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構造改革は大都市圏への人口再集中から始めよ

 こうした都市のニューノーマルを理解するためには都市レベルのマーケット・インテリジェンスが必要である。例えば、カーシェアリングなどのように消費者の所有モデルが変化し、車を所有から借りることへとユーザーがシフトしている。シェアリング・エコノミーによる新サービスが次々と創造されている。また、都市は若い才能を引き寄せる力を持っている。都市はそうしたタレントとイノベーションを蓄えてコネクトするプールとしての機能を持っている。これと関連して、都市はラボラトリー(研究所のような空間)として理解されつつある。都市が民間部門と公共部門の実験の場を提供するからである。例えば、生産性を高める、あるいはエネルギーや水の効率的な利用などについての社会的な実験がおこなわれる。また、都市経営の複雑性―不動産価格の高騰、交通混雑、企業が直面する問題。公民連携(PPP)―の管理についても新たな試みがある。

生産年齢人口を六大都市圏に再集中させよ

 今後、日本では東京を含むすべての都市で生産年齢が減少する。まず、これを食い止めないと上記で述べた世界規模の都市間競争には勝てない。例えば、東京圏、大阪圏、および名古屋圏の3都市圏では2030年に向けて約500万人の生産年齢人口が減少する見込みである。一方、その時点の地方圏の生産年齢人口は約3千万人ある。これらの地方圏の人口を振り向ければ3都市圏の人口を増やすことができる。

 そもそも日本には都市が多すぎる。現在268の都市圏がある。そこに約1億2千万人が暮らしているがアメリカであれば17の都市(ニューヨークなど)に収まってしまう。戦後の国土政策は一環して「地方分散」を推し進めてきた。1970年代の列島改造および1990年代以降の多極分散型国土計画などがそれである。今後は、これを逆回転させて、少数の都市に人口を再集中させることが必要である。

 日本経済が長期停滞から脱出するためには日本の国土の上で需要創出型のイノベーションが必要である。イノベーションは生産年齢人口が集積する大都市圏でしか創り出されない。例えば、米国の研究によれば、新製品の96%は大都都市圏で生み出され、しかもその半分は4つの都市圏に集中している。生産年齢人口の集中がイノベーションを生みだし、それが需要を創出し経済を成長させる。

 最後に、図4に示すように、東京圏では2000年初頭に住宅価格デフレから脱却した。

図4 東京圏と米国の一人当たり名目GDPに対する住宅価格の推移(1980年~2014年)

出所 BIS(米国住宅価格)、Quick(新築マンション価格)、日本不動産研究所(中古マンション価格)を用いて筆者作成 出所 BIS(米国住宅価格)、Quick(新築マンション価格)、日本不動産研究所(中古マンション価格)を用いて筆者作成

 特に、一人当たり名目GDPに対する新築マンションの平均価格(図4の点線)でみれば1980年の水準に戻った(なお、中古マンション価格(図4の赤い実線)は、デフレから脱却したとは言え、シフトダウンしたままである。両者の違いは、日本では新築と中古とでは価格水準が異なること、および二つの住宅価格指数の精度が異なることが原因である)。いずれにしても、ニューノーマル下における構造改革は国家という枠組みよりも都市という視点に立つことが重要である。

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構造改革は大都市圏への人口再集中から始めよ
川口 有一郎(かわぐち・ゆういちろう)
早稲田大学ビジネススクール教授
専門分野は、インベストメント、応用ファイナンス
防衛大学校卒業、日本大学工学修士、東京大学工学博士。計算幾何学や人工知能(機械学習)を不動産の価格評価や都市設計に応用する研究に従事。英国ケンブリッジ大学留学中に新しい実学「不動産金融工学」を創始する。2004年より現職。東京大学、京都大学、および慶應義塾大学で客員教授を歴任。2013年Asian Real Estate Academic Society会長。2007年より日本不動産金融工学学会会長。
主な著書:『入門不動産金融工学』、『リアルオプションの思考と技術』(いずれもダイヤモンド社)、『不動産市場の再浮上の条件』、『不動産マーケットの明日を読む』(いずれも日経BP社)、『不動産金融工学』、『不動産エコノミクス』(いずれも清文社)、”International Real Estate; An Institutional Approach”(Oxford; Blackwell Publishers),翻訳書には『リアルエステート・ファイナンス』、『不動産投資ゲーム』(いずれも日経BP社)など多数。

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