出世ナビ 記事セレクト

白熱MBA講義

国債だけでなく不動産市場にも価格ターゲットが必要

 国債価格ターゲット自体は新しいものではない。大量に国債を買い入れるとイールドカーブが変化するから、QEとイールドカーブのコントロールは同義語である。また、伝統的な金融政策が短期金利(政策金利)のみを誘導の目標とするのにたいして、QEは短期と長期の金利、すなわち国債価格を操作の対象としているのだ。

 ところで、金融危機以降、米国の中央銀行(FRB)は日銀にならってQEを導入した。米国のQEは日本のものとは異なっていた。両国のQEのメカニズムは同じであるが、購入する資産のタイプが異なる。日本QEでは国債が買入の対象であった(2010年12月以降、ETFおよびJ-REITも対象となった)。これに対して米国のQEでは国債と証券化商品(住宅担保ローン債券:MBS)が購入の対象となった。当時、米国は住宅価格の暴落に対応する必要に迫られていた。国債買入によるQEでは実体経済への影響がおよぶ先を特定できない。FRBは、問題を抱える住宅市場に大量のマネーを供給するために、大量のMBSを購入した。米国QEのポイントは国債やMBSのイールドカーブをコントロールするというオーソドックスなものである。

 日本のQEは、世界でも例がないのだが、大量のETFおよびJ-REITを購入している。両市場の官製相場化は6年の長きにわたっている。ETF市場もJ-REIT市場も、日銀の介入と自由競争とを組み合わせた混合資本主義体制下におかれている。これらの資産価格ターゲットも公衆と共有する必要がある。

官製相場による市場の歪みと経済の不均衡

 官製相場には副作用が伴う。その副作用は市場機能の消失およびマクロ経済の不均衡の蓄積といった問題に大別される。前者は①市場の流動性が低下すること、および②リスクのミスプライシングから成る。また、後者は③資産価格上昇を通じた資金調達コストの低下に伴って過剰債務が発生することである。

 市場の流動性が低下するという副作用は国債市場で著しい。大規模な国債買い入れが長引く中、国債売買高は2004年以降最低である(日本証券業協会調べ)。また、日銀によるETFの購入額倍増が、日本株の薄商いを招いている(QUICK調べ)。海外勢の一部は日銀相場に背を向け始めている。なお、米年金などが「株価形成が不可解」として日本株離れを加速するリスクがあると指摘されている。価格形成の歪みはJ-REIT市場でも観測される。例えば、日銀が5%以上の大量保有している12銘柄は他の銘柄に比べてアウトパフォーム、また、前者と後者の銘柄の価格の間には統計的に有意な先行・遅行関係がある。これらの関係は人為的に作られた。

 また、リスクのミスプライシングは「バリュエーション・ギャップ」という形で投資家を悩ませている。不動産投資市場の例を示そう。今年の上半期、J-REITが保有する不動産の価格はさらに上昇し金融危機後の高値を更新、前回のバブル時の価格水準に近づいた。しかし、リスクプレミアムでみると、不動産価格はもっと高い値がついてもおかしくない。長期金利がプラスからマイナスに下落しリスクプレミアムが拡大したことがその原因だ。投資において絶対評価(価格の水準そのもの)で判断するか相対評価(その利回りと長期金利の格差)を用いるかによって結論が異なる(この問題は日本だけでなく世界中の不動産市場で起きている)。こうしたバリュエーション・ギャップは前回の金融危機の直前にも生じていたので注意が必要だ。

 最後に、現在の日本経済における不均衡の例は相続税対策のための賃貸アパート・賃貸マンションの建設ブームである。相続税制の改正の影響が大きい。賃貸住宅投資は相続税の節税効果が大きく、富裕層を中心にこれを活用する投資がブームとなっている。首都圏のある県では空室率が3割に達しているが、ブームが沈静化する気配はない。将来の人口減少を考えると3割の空室が埋まる可能性はゼロだ。近い将来に破綻が見込まれる投資案件に少なからぬ融資がなされている現状は2000年代の米国のサブプライムローンの状況に似ている。以上のように、相続税の歪みと異例の金融政策の副作用が複合して首都圏の住宅市場のいたるところに不均衡が蓄積されている。また、QEによる人為的な不動産価格の上昇がこれを覆い隠している。

  • 「伝わる文章力トレーニング」講座

    続きを読む

  • 基礎から学ぶマーケティング

    マーケティング思考の「基本の型」が1日で身につく続きを読む

  • 管理会計マスターコースⅠ・Ⅱ

    業績管理から戦略策定まで、経営管理に必要な知識・ノウハウ続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • オンライン講座
  • EE研究会
  • 便利な使い方
  • 日経からのお知らせ枠・社告欄