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21世紀の企業倫理と経営命題~コンプライアンス超えたIKEAのCSR

21世紀の経営倫理と企業の命題

 そこには、株主価値に基づいて全てを律する今日のコーポレートガバナンスの本質的な課題がある。つまり、株主価値経営とは純化すれば資本の論理による支配に他ならず、従って資本主義の体現者である企業、とりわけ株式会社は、社会や生活者から遊離してでも常に資本の膨張を追い求める宿命にある、ということだ。

 考えるまでもなく、企業のガバナンスは、止むことのない成長の追及、優勝劣敗の徹底、資本の効率的活用、そしてアメとムチ的な功利的インセンティブによる動機づけ、そして私利追及による社会的価値創造、などの資本主義の基本原理により構成されている。従って、上記の企業行動に対する社会的批判は、明らかに資本主義に対する不信でもあるのだ。

 実際に資本主義の危機に関する言説は活発だ。そこに包摂されているテーマは、所得格差などの経済的配分問題だけではなく、資源エネルギー問題や地球温暖化問題などの持続可能性に関する問題や、少子化・高齢化による市場の縮小や社会コスト増大に関する問題、さらには一定の生活水準に到達した後の人々の豊かさや消費行動の問題など、実に広範である。これらの諸問題に対しては、経済的、政治的、社会的、そして思想的な観点から多様な論考が積み重ねられており、資本主義問題は21世紀の中核的なテーマとなっている。

 その中にあって企業は、資本主義の理念を体現する機関そのものである以上、これらの諸問題に対して能動的に関わり、解を模索していく責務がある。しかし、毎期収益へのこだわり、税マネージメントを含むキャッシュ最大化の追求、優秀人材を引き付ける高額報酬など、社会批判が集中する企業行動自体は、資本の論理に合理的な行為であり、その抑制は経営の規律を弱めることにもなりかねず、極めて複雑な問題である。

 既に述べたように、企業が社会的活動を通して自らの事業の持続性を担保し、長期的な価値創造を追求するCSRは一つの解であろう。重要なことは、それを業績面で妥協することなく実現することであり、それにより人々を動機づけし、市場からの支持に結びつける経営の努力である。これこそが資本の論理も包含した21世紀の経営者倫理であり、コーポレートガバナンスの要諦となるべきである。

 最後に、なにより企業には、イノベーションやリスクテーキングを通して、上記の資本主義の危機とされる一連の社会問題に対して企業ならではの解決策を生み出すことこそが期待されている。極論すれば、社会問題の解決を通した市場創造こそが21世紀の企業の命題と言えるだろう。それでこそ企業は、社会や市民からの信頼を獲得し、そして新たな株主価値を創造することができるはずだ。

セブン&アイとクックパッドの経営者人事問題

 最近になって、経営者交代を巡って注目を集めた二件の事案が発生した。セブン&アイ・ホールディングスと、料理レシピサイト運営のクックパッドである。両ケースは、一見対称的な結果に終わっており、興味深いのでコメントしておこう。

 セブン&アイ・ホールディングスでは、同社の発展を長期にわたりけん引してきた実力会長が、グループ会社の経営者人事に関して自身の意向を押し通そうとしたところ、取締役会の支持を得ることができずに、逆に本人が交代に追い込まれていったものである。もう一社が、料理レシピサイト運営のクックパッドの経営者交代である。このケースは、創業者及び最大株主である人物が実績ある現役社長を解任し、自身が押す外部人材と入れ替えたのである。

 正確には前者は、人事を巡り親族を優遇しているとの懸念を投資家やメディアからも指摘されていた中で、先のグループ経営者人事案が取締役会で正式に否決されたことにより、経営混乱の責任を取って自ら退任を選ぶことなったものであり、後者は44%の株を保有する創業者の取締役案が株主総会で可決されて、その直後の取締役会により創業者が推す新たな経営者が選任されたのである。

 その差は明らかである。いくら実力会長であっても、取締役会の支持がなければ、経営者人事を行うことはできない一方、いくら社員や外部のメディアが反発をしたところで、株主の意向を受けた取締役会の支持により、どのような経営者の交代でも可能だということだ。つまり、一見対照的な結果に終わった両ケースだが、ここで結局確認されたことは、会社は株主の持ち物であり、経営者はその株主の負託を受けて経営を行うという株式会社のガバナンスの原則である。

 もちろん、前者のケースでは、最終的に辛うじて取締役会が独立性を発揮したが、それまでは実力会長の思うがままに経営をさせてきたきらいがある。また、後者の場合は、そこまで創業者が自身の意向を経営に反映させたいのであれば、上場を廃止して大半の株式を自身で所有するのが筋であり、どちらもガバナンスの好事例とは言えない。

 とは言え、大半の企業における経営者交代では、その選任のプロセスも理由も曖昧にしたままに予定調和的に進む。その結果、このガバナンスの原則が曖昧になり、ひいては経営の基軸が曖昧になり、ガバナンスが形式化し、経営の規律が緩むことにつながる。本稿で繰り返し述べてきたように、株主価値経営とは株主価値を規律とする経営であり、それを体現する上で経営者人事こそがコーポレートガバナンスの中心命題なのである。

 今回の二社の荒々しい経営者交代劇は、図らずもガバナンスの原則を強く思い知らせることになった。重要なことは、このような特異な事例を通して、我々が株式会社の制度への理解を深め、経営者と取締役会の関係性について認識を高め、そして株主価値経営の本質を知ることなのである。

(平野正雄教授のコーポレートガバナンス論は今回が最終回です)

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21世紀の企業倫理と経営命題~コンプライアンス超えたIKEAのCSR
平野 正雄(ひらの・まさお)
早稲田大学ビジネススクール教授、スタンフォード大学工学修士、東京大学工学博士。元マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、カーライル・ジャパン日本共同代表。グローバル戦略、コーポレートガバナンス、M&Aなどが専門。

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