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白熱MBA講義

「ティンバーゲンの4つのなぜ」が教える企業生き残りのカギ

創業者の成功と失敗の体験は企業DNAの役割を果たす

2.系統進化要因の分析から何が学べるか?

 5つの記事ケースの系統進化要因をまとめたものが添付 である。ここから、私たちは何を学べるのであろうか?

「系統進化要因」5つのケースのまとめ 「系統進化要因」5つのケースのまとめ

(1)創業(者)体験の企業遺伝子(DNA)化

 企業の創業期の経験や創業者の個性が、良い面・悪い面の両面でその後の企業行動に長く影響を与え続けることである。

 セブン&アイでは、退任した鈴木敏文氏の前任者で、グループ創業者伊藤雅俊現名誉会長の影響力が大きい。もともと伊藤氏の経営姿勢に、借金嫌いによる慎重さ、収益重視、売り場(マーケティング)重視、本業重視などがあった。それがグループ経営の基本思想となり、鈴木氏を含めた後継経営者にも伝わっている。同社が、他の流通企業に比べて、一貫して高い収益を上げ続けているのも、この伊藤氏の思想が経営のベースにあるからだ、と言われる。一方で、この思想は、従来の業態多角化などに慎重な経営方針にもつながってきた。それがために、同グループの最近の急激な多角化や事業構造改革に対して、経営能力構築が追い付かず、業績の足を引っ張る要因にもなっていると見られる。

 ソニーの場合は、「技術者の自由闊達で愉快なる理想工場建設」という創業理念が、その後の画期的な製品開発に結実した。同時に、その理念は、「緩い管理」の土壌を生み、長年の低収益構造がなかなか改善しない要因ともなっている。また創業者の盛田昭夫氏などが生み出した世界的大ヒットの体験は、反面で、同社社員に「ホームラン頼み」、「カリスマ・トップ待望」のメンタリティを生み出したり、後継経営者を育てられなかったりして、その後のソニーの進化を束縛している。また創業者が始めた、エレキ事業との関連性の薄い多角化事業群は、エレキ事業の不振を補う収益源に育ってきた反面、「技術者の理想工場」というソニー創業以来のアイデンティティを希薄化させる要因ともなっている。

 このように、創業時期や創業者の成功と失敗の体験は、その後の企業の発展軌道に良くも悪くも作用し続ける遺伝子(DNA)的な役割を果たし続けるようである。企業や経営者を分析するときに、創業前後の成功と失敗の歴史を繙くのは、企業の個性的な行動特性を理解する上で非常に有益だと考えられる。

過去の煌びやかな成功はその後の失敗の要因でもある

(2)「成功は失敗の素」、「成功体験は変身の邪魔もの」

 企業や経営者の成功体験は、その後の失敗や挫折の遠因となる。また成功体験は、企業が環境に適応して変身するのを阻害する。

 ソニーの過去の成功は、「スーパー・テクノロジスト経営者」と「自由闊達な文化」に対するステークホールダーの思い込みを生み出し、その後の企業進化を制約していることは前項で述べた。

 シャープは元々「目の付け所がシャープでしょ」というCM通り、ユニークな商品を開発する手堅い企業だった。しかし、「亀山モデル」と呼ばれる巨大な液晶パネル工場を軸とした垂直統合のビジネスモデルの成功は、恐らくその後同社を不幸な身売りに追い込む契機ともなった。

 大塚家具創業者による「会員制大規模輸入家具販売店」モデルの大成功は、後継者による改革を茨の道にした。セブン・イレブンの成功体験は、コンビニ以外の事業に対する経営のフレキシビリティ(柔軟性)を失わせる要因ともなっている。

 つまり、過去の煌びやかな成功は、その後の失敗の要因でもある。成功した事業モデルは、企業進化に必要な創造性を窒息させる頑なさを内包する。モデルからの逸脱を咎め、新たな試みを頭ごなしに否定しかねない。成功した過去の経営者は、二重に企業進化の桎梏となる。一つは、社員やOBたちに過去の栄光への憧れと回帰を促す象徴として、一つは、新たな企業像を創造するために苦しむ現役経営者を貶める比較材料として。

 まことに、成功は、失敗の素である。そして、成功体験は、変身の邪魔ものである。

>> 新たな段階に進化し続けるには「異端児」経営者が必要

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