出世ナビ 記事セレクト

白熱MBA講義

国債だけでなく不動産市場にも価格ターゲットが必要

不動産価格ターゲットの導入を

 日銀はQEの金融市場や不動産市場への副作用を監視しその結果を定期的に報告している(『金融システムレポート』)。これによれば、「不動産業実物投資の対GDP比率」は2014年後半から市場が過熱していると警告している。しかし、別の指標「不動産業向け貸出の対GDP比率」および「地価の対GDP比率」でみればそうではない。日銀は不動産市場全体としては過熱の状況にはないと総括している(同上2016年4月号79ページ)。

 次のことに注意しなければならない。地価の対GDP比率および不動産業向け貸出の対GDP比率は前回のバブルには反応しなかった。リーマンショック前に予兆管理指標として機能した指標は不動産業実物投資の対GDP比率だけである。また、この指標と過去2回の不動産価格崩壊のタイミングの関係は、この指標が今年の後半も引き続き警告を発するようであれば、近い将来に不動産価格が大きく下落することを示唆している。

 ところで、日本の過去23年間の平均でみれば、株価と不動産価格(首都圏の住宅価格)の成長率はほぼ同じである。J-REITが官製相場化された約6年間(2010年12月から2016年9月)の東証REIT指数の上昇率は年率約15%である。一方、私の研究室で実施している「不動産短観調査」によれば、同一期間のJ-REITが保有する不動産価格に対する投資家の予想成長率は+0.5%程度である。これらを単純に比較することはできない。しかし、J-REIT価格の成長率とその裏付けとなっている不動産価格の成長率との格差は大きすぎる。

 国債市場に価格ターゲットが必要なように、日銀相場化した不動産市場にも価格ターゲットが必要である。その理由はこれまで述べた通りである。例えば、今後10年の六大都市圏の不動産価格の成長率は年率1%程度とする、といったターゲットを導入してはどうだろうか。将来の不動産価格の長期トレンドを日銀の政策目標として設定することにより自由市場がそのトレンド周りの変動を決める。このような不動産価格の形成は混合資本主義という発想に基づくものである。

 日銀のイールドカーブを誘導するという政策はまさに混合資本主義である。また、これはニューノーマルの一つの特徴でもある。

この連載の一覧

◇   ◇   ◇

国債だけでなく不動産市場にも価格ターゲットが必要
川口 有一郎(かわぐち・ゆういちろう)
早稲田大学ビジネススクール教授
専門分野は、インベストメント、応用ファイナンス
防衛大学校卒業、日本大学工学修士、東京大学工学博士。計算幾何学や人工知能(機械学習)を不動産の価格評価や都市設計に応用する研究に従事。英国ケンブリッジ大学留学中に新しい実学「不動産金融工学」を創始する。2004年より現職。東京大学、京都大学、および慶應義塾大学で客員教授を歴任。2013年Asian Real Estate Academic Society会長。2007年より日本不動産金融工学学会会長。
主な著書:『入門不動産金融工学』、『リアルオプションの思考と技術』(いずれもダイヤモンド社)、『不動産市場の再浮上の条件』、『不動産マーケットの明日を読む』(いずれも日経BP社)、『不動産金融工学』、『不動産エコノミクス』(いずれも清文社)、”International Real Estate; An Institutional Approach”(Oxford; Blackwell Publishers),翻訳書には『リアルエステート・ファイナンス』、『不動産投資ゲーム』(いずれも日経BP社)など多数。

  • 「伝わる文章力トレーニング」講座

    続きを読む

  • 基礎から学ぶマーケティング

    マーケティング思考の「基本の型」が1日で身につく続きを読む

  • 管理会計マスターコースⅠ・Ⅱ

    業績管理から戦略策定まで、経営管理に必要な知識・ノウハウ続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • オンライン講座
  • EE研究会
  • 便利な使い方
  • 日経からのお知らせ枠・社告欄