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セブン&アイの鈴木会長退任劇を4つのなぜから考える

鈴木氏の退任は遅きに失した

 至近要因や系統進化要因を見ると、鈴木氏の真骨頂は、新しい業態の立ち上げ、単一事業の磨き込み、顧客・店頭データからの市場の読み取りとマーケティング、仮説―検証による組織的学習の指導、そして徹底的な実行力だった。

 しかし、S&I HDは、コンビニを含む多数の事業の集合体、コングロマリットである。その経営者に必要なのは、事業の入れ替え・リストラ・再生などの事業ポートフォリオのマネジメント、事業間シナジーの創出、異なる事業を束ねる共通の価値観の形成、多様な経営チームの形成などである。

 つまり、「究極要因」が変わったのだ。鈴木氏の傑出したスキルや経験は、コングロマリットの総帥として求められるものとは、すでにミスマッチが生じていたのではないか。その証左として、賞味期限切れの総合スーパー業態(イトーヨーカ堂)のリストラも、業態間シナジー追求の一環であるオムニ・チャネル戦略も、鈴木氏と鈴木氏の子息の下で遅々として進んでいない。自ら手塩にかけて育てた企業グループは、生みの親の経営能力を超えて進化し、生みの親を陳腐化させてしまった。また強い経営者の存在自体が、逆に企業進化を制約する要因ともなってしまったのではないか。

 鈴木氏は、本来もっと早く身を引き、異なるタイプの経営人材を育成するか、外部から雇うかして、企業革新を主導させるべきだった。今回の退任は、遅きに失したのではないだろうか。

 なぜもっと早く辞められなかったのか? カリスマに限らず、リーダーをリーダー足らしめるのは、常に追随者(フォロワー)である。社員・店舗オーナーたちが鈴木氏をカリスマ的権威として扱い、また本人もそれを受け入れ超越的な存在として自己認識してきた可能性は高い。

 後継経営者の役割の一つは、前任経営者の限界を乗り越えること、すなわち前任者を否定することである。カリスマ的権威者には、それは受け入れがたいことだったであろう。したがい、カリスマ独裁経営者が、成功している内に自ら身を引くことは考えにくい。辞めるのは、病気・死亡などの生物的要因か、不祥事などによる引責辞任か、オーナー家などの内紛による解任か、ということが多い。そう考えると、今回の鈴木氏退任は、むしろ比較的「平和的」だったという見方も成り立つ。

鈴木氏の後任トップはS&iをうまく経営できるか?

 第二の問いは、「鈴木氏の後任トップは、今後S&iグループをうまく経営できるか?」 である。

 「4つのなぜ」分析からこの問いに対する仮説を考えると、「S&iグループ業績は安定し、大きなトラブルにはならない。しかし、早晩グループの再編が行われるだろう」である。

 グループの中核事業であるコンビニと金融事業は安定している。また至近要因で見たように、経営トップを支えるメカニズムが確立している。実際これまでの数年間は井阪隆一氏がコンビニの社長を務め、実績も上げている。したがい、新政権下でも、中長期的な成長課題はさておき、当分の間中核事業は問題ない。

 一方で、グループ内の他事業は、中核事業に比べ、収益力が格段に低く、企業価値を損なっている。オムニ・チャネル戦略も不発に終わりそうである。これに対し、新経営陣は鈴木型リーダーで、鈴木氏同様コングロマリット経営能力や経験は少なく、かじ取りには困難が予想される。早急にグループ経営ができる人材を登用・雇用する必要があるが、社内外にそうした人材は少ない。とすると、経営陣の力量に合わせて、事業群を得意の中核事業を中心に思い切って絞り込むのが適切と思われる。

 以上「4つのなぜ」を使って、企業と経営者の進化を考えてみたが、いかがだったろうか? 次回も、また別のケースで試してみよう。

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セブン&アイの鈴木会長退任劇を4つのなぜから考える
今村 英明(いまむら・ひであき)
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)客員教授。信州大学経営大学院教授。東京大学経済学士、東洋大学文学修士、スタンフォード大学MBA。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(シニア・パートナー、上海事務所長、日本法人代表取締役など)を経て、2010年から現職。

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