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日米で真逆のガバナンス改革~株主価値経営のねじれ問題とは?

株主価値の創造を規律にしない経営とは

 それでは、株主価値の創造を規律にしない経営とは、どのようなものか挙げてみよう。

 例えば、構造的に低収益体質に陥っている事業を、現場が奮闘しているからと言って、経営として踏み込んだ改革に手を付けないことになる。あるいは、多くの人員が関わる主力事業であるという理由だけで、成長が見込めない事業に引き続き多くの経営資源をつぎ込むことになる。さらには、キャッシュに余裕があるからと言って、無謀な海外企業の買収を企てることにもなる。これらの規律ない経営は、そのまま株主価値の破壊となる。

 反対に、追いつめられる前に事業の構造改革に手をつける、低成長の主力事業から成長力の高い事業に経営資源をシフトする、経営戦略的に実効性がある企業買収を着実に進める、などのことを実現するのが規律ある経営となる。そのことが株主価値の創造に結び付くのであり、株価の上昇は目的でなく、その結果なのである。

 かつて、1990年代に日本企業の経営者に株主価値経営論を筆者が持ち出すと、それは英米流の株価や株主を中心に据えるような経営と一蹴されて、反発を買ったものである。だが、多くの企業が経営環境の変化に対応できずに、長期的な企業業績の低迷と競争力の喪失を招いたことから、日本企業の経営の規律問題が浮上してきたのだ。

 つまり、戦後長く機能してきた株主の影響を遮断したような日本型ガバナンスの下では、十分に経営の規律が効かず、改革が後手に回ったという反省から、経営の規律という本来の意義での株主価値経営が受け入れられる土壌がようやく整ったのである。昨今の一連のコーポレートガバナンス改革が日本企業で浸透しつつあるのも、このような株主価値経営の意義に関する認識が、株主(株価)至上主義から経営の規律付けに変化してきていることの現れなのである。

 では、社外役員制を導入し、委員会等設置会社に改編し、事業計画を投資家に開示してIRを強化すれば、本当に経営の規律は高まり、株主価値の創造に結び付くのであろうか。

 いち早くガバナンス改革に取り組んだソニーは長期の企業低迷に苦しみ、先進的ガバナンス企業と評価されていた東芝において重大な企業不正が行われていたではないか。次回は、このアイロニーについて考えることで、さらにガバナンス論を深めてみよう。

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日米で真逆のガバナンス改革~株主価値経営のねじれ問題とは?
平野 正雄(ひらの・まさお)
早稲田大学ビジネススクール教授、スタンフォード大学工学修士、東京大学工学博士。元マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、カーライル・ジャパン日本共同代表。グローバル戦略、コーポレートガバナンス、M&Aなどが専門。

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