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親子争いを乗り越え 大塚家具は脱皮できるのか?

 こうしてみると、大塚家具の成長には大胆な脱皮成功の歴史があり、また不振の持続には脱皮の失敗の歴史がある。勝久氏には、創業のパワーのみならず、時代環境に合わせて、思い切って過去のやり方を捨て去り、新しい事業モデルに転換させる脱皮のパワーがあった。更に、自分の成功を否定する脱皮を妨害する「脱皮阻止パワー」も強烈である。一方で、後継社長には、残念ながら、創業パワーはもちろん、脱皮パワーも受け継がれておらず、前任者の強烈な脱皮阻止パワーを打ち破る力はなさそうに見える。

 勝久氏の成功モデルでは、<アクセスのよい立地>+<巨大な輸入家具ショールーム>+<会員制による密着接客>+<高価格帯家具への購入誘導>が、いわばセットになっている。大塚家具の賃料と人件費との合計額の対売上高比率は、30~38%に達する。同じ数字が、競合のニトリでは、17%、島忠では15%に過ぎない。つまり、大塚家具の成功モデルは、高コスト(賃料と人件費)が、高価格によって賄われる構造になっているのだ。また、この組み合わせが、大塚家具の対競合差別化要因にもなっていたわけである。

 これに対して、久美子社長は、改革プランとして、会員制の廃止による「気軽に立ち寄れる店」と、「中価格帯と単品購入への顧客の誘導」とを掲げる。いわば、低価格(あるいは中価格)戦略である。これば、顧客の利便性を高めるかもしれないが、この戦略を取る場合、同時に高コスト構造を見直すことも不可欠である。新しい戦略は、単価と購入品目数両方の減少によって客単価を下落させ、顧客の多少の増分程度では補えずに、結果として赤字幅を拡大しかねないからである。したがい、例えば、店舗立地を見直し、店舗面積をコンパクトにし、社員をリストラ・再教育し、非正規社員に切り替えるなど、痛みを伴う手を打って、低コスト(あるいは中コスト)化しないと辻褄が合わないはずである。

 大塚家具の場合、2009年の脱皮時にも、今回2015年の脱皮時にも、会員制の廃止と高価格帯への誘導を止めるというフワフワした戦略だけで、事業構造の見直しには大して重きが置かれていない。つまり、そもそもの脱皮戦略が中途半端なのだ。

 節足動物(昆虫)の脱皮では、単に皮を脱ぎ去るだけでなく、気管などの内臓器官も新しく作り変えると言う。脱皮とは、体全体の作り変えという大変革だ。その意味で、1993年の勝久氏の戦略転換は、文字通り事業構造全体の作り変えであり、脱皮というものにふさわしい変革であった。しかし、2009年と2015年とにそれぞれ久美子社長が掲げた変革は、事業構造の作り変えまでには至っていない。

 また同社長の言う「一般的な小売のモデル」を目指すという考え方自体が、哀しいかな、まことに凡庸である。「一般的な小売のモデル」との明確な差別化を大胆に模索した1993年の勝久氏の戦略性こそが今こそ求められるのに、である。久美子氏は、最も肝心な「戦略的脱皮」能力を父親から受け継がなかったようである。

 NBOのインタビュー記事からは、久美子社長の困惑が伝わってくる。勝久氏がインタビューで「久美子が心配だ」とコメントしているが、あながち父親としての心配や紛争に負けた悔し紛ればかりではないと思われる。娘の企業改革者としての能力に、父親は疑問を呈しているのだ。

「脱皮現象」の発達要因

 順番が前後したが、発達要因は、「大塚家具の経営者が、どのようにして『脱皮』現象を習得していくのか」という問いだ。上記の通り、残念ながら、大塚家具は、脱皮の継承と習得がまだできていないようである。

【1】脱皮スキルの未承継・未習得:優れた戦略的脱皮能力が、後継者には承継されておらず、まだ習得もできていない。これから、行う必要があるが、間に合うか…?

 以上「4つのなぜ」を使って、企業と経営者の進化を考えてみた。

 既に見てきたように、大塚家具の再生は、予断を許さない。徹底的な脱皮が必要だが、凡庸な経営者では難しい。引き受け手があるならばだが、ファンドなどもっと厳しい改革者に委ねた方がいいかもしれない。同様に、勝久氏の「匠大塚」も厳しさは変わらない。勝久氏の創った大塚家具の成功モデルは、今後は日本よりも、富裕層が多く、住宅需要が依然旺盛な中国市場などの方がむしろ向いている。勝久氏の創業・脱皮パワーが新興市場で再び発揮されるのを見てみたい気もする。

(写真:PIXTA) (写真:PIXTA)

 次回は、これまでセブン&アイ、三菱自動車、ソニー、シャープ、大塚家具などの5つのケースで議論してきたことをまとめてみたい。

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親子争いを乗り越え 大塚家具は脱皮できるのか?
今村 英明(いまむら・ひであき)
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)客員教授。信州大学経営大学院教授。東京大学経済学士、東洋大学文学修士、スタンフォード大学MBA。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(シニア・パートナー、上海事務所長、日本法人代表取締役など)を経て、2010年から現職。

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