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白熱MBA講義

ビジョンと理念による統合的ガバナンスの実現

株主サイドの課題や変革の必要性

 さて、これまでもっぱらガバナンス問題として、企業側の課題や改革への取り組みを扱ってきた。だが、株式会社のガバナンスを論じるのであれば、投資家=株主サイドの課題や変革についても述べなければ片手落ちとなるので、簡潔に触れておこうと思う。

 本稿の第2回において、米国のコーポレートガバナンス問題の中心は経営者の暴走をいかに食い止めるかにある、と書いた。実際、1960年代の米国ではコングロマリット経営が流行したが、結局は経営難に陥り、結果として株主価値を破壊させたことも記した通りである。つまり、この頃から投資家たちは、企業の放漫経営を問題視しはじめるが、まだ経営者に規律を直接的に与える有効な手立てはなく、せいぜい株式の売却程度であった。

 だが、1970年代以降様々な金融技術の革新があり、市場で株式を買い占める敵対的買収や、格付けの低いジャンクボンドによる資金調達、さらには買収先企業のキャッシュフローを対象としたLBOローンなどの手法が発達した。その結果、株価が低迷している企業の株式が市場で買い上げられることで買収対象とされるようになった。

 放漫な経営を行っていた経営者は、会社が買収もしくは転売によって自分の首が飛ぶことを、その時に知ることで愕然とすることになる。Fiduciary dutyと言っても、概念だけでは中々人は律せられないものだ。つまり、何らかの警告や圧力が必要だということだ。そこで、このような望まぬ買収者が登場することにより、初めて経営者は自ら業績を改善し、投資家の信頼を得ることの重大性を意識するようになったのである。

 その後、敵対的買収のブームは下火になるが、やがて株主として大きな存在感を示すようになるのが、年金基金や政府系ファンドなどの巨大な機関投資家である。彼らが、株価に不満があるからと言って、保有株式の売却を市場で行うと、それこそ対象企業の株価の暴落を招くことから、むしろ株主として経営者に注文をつけることで、企業の業績改善を促す道を選ぶことになる。いわゆる「物言う株主」の台頭である。

 さらに近年は、会社を狙い撃ちにして空売りなどを仕掛けてくるヘッジ・ファンドや、数パーセントの株式保有ながら経営者に様々な提案を持ち掛けるアクティビスト・ファンドなど、低利の借入金を活用しながら、多様な手法で企業に圧力をかけてくる新たな投資家層も台頭している。さらに、投資家にアドバイスをする証券会社のアナリストも増大し、企業は四半期ごとの業績開示が求められ、その数字が計画に届いていなければ、失望売りを招くことになる。

 そうした市場からの圧力に辟易した経営者には、PEファンドと組んでMBOという道も開かれた。1990年から2000年代は、まさに金融資本主義の爛熟期の様相であった。

求められる投資家の責任と成熟

 そこに、いわゆるリーマンショックが発生する。危機を引き起こした直接の原因は、米国の住宅ローン市場の崩壊と、それに関連した金融派生商品の価値暴落であったが、極端に短期志向で投機的性格を強めていた株式投資についても見直しの機運が高まる。特に、欧州においては、短期の株式の売買に対する規制や税の導入も議論されるが、結局のところ市場に対する規制強化には反対論も根強く、実現に至ってはいない。

 その一方で、機関投資家の望ましい活動姿勢を定めたスチュワードシップ・コードが英国で定められ、そして昨年、日本版スチュワードシップ・コードが導入されるに至った。スチュワードとは、財産管理人の意味であり、スチュワードシップ・コードとは管理人の心構えということである。

 その定義を金融庁の資料から抜粋すると、「スチュワードシップ責任とは、機関投資家が、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な『目的を持った対話』(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンを確保する責任を意味する」、とある。この中でキーワードは「エンゲージメント」であろう。

 文中では「目的ある対話」と定義されているが、企業は投資家の期待や懸念を、投資家は企業の中長期的な成長戦略を、それぞれ理解することで、持続的な株主価値向上へのコミットメントと支援を互いに約束するような行為と考えれば良いであろう。

 要は、企業が四半期ごとの業績達成に追われて、投資家はその結果に一喜一憂して株式を売買するような関係を改善しようとする営みである。このように市場、すなわち投資家も成熟することによって、より良きコーポレートガバナンスの実現を模索しているのである 。

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ビジョンと理念による統合的ガバナンスの実現
平野 正雄(ひらの・まさお)
早稲田大学ビジネススクール教授、スタンフォード大学工学修士、東京大学工学博士。元マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、カーライル・ジャパン日本共同代表。グローバル戦略、コーポレートガバナンス、M&Aなどが専門。

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