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白熱MBA講義

「ティンバーゲンの4つのなぜ」が教える企業生き残りのカギ

新たな段階に進化し続けるには「異端児」経営者が必要

(3)突然変異が革新の原動力

 創業期・創業者の成功体験が固着化し、桎梏となって、その後の企業進化を制約するとき、その制約を突破して新たな進化を推し進めるのは、突然変異である。突然変異が無ければ、企業は単に「企業遺伝子(DNA)の乗り物」に過ぎなくなり、早晩環境変化に適応しきれず衰退する。

 セブン&アイの鈴木敏文氏は、全く小売の営業現場経験がないという流通業界では異色のキャリアである。同氏は、前任の伊藤氏の企業DNAを引き継ぎつつも、社内の反対を押し切り、コンビニという新しい業態を立ち上げた。さらに、統計と心理学によって市場変化を読みとり、徹底的に現場を変えていき、従来の業界の常識に捉われない経営手法を確立した。まさに、突然変異とでも呼ぶべき存在であった。この突然変異がなければ、イトーヨーカドーは、平凡な中規模の流通企業で終わっていたであろう。

 シャープの第4代社長町田勝彦氏は、前述の「亀山モデル」を創出した。その後を継いだ第5代片山幹雄氏は、亀山方式を更に巨大化した液晶コンビナートを堺市に建設した。これらの方式は、手堅い、着眼点のユニークさで勝負する従来の経営スタイルとは大きく異なる。やはり、シャープの歴史の中で、突然変異と呼びうる変化である。この突然変異は、シャープを新しいステージに進化させ、世界トップクラスの液晶パネルメーカーという地位に押し上げた。

 逆に、ソニーも大塚家具も三菱自動車も、後継者たちは新しい企業像を目指して、企業変身に取り組んできたが、残念ながら突然変異と呼べるほどのドラスティックな変化を引き起こしきれなかったようである。創業時の遺伝子を引きずったまま、負の遺産の処理に追われてきたような感がある。

 企業が歴史の軛を解いて、新たな段階に進化し続けるためには、やはり異端児と呼びうるような経営者が出現し、社内の反対を押し切って、大胆な企業革新に取り組むことが不可欠のようである。過去の成功度が大きいほど、突然変異の必要度は高く、またその実現の困難度も高い。

 ただ厄介なのは、仮に突然変異が起きたとしても、それが最終的に企業の生き残りのために、良い変異なのか、悪い変異なのか、事前にはなかなか判断がつかないことであろう。変異によって企業が成長するか、あるいは失敗して企業が淘汰されるかして、初めてその変異の意味を事後的に知りうる。ここに、企業進化における突然変異の重要性とリスクを感じる。

ベスト・プラクティスはお手本にはならない

おわりに

 歴史を学び、当事者の「合理性」を理解してみる大切さ

 どんなビジネス現象も、歴史と現在の接点で発生する。現在の至近要因や究極要因を見るだけでは、現象の要因を十分理解できない。少し迂遠に感じるかもしれないが、必ず過去どんなことがあったのか、掘り下げて理解することが大切である。一見、不可解、あるいは非合理として非難されるような経営行動でも、歴史的に形成された行動パターンと構造の中では、当事者たちは、それぞれが「合理的」に判断して行動している、と考えてよい。「当事者がなぜそういう行動をとっているのか」を、まずは当事者が合理的だったと仮定して理解を試みることによって、その行動の背景にある長期的・組織的・構造的な要因に迫ることができる。

 成功が内包する失敗の芽を疑う大切さ

 メディアで紹介される成功企業を見たり、成功する経営者の発言を聞いたりする時、無批判に有難がってマネすることは、慎まねばならない。成功要因は、もっと長い時間軸でみると、いずれは失敗要因に転じたり、進化の束縛要因になったりするからである。また企業の成功は、多くの場合、その企業固有の歴史的な発展経路と条件の中で出現した形態であり、ある意味歴史的一回性とも言いうる現象である。その歴史的な経路と条件を共有しない他者には、なかなか再現が難しい体験である。そういう意味で、ベスト・プラクティスというのも、全く無意味とは言わないが、せいぜい経営を考えるヒント程度であり、絶対的なお手本視することはくれぐれも慎まねばならないだろう。

 これで、この連載を終える。読者の皆さんには、辛抱強くお読み頂いたことに対し改めて感謝申し上げると共に、拙文が皆さんにとって何かの刺激になれば幸いである。

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「ティンバーゲンの4つのなぜ」が教える企業生き残りのカギ
今村 英明(いまむら・ひであき)
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)客員教授。信州大学経営大学院教授。東京大学経済学士、東洋大学文学修士、スタンフォード大学MBA。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(シニア・パートナー、上海事務所長、日本法人代表取締役など)を経て、2010年から現職。

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