し、その売却益で新たに巨大家具店「匠大塚」を創業した。それ自体の是非は別として、まことに敬服すべき創業パワーと執念である。そこに、大塚家具からも幹部社員の一部が転出・参加している模様である。

 しかし、そもそもの原因である長期業績低迷は、依然未解決のままである。また勝久氏、久美子氏いずれの路線も今後成功していく保証はない状態だ。つまり、まだ【4】の要因の達成は見えていない。

「脱皮現象」の系統進化要因

 系統進化要因を検討してみよう。「大塚家具に、どのように脱皮現象が生じてきたのか」という問いになる。同社のHPにある企業沿革や業績推移を手掛かりに、想像も交えて、仮説を立ててみよう。

【1】1993年の脱皮成功:1969年埼玉県春日部市で大塚家具センターとして創業された大塚家具は、首都圏近郊の家具小売チェーンとして順調に成長したが、恐らくは、バブル崩壊の影響であろうか、1993年に赤字に転落した。ここで、同社は思い切った戦略転換を行う。全店舗の総合インテリア・ショールームへの改装、会員制の開始、巨大店舗の全国主要市場への展開、そして輸入インテリアの大量導入である。
 同社HPにある業績推移の数字を分析してみると、これがどれだけドラスティックな変革だったか、よく分かる。93年度の18店舗が、5年後の1998年度には12店舗と、店舗数は3分の2に減っているものの、一店舗当たりの平均面積は、93年度2,471m2から、98年度9,045m2へと、何と3.7倍に拡大している。輸入品の売り上げ比率は、93年度の6.4%から、98年度は48.2%へと7.5倍に激増している。社員数は、573人から1,060人へと増え、単純に店舗数で除した一店舗当たりの平均社員数は、31.8人から88.3人へと2.8倍となっている。つまり、93年以前の「700坪の中くらいの店舗に国産家具が並ぶごく一般的な家具店」が、93年以降は「平均2,700坪の巨大店舗に高級輸入家具が並び、多数の販売員が付きっきりで応対する」という全く別の事業形態に生まれ変わったのだ。
 この5年間で、売り上げは207億円から492億円へと2.4倍、営業利益も約3億円の赤字から37億円の黒字へ、また営業利益率もマイナスから7.5%へと急回復している。これは、文字通り「脱皮」と呼びうる大変革であり、しかも大成功だったわけである。この脱皮を主導したのは、もちろん大塚勝久氏である。大塚家具には、脱皮成功の歴史があったのだ。

【2】2009年の脱皮失敗:勝久氏が生み出した成功モデルは、しかしその後壁にぶつかり、リーマン・ショックと前後して売り上げと収益が急落し、2009年度には遂に16年ぶりに赤字に転落した。勝久氏は、これを機に長女の久美子氏に社長を譲った。久美子社長は、2009年から社長として、「気軽に立ち寄れる店」の新しいビジョン実現に取り組んできた。しかし、残念ながら、久美子社長の下では、大塚家具はほとんど変わっていない。
 これも、業績数字が如実に物語っている。社長就任時の2009年度と5年後の2014年度を比べると、売り上げは579億円、555億円とほぼ横ばい、営業利益は、14.5億円の赤字から4億円の赤字となって、大きく好転していない。店舗数は、18店舗から16店舗に減ったものの、1万m2前後の巨大店舗と従業員1,700名強の基本構造はほとんど変わっていない。数字を見る限り、久美子社長は、脱皮と呼べるほどの徹底的な変革は行えず、単に表面的に事業をいじったに過ぎないように見える。同社は2014年に再度赤字に転落し、その際、久美子社長が父親からの信任を失い、一時社長を解任されたのは、当然かもしれない。
 残念ながら、父親が1993年に示した強烈な「脱皮」パワーと比べるべくもない。ただこれは、父親がこの間会長として君臨し、娘の社長では思い切った改革が行えなかったからかもしれない。父親=会長には、脱皮パワーと同じくらい、あるいはそれ以上の「脱皮阻止パワー」があるということか。

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